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生徒会、ないしょの欠員3  作者: キュー山はちお
3章 かがやき みつけた
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19/42

3章の6 止まっているゴンドラに一人。けっこうシュールよね

「せっかくキクハ先生に来てもらったのに、見せ場を作らなくてどうするのよ」

 キクハ乗車の省略を言い出したのが、スハでなかったら、ナハはもう少し考えたかもしれない。時間に追われているのは、その通りだからだ。ゴンドラの近くて待機していた、順番が次のキクハは「入っていい?」と、目でナハに問いかけた。ナハから明確な返答がないので、キクハはゴンドラの開いていたドアへ入ろうとした。

「おっと」

 その次で順番待ちをしていたマヤとクロハが、キクハの背中を押すようにして、一緒にどやどやと入ってしまった。

「ナハだけど、マヤさんとクロハさん、時間節約に協力してくれて、ありがとう! でも、先生にはわたしから説明しなきゃ」

 ナハも一緒に入ってしまった。

「キクハだけど、ねえナハさん。わたしはなんで一人で乗ることになってたの?」

「キクハ先生にキスしそうな意外性のある男子は、きょうの参加メンバー、いえ、全校生徒の中に見当たらないので、先生と急造ペアを作っても、スリル感は期待できません。じゃあ先生に乗車を遠慮していただいたら、それでは『車でここまで送ってもらったから、もういい。用済み』と言っているみたい。参加者全員にゴンドラを楽しんでもらいたかったので、先生をお一人で入れることとしたのです」

「実際はそうならなかったけど、止まっているゴンドラに一人で、取材カメラもないって、けっこうシュールよね」

「ナハです。ところで、一つ後ろのペアはスシくんとマヤさんと指定してあったのに、どうしてクロハさんが勝手に、スシくんと交代してるの?」

「ナハさんだって予定外乗車してるから、人のこと言えないと思う」

「マヤです。そう言えば、ナハさんとスシくんが作った、学校新聞の最新号を見ました。校舎の壁に張り出す紙の新聞は、白と黒の2色印刷なんですね?」

「昔からずっとそうだけど。インキの節約が目的ではないけど。でも何? わたし状況聞き取りされてるの?」

「そういうわけではありません」

「ずっと白黒のままよ。うちの新聞は、カラーに戻すとか、ないから」

「キクハです。はい、2分たったわよ」

 ナハは自分でも「2分は慌《あわただ》しいなあ」と思ったが、おくびにも出さず、ドアからゴンドラの外に出た。続いてキクハが出ようとしたところ、中に残っていたクロハとマヤが、唇を重ね合わせるのが見えた。

「じいいいい」

 キクハは「あなたたち、なにやってるのよ」という目でクロハとマヤを見た。ずっと視線を二人に固定していたので、ヒールの靴でこけそうになった。待機列にいたスシが飛び込んできて、キクハが倒れないよう支えた。

「ひそひそ、キクハ先生、クロハです。あたしたちのは、ゴンドラ乗車カップル連続キス記録を途切れさせないために、やむを得ず」

「ひそひそ、やむを得ずって。ほんとかな」

「ひそひそ、ナハです。スシくんと仲良しのお二人による連続記録への協力、感謝します。一段声を絞る。ひそひそひそ。ということは、記録達成が懸かるキラとスシくんのラストキスも、認めていただけた、ということで、よろしいですね?」

 気づかぬうちに外堀を埋められ、マヤとクロハは黙りこくった。


 日がかなり傾いてきた。この日のイベントは、スシとクモヤのゴンドラ最終乗車と、スシとキラの「あんあんアンブレラ」の1周プラスアルファ運転を残すのみ。スシが待機場所に向かおうとしたとき、クモヤが声をかけた。

「スシくん、実は、各局の代表から申し入れがあって。部活の後輩役がカニくんというバージョンも押さえておきたいんだって」

「なんでまた」

「わたしが泥縄第一の卒業生で、スシくんが、過去はともかく今は泥縄第二の人だから。局の上層部から、二人が一緒の学校でないのを説明しろと指示されたら、尺の制約から、後輩役を泥縄第一のカニくんに変更して、しのぎたいんだって。そのための画《え》を、押さえておきたいんだって」

