4章の3 自分の属性と重ならないのを出してきましたね
スハがつかつかとやって来て、スシの首根っこをつかんだ。
「スシ先輩、いつまでもそんな、すみっこで話してないで、もうパーティーを始めましょう」
マヤはおとなしくバックハグを解き、スシとスハについて場の中央に移動した。ホキとナハも従った。
「コホン、泥縄第二高校生徒会、書記次長のクロハです。本日、2校生徒会役員合同のクリスマスパーティーの進行を務めさせていただきます。よろしくお願いします」
参加者が拍手した。
この日は、当日中に泥縄第一の役員3人が地元に帰る手はずで、新幹線の上り最終の時刻をにらみながら上手に進める必要があった。マヤは進行役を、自分より突破力があるクロハに委ねていた。
「えー、それでは」
「あのー、いきなり進行を遮ってごめんなさい。ナハですけど、今夜、スシくんとマヤさんを、くっつけたまま放置しないように、お願いします。キラのことも考えてあげて」
「キラですけど、あたしは別に、今夜のことは二人が好きに決めていいと思ってますけど。それぐらいでは、あたし負けませんから。余計なこと考えなくていいよ、ナハ」
「ホキですけど、パーティーの本題に入る前に、いい機会なので、わたしの持ち込み企画に、みなさんに取り組んでもらいたいなと。会が進んで、わやくちゃになる前に」
スシは「あしたの壮行会の、ラブコメ寸劇のリハーサルをする気だな?」と身構えた。
「まず、いただいていますおハガキ。えー、これまで世の中には、劇中に登場する宇宙人や怪獣、超人などを、広く公募する企画がありました。そこで今回『ぼくがわたしが考えた追加ヒロイン』というのを、やっていただけたらと」
「ちょっと待て。スシですけど、そのハガキ、表書きがない。明らかに捏造じゃないですか」
「失礼な。捏造じゃなかったら、生徒会長を辞めますか?」
「結構ですよ」
「『いただいています』とは言ったけど、投書だなんて、ひとことも言ってません。ハガキと言いつつ、画用紙で作ったニセハガキなのは、認めますけど」
「オロネですけど、もうそのぐらいにして。で、追加ヒロインって、泥縄第一、第二、第三の、どこに配置されるんでしょう?」
「ホキですが、ちょっと事情があって、泥縄第三には配置できません。第一に置いても、オロネさんスハさんを前にしたら霞んでしまうので、第二に置くのが最善かと」
泥縄第二の役員が、ざわついた。
「泥縄第一高校のスハです。じゃあ社会人サブヒロイン」
「ほかの役員より若いスハさんだけに、自分の属性と重ならないのを出してきましたね。『サブ』を強調して、自分の立場が危うくならないようにするテクもなかなか」
「えへへ」
「でも泥縄第二には、24歳のキクハ先生、22歳のキヤさん、高校を出たクモルクモヤさんがいて、社会人キャラは間に合ってますよね。泥縄第二は」
「オロネです。ポニーテールでニーハイのサブヒロイン」
「逆に、自分のイメージと重なるサブヒロイン像の提案ですね。自分が泥縄第二から去ったことで、ポニテ枠とニーハイ枠が空いた。誰かに継承してほしいという願望でしょうか」
「カニです。あしたの壮行会に関連を持たせたいから、女子バレーボール部員のサブヒロイン」
「いい読みです。でも女バレは、『ないしょ1』の部活応援のときレギュラーが全員出ているけど、そんな目立つ人いた?」
「泥縄第二のキヤです。スパイのサブヒロイン」
「何それ、そんなやつ、いたら困るでしょ!」
「そうですか・・・」
肩を落としたキヤを、スシが慰めた。
「マヤです。新しくヒロインを出すんじゃなくて、すでに登場しているヒロインの、別人格が顔をのぞかせるというのは? だんだん、それを深堀りする。別人格発露の前と後で、ストーリーはコペルニクス的転回に」
「何言ってるのよ、中二病?」
「わたし高2なので、高2病でお願いします・・・」
肩を落としたマヤを、キヤとスシが慰めた。
「クロハです。そうねえ、人外でニコチン中毒、人外で薬物中毒、人外でアルコール中毒」
「『この番組はフィクションであり、実在の人物・団体・法律等とは関係ありません』とテロップ出せば、なんとかなると思ってない? あと、見たことあるヒロイン造形で間に合わさない! もっとオリジナリティのあるやつを!」
「そうねえ。うーんと、スシくん頼んだ」
「スシだけど、そうねえ、留学生とか」
「ホキだけど、オリジナリティがあるのって言ったでしょ。きょうび留学生は、そんなに珍しくないでしょ」
