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生徒会、ないしょの欠員3  作者: キュー山はちお
3章 かがやき みつけた
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16/42

3章の3 署名してくれれば、本人公認! 鬼に金棒!

「キヤは、わたしにはもったいない女です。どこかに巣立っていくのなら、元気でね、という感じなんです」

「キラですけど、先生、そんな、あたしたちの夢を砕くようなこと、言わないでください」

「スシですけど、そうですよ。ちょっと先生の自己評価、低すぎないですか? ところでキラさん、『あたしたち』の『たち』って何? オレとキラさんという意味じゃないよね?」

「タキくんが予想通り生徒会長選挙に敗れて、わたしは責任を押し付けられて、職を続ける気が失《う》せて、一度はプータローになりました。オンラインカジノで身を持ち崩して」

「えー、ほんとに身を持ち崩してたの!」=スシキラ同時発声=

「キヤの貯金で埋めてもらったんです」

「キラですけど、それじゃあ先生は、キヤさんに頭が上がらないじゃないですか」

(あれ? ワキ先生の言うことが本当なら、1か月の謹慎《きんしん》になるはずでは? キクハ先生がそう言っていたぞ)

「なあ、次は絶対当てるから、10倍にして返すから、金くれよう。なあ、キヤ。あー! これは子どもの給食費よ! うるせえ! ああっ! ばかあ!」

「スシですけど、なんですか、そのベタな一人芝居は! 先生は子どもいないでしょ!」

「キラですけど、先生が自分のことを、見た感じと全然違うキャラにミスリードしようとしても、そうはいきませんよ」

 3人はちょっとほっこりして、誰言うともなく体育用具室を出た。スシが元通り施錠して校舎へ歩き出すと、グラウンドの隅《すみ》でナハが署名集めをしていた。

「さあさあ、みんなのキラ、頑張るキラを、最後の記念に生徒会長にする運動だよ! 賛同する人は、ちょっと名前を書いてくれるだけでいいんだ! どうぞどうぞ、ありがとうございます!」

 キラがのぞき込むと、始まったばかりなのに、もうかなり署名が集まっている。

「ひそひそ、スシくん、ちょっとまずいよ」

「ひそひそ、キラさんも当事者なんだけど」

「おっと、スシくん! 現役生徒会長のキミも、ちょっと署名してくれれば、本人公認! 鬼に金棒! ささ」

「キラだけど、何言ってんのよナハ! スシくんが署名したら、役員女子に八つ裂きにされるわよ!」

「スシだけど、そこまでひどくないと思う」

「ナハだけど、スシくんとしては、こんなに人目のあるところで署名するわけには、いかないよね。立場もあるもんね。わかった! あとで屋上で待ち合わせしようよ。本名がイヤなら、ペンネームでもいいから」

「キラだけど、ペンネームといっても、偽名で署名したら犯罪じゃないの?」

「世の中、芸名やペンネームで、立候補したり議員活動をしている人はいます。よく知られた名前であれば、いいようです。それに今回の署名活動は、首長リコールのような法的なものではないので、ルールはとくにありません。その代わり署名簿の効力も限られてて、受け取る側が対応しなければ、それまでなんだけど」

(ナハさん、さすが新聞部長。よく調べてるな)


 キラとスシが生徒会室に戻ると、マヤとクロハはよそよそしかった。キヤだけがニヨニヨしていた。

「キヤです。二人とも、何かしましたか? んん?」

 スシもキラも、ワキの話をキヤに振る気には、なれなかった。

(キヤさんは、どうやって貯金をこしらえたんだろう。やっぱり本当にキャバクラ勤めをしていたのかなあ)

 スシは大人しく執務にいそしんでいたが、ナハからのメールで、席を立った。

「マヤですけど、スシくん、どこへ行くんですか?」

「クロハだけど、わたしらに許可を取ってから、行くように」

「え、え~? じゃあトイレということで」

「キヤですけど、そんな子どもだましのウソに引っかかる、わたしたちじゃありません」

「も、もれるー」

 ヘタな芝居をしながら、スシは生徒会室を出て行った。マヤ・クロハ・キヤは、こっそりあとをつけた。

 キラは部屋に残った。

(スシくん、お人よしにも程《ほど》があるよ・・・)