「真実のような、真実でないような映像が作られてゆく。まあ、そういうことなら、ゴンドラ最終乗車はカ二くんに譲りますよ」

 スシはホッとした表情を見せた。クモヤはムッとした。

「スシくん、そんなにわたしとゴンドラ入りたくないんだ」

「いや、だって、そういう都合なら仕方ないですよ。それに、トップバッターで一緒に入ったし」

「あれは、お芝居しただけでしょ? 今度は最後のゴンドラだよ?」

「ええ」

「わたしは、」

 クモヤがスシを、正面から見つめた。


「スシくんと一緒がいい」


 スシが聞いた、クモヤの初めてのわがままだった。クモヤの思いの丈《たけ》に戸惑いながらも、スシは無責任に流されてはいけないと、踏ん張った。

「クモヤさんは芸能人だから、オレみたいなの相手に、めったなこと言ってはいけません」

 クモヤの目に涙が光った。

「あー、わかってないなあ、スシ先輩は!」

 スシとクモヤの近くに、いつの間にかスハとクロハが来ていた。

「クモヤ先輩は、スシ先輩にとってどういう人なんですか! ここまで言わせたなら、もう一緒に入るしかないんですよ!」

「クロハだけど、スシくんが予定通り入るといいわ。ここは、うちらの、らしさを生かすとこ」

 泥縄第一の現役会長と、第二の先代会長にそろって言われたら、スシはとてもはね返せない。はね返す気もない。スシが「わはは」と笑みを見せると、クモヤも明るさを取り戻した。

「それって、オレに、カニ書記長(スシ)に化身しろってことだよね?」

「スハです。局の申し入れにより、最終ゴンドラには、お二人とカメラ担当しか乗れません。なので、お二人のどちらかがカニ書記長に、もう一方がクモヤ芸能人に化身することになります」

「そうだよね、え、クモヤさんにも化身してもらうの?」

「わたしは、スシ先輩がカニ書記長(スシ)に化身する作戦を支持します。クモヤ先輩を本人のままにしておけば、守りに入らなくなる。圧倒的にドラマチックな展開が期待できます」

「対してわたしクロハは、クモヤさんをカニ書記長(クモヤ)に、スシくんをクモヤ芸能人(スシ)に化身させる、ドミノシフトを提案します。クモヤさんがカニくんに化身した実績はありませんが、双子の妹のクモルさんがマヤに化身したのを見るに、心配いらないでしょう。このシフトのほうが、そのあとの進行がスムーズです」

 クロハは、クモヤがスシとの化身交換に備えたかのような私服スカートなのを、見逃さなかった。

「スシだけど、化身したことのないクモヤさんに、あまり負担をかけてもいけない。どっちにするかは、クモヤさんに決めてもらおうよ」


※3章の6は、ここから【スハ作戦ルート】と【クロハ作戦ルート】に分岐します。スシくんは「クモヤさんに決めてもらおう」と言っていますが、ここは読者のみなさんの考えでお選びください。【スハ作戦ルート】【クロハ作戦ルート】の順で収録されています。どちらを選んでもバッドエンドはありません。両ルートとも、読了後は【共通ルート】へとお進みください。

            ↓

      ←←←←←←  →→→→→→

     ↓             ↓

【スハ作戦ルート】      【クロハ作戦ルート】

     ↓             ↓

      →→→→→→  ←←←←←←

            ↓

         【共通ルート】


■■■■■■■■■■■■■■■■■【スハ作戦ルート】■■■■■■■■■■■■■■■■■■

「クモヤです。では、スシくんだけ化身してもらおうかな。わたしは初めて化身するときは、スシ会長かマヤ副会長がいい気もするし」

 4人は、男女共用の多目的トイレに急いだ。マヤが場所取りをして、秘密化身スペースとして確保していた。前で待ち構えていたカニと一緒に入り、スシは、渡されたカニ化身用の銀縁メガネをかけ、コートをカニと交換して着込んだ。

 最終「あんあんアンブレラ」乗車を控えていたキラだが、いてもたってもいられず、秘密化身スペースに入って来た。オロネとスハも続いた。

「マヤです。順番が迫ってますから、早く化身を」

 スシがカニに化身する手順は、女子への化身に比べると単純だ。カニの髪は、オロネやほかの女子に化身するため、肩甲骨までの長さがある。スシの髪では再現が不可能なので、女子化身用のウィッグを使う。カニの制服は、スシのものと細部の仕様まで一致しているので、交換不要。あとはカニの少し猫背の歩き方をコピーして、カニ本人が言いそうなことを言えばOK。