「突拍子もないヒロインは困るから、安全パイにしようかと」
「『ぼくがわたしが考えた新ヒロイン』だと言っているでしょ。もともと女バレにいる人物を念頭に置かないでよ」
「クロハだけど、身長はわたしらより6センチくらい高くてね」
「マヤですけど、ポジションはオポジット(セッター対角)でしょうか」
「あんたら、せっかく謎のベールに包まれている新ヒロインに、じわじわ迫るのやめろ」
「スシだけど、もういいでしょ? 早くパーティーをやろうよ」
「じゃあ、あすの壮行会の出し物、こんな感じで、というのをやって終わるわ。台本はあしたまでに作るけど」
ホキは、スシとクロハに、それぞれ耳打ちして指示した。参加者が、ぱちぱちと拍手した。
「えー、スシです。ホキさんから題目を2種類提案されたうち『川や海に飛び込んでツンデレヒロインを救う』というのをやります。あしたはちゃんとやるけど、きょうはアドリブです」
「クロハです。ドボーン。きゃー、助けて!」
「はい、助けました」
「ありがとう、スシくん」
「ホキだが! なめとんのか、おまえら! それじゃあドラマっちゅうもんが、ないだろうが!」
「スシだけど、テンポよくしようと思って」
「よすぎるわ!」
「クロハです。でもこれ、ラブコメの中でもかなり大掛かりなシチュ。おまけに救われたコが、ヒロインレースではダブルスコアで敗れたり、たとえ勝っても、アニメが5期を超える持久戦になったりする。サブヒロインには鬼門、メインヒロインにとってもメリットが薄いと言わざるを得ない。とても鉄板とは言えないわ」
「じゃあ、これやるか。白雪姫のお芝居をすることになって、実際にキスするか悩む」
「じゃあそれで」
「は? こっちはイジワルで言ったのよ? なんでそんなノータイムノーリアクションで、やろうとしちゃうの?」
「マヤです。演目変更に反対。クロハはスシくんが相手なら、キスくらいでは動じないし、むしろ背中を押してしまいそうだから」
ホキは、クロハを見てから、スシをじーっと見てみた。
(クロハさんって、ひょっとしてスシくんのこと、)
「スシです。あした、そんな題目をやったら、レサさんとダンチになってしまう。レサさんに悪い」
「そんな理由で反対するのかよ。もういい、わかった。あしたは『出張帰りの鉄道車内で二日酔いのヒロイン(GIRL)が、こらえきれず戻してしまうが、男子が見事、物が入ったままのバッグで受け止める』というのに変更」
「スシだけど、オレたち高校生だから、二日酔いしないですけど。朗読劇だからいいようなものの、実際に演技するとしたら相当イヤなシチュだ。耐えに耐えて演技をして、あげくにキャリア全否定の暴言を浴びたりしたら、オレだって号泣する」
「クロハです。もしわたしがそんな目に遭ったら、スシくんどうする?」
「もちろん、オレはいつでもクロハさんの味方ですよ」
「マヤです。ブーブー! 早く小芝居を初めてください!」
「クロハです。カニくんの調査によると、バッグ受け止めシチュで結ばれたカップルは、平成に1組が確認されています。朝に出会った二人を、夜には結びつけた、かなり強力なシチュです。令和のマンガで久しぶりに目にする機会がありましたが、このときは助けたのも助けられたのも男性。ですが、助けられた方が即落ちというのは変わりません」
「ホキです。では、スシくんとカニくんでやってみよう」
「オロネです。スシくんもカニもノンケだから、そういう配役しないで」
「スハです。ここはわたしがスシ先輩の相手役をします。あしたの本番は、ご一緒できないのが残念ですけど」
「スシです。ホキさん、スハさんの負担にならない、無難なネタをお願いしますよ」
「スハですが、そんな心配は無用です。わが師匠のクロハ先輩を前にして、恥ずかしくない出来にします」
「いや、あの」
「ホキだが。じゃあ『彼氏と初ボウリング。ヒロインがボールをつい後ろに投げてしまい、パッカーン、彼氏を直撃』というのをやってみよう」
「スシですが、そこまでやってヒロインレースに敗れたら、ただのバカヤロウ。悲惨。マンガでこのシチュを経験した人の、ヒロインレース勝率はどのくらい?」
「ボール直撃はお約束のようでいて、カニくんが確認できたのは、ゲームとマンガの1例ずつと少ない。ゲームの方は攻略対象のヒロインなので、ハッピーエンドもバッドエンドもある。マンガの方は、教師ヒロインと生徒の取り合わせ。スンどメ」
「作者の先生は合っているけど、それ違うマンガ」
