4章の2 戻れないと認めてしまう気がするから
泥縄第二生徒会執行部のクリスマスパーティーには、呼んでいない女子が2人紛れ込んでいた。一人は新聞部&超常現象研究部の部長・ナハ。もう一人は演劇部部長・ホキ。ナハはキラ推しのあまり、ホキは「魂の囚われ人・マヤ」を解放する信念から、ともにスシマヤの関係解消を画策している。スシはその二人に引っ張られ、会場の隅に座らされていた。
「ナハだけど、スシくん! きょうはわたしにエライ恥かかせてくれたわね!」
「え?」
「とぼけんな! なんで『あんあんアンブレラ』に、キラと一緒に乗ってくれなかったのよ!」
スシはむっとしたが、ナハは部外者。女子役員に化身して隣に乗ったとは言えない。
「こうなったら、キラを会長にする署名を、偽造で水増しして提出してやるう!」
「いや、偽造しなくても、そのまま出せばいいでしょ。それなりの数があるんだから」
「でも、スシくんをもっとオタオタさせたいから」
「だから、執行部としてはね、きょうを乗り切ったから。あしたが冬休み前最後の学業日だから。生徒会規約で、総会は開催通告の翌日以降でないとできないでしょ」
「まあ、そうよね」
「そうすると総会は早くて冬休み開けになるから、もうキラさんは移籍してしまっている。議決によってムリヤリ生徒会長にしても、名誉的、観念的なものにとどまる。オレは会長代行に格下げにはなるけど、実質的には会長を続けることになる」
「たとえ名目でも、キラを会長にできるなら、それでもいいわよ」
「でも、署名は『学校を去る前に会長にしよう』という趣旨だから、前提が変わってくる」
「それには間に合わなかったけど、やるだけやった、という満足感を得たいのよ」
「オレは、4月に泥縄第二と第三が合流して、キラさんがこっちの校舎に戻ってくると信じて、いや、絶対そうするんだと思って、やっている」
「うれしいわ」
「だから、戻ってくるまで、何も特別なことはしたくないんだ。戻れないと認めてしまう気がするから」
「なんか、うまく言い逃れされた気もするけど」
「そんなことないよ」
「じゃあ、ラスト1周プラスアルファで、たとえばわたしがスシくんと一緒に乗りたいと言ってたら、どうしてた?」
「どうしてそういう話になるのかわからないけど、キラさんに『ナハと乗ってほしい』と言われたら、乗ったと思う」(労に報いる意味合いなら、クモヤさんもマヤさんもクロハさんも、たぶん納得してくれただろうしね)
「そう・・・」
「ナハさんは、キラさんを会長にする無理筋でエネルギーを浪費するより、キラさんが戻ってきたあとの会長選挙の支援に、全力を注いでほしい」
「スシくん、いい人ぶらないでよ。わたしが全力出したら、スシくんを落選させるなんて簡単なんだから。スシくんが困る事態になるんだから」
「ぼそぼそ、落選というか、そもそもオレは立候補するかどうか。スシ、目が泳いで、近くの物を見つめたり、遠くの物を見つめたりする。さて、いまはどっちを見つめているかな? とおくん。スシとおくん」 ※とおくん=方言で、遠くの物の意
「何か言った?」
「聞こえなかったなら、いいよ」
「署名はもう集めちゃったから、捨てるわけにもいかないし、あした選管委員長のレサさんに渡すわ。あとはそっちでどうにかしてちょうだい」
「わかった」
「あんあんアンブレラ」の上でキラが言った「スシに特別なことをしてもらうと泥縄第二に戻れなくなる気がした」という言葉に導かれ、どうにかナハを鎮めることに成功した。スシはほっとして、ホキの方に向き直った。
「ホキだけど、スシくん。わたしのこと、ほっといてくれたわね」
「ナハさんの話が長いんだってば」
「あしたの女子バレーボール部の全国大会の壮行会なんだけど、別に頼まれてないけど、わたしがプロデュースすることにしたから。演劇部長権限」
「プロデュースう? 壮行会って、担当の先生が進行して、校長代行のキクハ先生とオレが激励のあいさつして、レサさんが『戦ってきます』と言って、それで終わると聞いているけど。プロデュースう?」
スシは夏に野球部が甲子園に出場した時、まだ生徒会長ではなかった。壮行会であいさつするのは今回が初めてだ。しかし前回、クロハ会長=肩書は当時=があいさつするのを、マヤ副会長に化身して間近に見ているだけに、演劇部長が介在する壮行会というのに違和感を覚えた。
「夏の壮行会のとき、地元メディアが取材に来たのに、特に目玉もなく終わったでしょ?」
「別にいいじゃないか」
「キクハ先生が、それじゃあ芸が足りないんじゃないかって言うのよ」
「でも、今回、取材があるなんて聞いてない」
「結果的には、テレビの取材申請はなかったんだけどね」
「そうでしょう、そうでしょう」
「でも、わたしは動き始めてしまったので、止められないのよ」
「すごく勝手なこと言ってる。じゃあプロデュースするとして、具体的には何をするの?」
「レサさんとスシくん、クロハさんとスシくんで、ラブコメ鉄板シチュエーションの寸劇をやってもらうわ。わたしが台本を書くから」
「えー! 壮行会と何の関係もない! 取材が来るからイヤイヤやるというモチベーション(?)もない! だいたい、なんでオレの彼女のマヤさんを避けてカップリングしたの? カップリングは本決まりなの?」
「文句ばっかり言わないでよ。カップリングは、女子バレー部と生徒会執行部の対抗戦みたいな雰囲気づくりのために、そうしました。きょうのあしただし、大会を控えたレサさんに負担を掛けられないから、台本を覚えて演技しろは言わない。朗読劇にしましょ。わたしは認めてないけど、スシくんとマヤさんがカップルだというなら、そんなヤツラのイチャイチャを演出するなんて、わたしのプライドが許さない」