「ねえ、キラだけど。最終の『あんあんアンブレラ』では、スシくんがちゃんと化身解除してくれるのよね? ねえ!」

「マヤです。キラちゃんのパートナーの、中の人がスシくんというところまでは保証しますが、外見もスシくんにできるかは、約束できません」

「それなら、せめて外見はマヤ副会長かクロハ書記次長にして」

「ご希望に沿《そ》えられるよう、努力します」

「クモヤです。スシくんが化身することになったの、わたしのせいみたいなところがあるから、ごめんね、キラさん」

「スハです。さあ、いきますよ!」

 カニ書記長(スシ)はクモヤの手を引いて、ゴンドラへ急いだ。カニ本人は化身の重なりを防ぐため、女子5人に周囲の視線から守られながら、男子トイレに移動して個室に隠れた。

「ナハだけど、遅い! ラスト1周プラスアルファの前に、日が暮れちゃう!」

 クモヤが申し訳なさそうに頭を下げ、カニ書記長(スシ)と一緒にゴンドラに入るとき、カメラの収録も始まっていない、二人が窓の外の生徒から見えない瞬間、ナハだけが二人に視線を向けている瞬間が訪れた。

(えっ? クモヤさん!)


 ん-。


 2・5秒。クモヤとカニ書記長(スシ)の唇が、確かに触れ合った。

「ひそひそ、ふふっ。スシくんも見たでしょ? カニくん調査によるマンガの法則。双子が同じ異性を意識した時、キスしてもらえなかった方の死亡率は100%だって」

「ひそひそ、日本マンガの1980年代の例が強烈すぎて、それ以降、双子の両方がキスしてもらえる、あるいは両方ともキスしてもらえないマンガばかりになったそうで」

「ひそひそ、スシくんがクモルとキスしちゃったから―」

「ひそひそ、うへっ」

「ひそひそ、わたしもキスしないと、死んじゃうかもしれなくて」

「ひそひそ、クモヤさんを苦境に追い込んで、オレといやいやキスさせたみたいで、なんとお詫《わ》びしていいか」

「ひそひそ、ふふっ。いやなわけないわ」

「ひそひそ、でもカニ書記長(スシ)にキスしても、危機は去らないかも。公式記録上は、クモルさんのキス相手はスシ本人で、クモヤさんは違うから」

「ひそひそ、それはこわいなあ。いずれ本人の姿のスシくんともキスしなきゃだなあ」

 カニ書記長(スシ)は「余計なことを言った」と後悔した。

(クモヤさん、どうせなら、ナハさんから見えないようにキスすればいいのに。接点がまったくないカニ書記長とクモヤさんの組み合わせ。報道的中立を期待できないナハさん。何かよくない方向へ転がる気がしてならない)

 こういうとき、いかにも騒ぎそうなナハだが、何も言わなかった。

(ラスト1周プラスアルファまで、連続キス記録がつながった! つながりさえすれば、男女の組み合わせのリアリティとか、多少のことはどうでもいいの。キラとスシくんがキスするほかない状況に追い込めた。上出来だわ!)

 カメラが回り始めると、カニ書記長(スシ)とクモヤは、何事もなかったように当たり障りのない会話を展開した。カニ本人が知らない話からも逃げず、不自然かどうかという境界線まで攻めた。ナハには、二人が会話に込めた、相手への思いの大きさが伝わった。

 2分経過。クモヤはカニ書記長(スシ)にウインクしてから、ゴンドラを出た。立ち姿は、あくまで凜《りん》としていた。

 東京から呼び出し電話を受けていたクモヤは、最後までトトトピアにいることはできずに、キクハの車で新幹線最寄り駅へ出発した。


 ゴンドラ乗車が時間通り終わらず、日がとっぷり暮れてしまった。キラとスシの「あんあんアンブレラ」乗車は、闇《やみ》の中で行われることとなった。

 秘密化身スペースとして確保された、大きな男女共用トイレでは、スシをカニ書記長(スシ)からクロハ書記次長(スシ)へ化身変換する作業が、急ピッチで行われていた。

「キラです。カニ書記長仕様のウィッグ外した。マヤちゃん連絡よろしく!」

「もしもしカニくんですか? カニ書記長の化身重なり解消しました! これを以《もっ》て隠れ場所での待機要請を解除します。ありがとうございました!」

 マヤとクロハは、スシを本人の姿でキラの隣に乗せることには抵抗があった。中の人がスシなのは保証するというマヤに、キラは、スシの外見をマヤ副会長(スシ)かクロハ書記次長(スシ)にするよう申し入れた。スシがどちらかに化身すると、化身枠の関係で、マヤかクロハは逆にスシ会長に化身しなくてはならない。マヤだとスシの声が出せず、化身した姿で話せなくて不便なので、クロハ書記次長(スシ)にしようという流れになった。