「このシチュの例が少ないのは、ボウリングのボールが、ことのほか重いせいかも。初心者のヒロインが、後方の男性主人公の顔面に命中させるのは、現実にはかなりハードルが高い。絵にすると極めてマンガ的になってしまうからと思われます」
「スハです。では、スタート! ぎゃはは。スシ先輩、ぼっちですか。一緒にボウリングに行きましょう」
「ぼっちじゃないよう。やめてよ、その芸風」
「じゃあ、オロネ先輩をコピーしようっと。スシくん、あたしのこと好き?」
「いきなり何を。オロネさんはそんなこと言わないぞ?」
「いちいち口にしなくても、気持ちが通じ合っているからですか?」
「そんなんじゃないよ」
「クロハ先輩が同じこと言ったら、どうしますか? スシ先輩はずっとクロハ先輩の味方なんですよね
?」
「ノ、ノーコメント」
「と、スシ先輩を動揺させたところで。いまだ! ドキャ! ギャンギャンギャン ギュ―ン!」
「擬音が、さるプロゴルファーのマンガみたいになっとる」
「パッカーン!」
「うっかりでなく、わざと当てやがった! 朗読劇じゃなかったら、大変だったよ」
「ホキだが! カーット! そんなんで流したら、リアリティーがなさすぎるだろうが!」
「じゃあ、テイク2。うっかりでなく、狙って投げやがった! でも、慌てず騒がず、ズバーン。ナイスキャッチ!」
「さすがスシ先輩、絶対受け止めてくれると信じてました」
「ホキだが! なんじゃそりゃ! 自分で『ナイスキャッチ』とか言うな! 茶番もいいところだ!」
「オロネです。ねえスシくん、スハちゃんって、とってもいいコでしょ?」
「オロネさん、いきなり何? いいコじゃないとは言ってないけど」
「誰も差別したくないから、スシくんのことが気になってるコは、とりあえず全員プッシュしようかと思って」
「オロネちゃん!」=マヤ・クロハ同時発声=
(わたしスハの目には、今のはオロネさんの煙幕に映る。自分の気持ちを悟られたくないのでは)
パーティーはプレゼント交換などもあり、大変盛り上がった。おひらきになっても、マヤはスシにくっついて離れなかった。泥縄第二の全員で、第一のスハ、オロネ、クロハを新幹線ホームまで送り、出発を見届けて、駅をあとにした。キヤはワキと一緒にイブを過ごすそうで、帰って行った。
クロハはずっと、スシマヤから2・5メートル後ろを歩いた。
泥縄第二の、二学期最後の日。終業式に続いて、女子バレー部壮行会が行われる手はずになっている。
「終業式です。生徒会長のスシです。みなさん、冬休みは安全に過ごしましょう。わたしはあとで壮行会でも話しますので、ここではこのくらいにしたいと思います」
スシのあいさつが短すぎて、体育館に整列した生徒は拍子抜けした。ブーブー言う声も聞こえた。
「それでは壮行会です。今回、プロデュースを担当いたします、演劇部長のホキです。壮行会は当初、生徒会長のスシくんをオモチャにしたラブコメ寸劇をするつもりが、女子バレー部のレサさんから、部のカラーに合わないと文句を言われたので、女子バレー部と生徒会執行部の練習試合に変更します。もとの企画が壮行会だったから、壮行試合ね」
「スシだけど、そんな勝手な! きのうのアドリブ劇はなんだったの! それにうちら、バレーは素人だよ?」
「ドラマ追求と言うのは、こういうことよ! さっさと着替えてきなさい!」
生徒会執行部の壮行試合メンバーは、クロハ(ウイングスパイカー)、スシ(ミドルブロッカー)、マヤ(サイドアタッカー)、キヤ(オポジット)、ワキ(セッター)、キラ(リベロ)。監督はキクハ。生徒会室に保管してあった、男子2名分と女子4名分(うち1着はリベロ用)の試合用ユニホームを引っ張り出した。
「スシさん! 戻れ戻れ! 喜びすぎんナ! ただ、まだ先が長いですからネ。そういうの一番あかんテ。まずスシさんが持って、そっからやネ。バレーだから、持ったらホールディングの反則だけどネ」
謎の言葉を並べながら、身長175センチくらい、留学生、ポジションはオポジット(セッター対角)という、どこかで聞いたヒロイン像の女子が現れた。
「きみ、えーと、うーんと」
「スシくん、あたし。あたしデスヨ」
「きみは、その、あれだ」
「つれないなア、名前忘れたフリされタ。さアついに秘密兵器の出番!! おいレサ、交代ダ!! スシくん、態度の大きい女の子は好きですカ?」
「秘密兵器って、きみ、レギュラーでしょ。出ずっぱりの留学生エースでしょ」