「認めてないなら、オレとマヤさんでも構わないのでは?」
「うるさいな! これ以上ガタガタ言うと、わたしの相手役をさせるよ!」
いつの間にか、マヤがスシにバックハグをして、座に加わっていた。
「マヤです。スシくんが女子に『ガタガタ言うな』とか『ごちゃごちゃうるさい』と言われると、どうしても反応してしまいます」
確かに、それらのセリフを口にした女子は、いずれもスシとキスに持ち込んでいる。マヤは危険な香りを感じ取って、乱入してきたのだ。しかし、前日に署名活動と新聞づくりを通じて、スシといい雰囲気になったナハはともかく、ホキにキス警戒をするのは過剰反応だろう。
「マヤです。スシくん、キクハ先生からメールが来て」
「はて?」
「県内の市町村の住民団体から、祭りで使った御神体をもらってほしい、と申し出があったとか。丸太を削って作ってあるものです」
「ふむ。なぜ先方はもらって、などと?」
「地域おこしのために50年前からやっていた祭りが、住民の高齢化などで、今年限りで終わったそうなんです。御神体は文化財ではないので地元で保存も難しく、捨てたり燃やしたりもしにくいので、引き取り手を探していたそうです。泥縄第二が隣の県の兄弟校への統合に抵抗していることを知って、願掛けの力添えになればと、運賃を先方が負担して送ってくれたそうです」
「もらってほしい、というか、もうモノは来ちゃってるんですね」
「運送業者の方々が、横倒しにして生徒会室に設置したそうです」
「えー、そんな勝手な。長さ2・5メートル、重さ300キロもあるのに」
「キクハ先生は、生徒会の頂き物のようなので、生徒会で管理してもらいたい、と言っています」
「普通、こういうのは学校側が受け取るものでは。先生は『統合問題では、あなたたちの味方よ!』とか言ってくれてるのに、これだ」
「これは統合問題とは無関係ですから、責めないであげましょう」
「ホキです。話というのは、300キロの御神体を生徒会がもらい受けたので、それについて考えよう、ということ?」
「ナハは思うけど、憲法の財産権で、個人の所有物の処分は個人所有者に任されている。ちょっと汚れちゃったり破れちゃったりしたくらいで逮捕というのはおかしいと思う。死体を損壊して拘禁刑3年以下なんだから、自己所有物、しかも無生物をどうにかしたから拘禁刑2年以下もしくは罰金20万円なんて、見合わない。逮捕と見逃しを、取り締まる側が好きに決められるというのは、絶対王政的よね。民衆が束縛され為政者だけがいい目を見た悪政。アカウント不正や偽造動画投稿で、冤罪も多発しそう」
「ホキも、自己所有物を掲揚して放置している間に、そういう意図がなくても汚損してしまうことは、往々にしてあると思う。変な規制ができたら、何か問題が起こる前に、安全に穏便に処分するしかないよね。先祖代々の品でも、リスク管理がなってないと見做されないために、泣く泣く処分しなきゃでしょうね。外国要人歓迎とかで沿道に動員されたとき、主催者から振るようにと渡されても、おっかなくて受け取れない。紙製だと耐水性がないから、汚損しようという気がなくても、天候次第でぐちゃぐちゃになりかねない」
「マヤです。個人の所有物の処分に制約をつけようとする人は、結果的に『選ばれし自分らだけで物をありがたがるから、一般人は所有するな』と言っているのだと思います。破ったくらいで外国から来た人を逮捕してしまったら、外国の政権が理由を付けて長期拘束している邦人を解放しろとは、とても言えなくなってしまいます」
「スシだけど、アニメやゲームは対象外と言っているけど、それなら実写作品は取り締まる気なんだろうか。60年前くらいの作品が念頭にあるんだろうか。そうなったら、G7各国の人から、日本は文化的にものすごく遅れた国と見なされるだろうね。軍部独裁国家みたいだって。そりゃあ、処分するのが自己所有物でも、廃棄物処理法や動物愛護法に従うのは当然だよ? でも、やたらな規制は設けてほしくないね。処分のとき、故意でなくとも、ぐちゃぐちゃになることは、あるから」
「ナハだけど、ねえマヤちゃん、いつまでスシくんにバックハグしてるのよ。キラを呼んでくるから、交代してよ。キクハ先生のメールの伝達の用事、終わったんだし」
「もう少し、こうさせておいてください」
「ホキだけど、じいいい。本当のカップルみたいに見せるよな、この偽装カップル」
「だから、本当のカップルなんですってば」
「あるいは、スシくんがチョロすぎて、そして役員女子みんなが優しすぎて、みんながスシくんと、このくらいベタベタするようになっているとか」
「どきっ」
「ホキだけど、なかなか本題に入れなかったけど、いまから話をします。あしたの壮行会のコンセプトは、これで行くわよ!」
「スシですけど、え? これ読むの? 『女子バレー部の留学生エースに、なぜか全国大会1回戦負けしたら付き合ってと迫られるわ、怒った味方女子から攻撃されるわで、納得いかない件』。何これ!」
「マヤですけど、怒った味方女子って、わたしのことですか?」
「ナハとしては、キラが泥縄第二に登校する最後の日だから、壮行会にもキラの見せ場をつくってほしい」
「スシですが、コンセプトを決めたところで、絶対そのとおりに行かないと思いますよ。留学生エースから付き合ってくれなんて、そんなのないだろうし、そうすると味方女子も怒らないしで」
「ホキだけど、さて、どうかしらね」
「根回ししておくとか、なしですよ?」