「キラだけど、スシくん、上空50メートルオーバーのランデブーだよね」

「オレもう、スシじゃない。クロハ書記次長(スシ)に、あらかた化身し終わってるから」

「あれあれ? それだと不完全じゃない?」

「そんなこと言わないの! 交換するのは制服だけでいいの」

「クロハだけど、スシくんの胸を偽装する都合でブラを使っているから、上下不統一といえば、そうかもね。スシくん、はい、これ」

「えっ」

 あまり関係ないのに化身スペースにいたオロネとスハは、化身に使う衣装として私物を提供しようとしたクロハの、献身的姿勢を支持した。マヤが「やれやれ」という顔で、荷物からスシ用の備品を出した。

「じゃあスシくん、化身の衣装にクロハの私物を借りるのはやめて、備品を使いましょう」


■■■■■■【スハ作戦ルート】終了。3章の6末尾に収録の【共通ルート】へお進みください■■■■■


■■■■■■■■■■■■■■■■■【クロハ作戦ルート】■■■■■■■■■■■■■■■■■

「クモヤです。ではスシくんに、わたしに化身してもらおうかな。前に化身してくれたことあるし。わたしがカニ書記長に化身するのも、面白そう」

 4人は、マヤが秘密化身スペースとして場所取りをしている、男女共用の多目的トイレに急いだ。前で待ち構えていたカニは、愛用の銀縁メガネと、着ていたコートをクモヤに渡し、スシが着ていたコートを受け取った。

 最終「あんあんアンブレラ」乗車を控えていたキラだが、いてもたってもいられず、秘密化身スペースに入って来た。オロネとスハも続いた。

「マヤです。順番が迫ってますから、早く化身を」

 クモヤをカニに化身させた実績はないが、オロネを化身させる手順と同じでいいだろう。カニの髪は、オロネやほかの女子に化身するため、肩甲骨までの長さがある。髪型をセットするだけで長さの調整は不要。もともと泥縄第二の生徒だったカニの制服は、スシのものと基本的に同一仕様なので、スシの物を流用できる。

 スシは逆に、クモヤの私服を借りることになる。マヤやオロネよりバストサイズがあるクモヤだが、スシは化身した実績があり、画一的な制服よりも私服の方が、化身の仕上がりを、より本物に近づけることができよう。

「クモヤだけど、服を交換するなら、中途半端はよくないと思う」

「マヤですけど、何言い出すんですか、ちょっと!」

「オロネだけど、中途半端じゃないとは、こういうことかな? するする」

「スシだけど、何するのオロネさん!」

「完全交換」

「んもう、マヤですけど、スシくんもクモヤさんも、絶対に背中を向け合っていてくださいよ?」

 クモヤがスシの肩に手をかけたかと思うと、スシをくるっと自分の方に向けた。

(クモヤさん!)


 ん-。


 2・5秒。クモヤとスシの唇が、確かに触れ合った。

「マヤですけど、わー! 何してるんですか!」

「クモヤです。カニくん調査によると、双子が同じ異性を意識した時、キスしてもらえなかった方の死亡率は100%とか」

「スシです。日本マンガの1980年代の例が強烈すぎて、それ以降は、双子の両方がキスしてもらえる、あるいは両方ともキスしてもらえないマンガばかりになったそうで」

「スシくんがクモルとキスしちゃったから―」

「うへっ」

「わたしもキスしないと、死にそうで。そういう事情とはいえ、マヤさんには、申し訳なく思います。ごめんなさい」

 両腕を振り回す半狂乱のマヤを、クロハとオロネで止めた。

(クロハだけど、カニくんのデータはみんなに届いていたから、クモヤさんがスシくんとのキスを狙うのは読めた。ゴンドラに入る前に、うちらの目の届くところで済ませた方が進行がスムーズと思ったけど、まさか双方まっぱとは。刺激が強すぎたかな)

「ねえ、キラだけど。最終の『あんあんアンブレラ』は、スシくんがちゃんと本人の姿でやってくれるのよね、ねえ!」

「クロハです。中の人がスシくんというところまでは保証しますが、外見もスシくんにできるかは、約束できません」

「それなら、せめて外見はマヤ副会長かクロハ書記次長にして」

「ご希望に添えられるよう、努力します」

 クモヤ芸能人(スシ)、カニ書記長(クモヤ)とも、支度が整った。

「スハです。さあ、いきますよ!」

 カニ書記長(クモヤ)はクモヤ芸能人(スシ)の手を引いて、ゴンドラへ急いだ。付き添いのクロハは、ゴンドラの外で待機した。

「ナハだけど、遅い! ラスト1周プラスアルファの前に、日が暮れちゃう!」

 クモヤ芸能人(スシ)が申し訳なさそうに頭を下げ、カニ書記長(クモヤ)とナハとカメラスタッフを連れてゴンドラに入った。

 クモヤはカニの声色が使えないので、カニ書記長(クモヤ)とクモヤ芸能人(スシ)は、互いに相手のセリフを担当した。


 収録が進むにつれ、ナハの顔に焦りの色が濃くなった。


(カップルでも何でもない組み合わせとはいえ、この二人にはキスしそうな雰囲気がない。お互い『キスするなんて想定外』というなら自然だけど、どういうわけか『もう済ませた』感がある。ラストまで連続キス記録をつなげないといけないのに、ああもう、どうしたら)

 持ち時間の2分が過ぎ、クモヤ芸能人(スシ)とカニ書記長(クモヤ)が席を立った。クロハが退出手伝いのため、カメラスタッフと入れ替わりでゴンドラに入ったときだった。

「えいっ!」

「あっ」


 ナハが、カニ書記長(クモヤ)の唇めがけてダイブした。


 クロハが身を挺《てい》して止めた。ナハのキスはクロハの首筋を襲い、派手なキスマークが残った。

(クロハだけど、カニ書記長の姿は借り物だから、キス被害に遭《あ》わせたら、オロネちゃんに申し訳が立たない)

 クモヤ芸能人(スシ)が、倒れこんだクロハを介抱した。

「ナハです。ごめんなさい。連続キス記録を止めたくない一心で」


 東京から呼び出し電話を受けていたクモヤは、最後までトトトピアにいることはできずに、キクハの車で新幹線最寄り駅に向かった。


 ゴンドラ乗車が予定通りに進まず、日がとっぷり暮れてしまった。キラとスシの「あんあんアンブレラ」乗車は、闇《やみ》の中で行われることとなった。

 秘密化身スペースに当てられた男女共用の多目的トイレで、クモヤの化身解除と、スシをクモヤ芸能人(スシ)からマヤ副会長(スシ)へ化身変換する作業が、急ピッチで行われていた。

「キラです。カニ書記長仕様のウィッグ外した。マヤちゃん連絡よろしく!」

「もしもしカニくんですか? カニ書記長の化身重なり解消しました! これを以《もっ》て隠れ場所での待機要請を解除します。ありがとうございました!」

 マヤとクロハは、スシを本人の姿でキラの隣に乗せることには抵抗があった。キラの申し出により、スシの外見はマヤ副会長(スシ)かクロハ書記次長(スシ)とすることになったが、ナハの攻撃の盾になったクロハの首筋にキスマークがつき、見える位置でごまかせないので、マヤ副会長(スシ)化身一択となった。

「キラだけど、スシくん、いよいよ上空50メートルオーバーのランデブーだよね」

「オレもう、スシじゃない。マヤ副会長(スシ)に、あらかた化身し終わってるから」

「あれあれ? 不完全じゃない?」

「交換するのは制服だけでいいんだってば」

「マヤですけど、胸を偽装する都合でブラを使っているので、上下不統一といえば、そうですよね。スシくん、はい、これ」

 マヤが荷物からスシ用の備品を出して、スシに渡した。


■■■■■■■【クロハ作戦ルート】終了。そのまま【共通ルート】へお進みください■■■■■■■



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■【共通ルート】■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

「キラだけど、この備品の、もとの持ち主は誰?」

「わたしに聞かないでください。もうスシくんの物です」

「そうなのね」

 キラは妖《あや》しい微笑みをたたえた。


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