 スシが屋上に着くと、もうナハが待っていた。練習していた応援団は、別の場所に移動したのか、姿が見えなかった。

「スシくん、よく来てくれました!」

「待ち合わせというか、これじゃあ呼び出しじゃないか」

「体育館の裏の方がよかった? なんて」

「オレもトイレと言って抜けて来たから、手短に願いたい」

「ペンネームは考えておいたから。○県○郡○町・キラちゃんのことが大好きっ子さん(男子・17歳)」

「いつの時代のネーミングセンスだよ。しかも承服しがたい内容が含まれている。却下」

「じゃあ、何でもいいから書いてよ」

「う・・・」

 スシは弱った挙句、署名簿に「私人《しじん》 スシ」と書いた。

「生徒会長としてではなく、個人として書いた、ってことね」

「オレは、自分一人の力で生徒会長になったわけではないから、自分の立場が危うくなることを、自ら言ったり書いたりできない。偽名を書いても、いずれみんなに知られる。せめぎ合いの中で、こうなったと理解してほしい」

「これとは別に『公人』というのも書くならともかく、唯一の態度表明が『私人スシ署名』なわけでしょ? じゃあそれは、スシくんという人間そのものの態度表明だと、疑いようがないけどねえ」

「うきー、何でもいいから書けと言っといて、書けば書いたでそんなことを言う」

「ごめんね。ものごとは、多面的に見ないといけないのよ」


 ナハに礼を言われて、屋上をあとにしたスシは、生徒会室へ急いだ。アリバイづくりのため、途中、本当にトイレに寄った。

「ただいま戻りました」

 部屋に先に着いていたマヤ・クロハ・キヤは、息を切らせていた。

「・・・。クロハだけど、スシくん。きみは以前、キヤさんの罠で自分のリコール署名を自分で書きそうになったわよね。そのとき、何か心の部品が壊れちゃったんじゃない?」

「キヤですけど、そういう言われ方は、スシさんがかわいそうです」

「キラだけど、そうじゃなくて、クロハちゃんは、ただ単純にキヤさんが悪いって言ってるんですよ」

「マヤです。キヤさんが悪いのは、わたしも全面的に賛成です」

 キヤは黙った。

「スシだけど、まあまあ、みんな。そんな険悪にならないで」

「誰のせいで険悪になってると思ってるの!」=クロハ・マヤ同時発声=

「ひいい!」

 その後は、諸々《もろもろ》積み重なっている作業も進展せず、下校時刻になってしまった。スシがいつものようにマヤを途中までバイクで送ろうとしたところ、マヤはぷいっと横を向いた。

「スシくんの行動に抗議の意を示すため、クロハとわたしの合同で、対抗措置《たいこうそち》を取ることにしました。わたしらとスシくんの会話は、あす朝まで遮断《しゃだん》されます」

「簡単に言うと、あす朝まで口をきいてくれない、ということですか?」

「クロハだけど、悪いけど、そういうことね」

 クロハとマヤは、そそくさと下校して行った。

「キヤですけど、せっかくスシさんのバイクの後席が空いている日ですけど、わたしはワキと一緒に帰りますので、さようなら」

「キラは、パパちゃんが町長になって引っ越してから、スシくんと同じ町の住民になった。バイクに乗せてもらいたいのは山々。でも、きょうは、スシくんがこのあと用事ができるのが見当つくので、一人で帰ります」

「?」

 スシは、生徒会室に取り残された。最後の一人になると、部屋を施錠して、鍵を事務室に返しに行かなくてはならない。

「やれやれ」

 スシが事務職員に鍵を返して、さあ帰るか、というとき、ナハが声をかけた。

「スシくん。さっきからキラに送信しても、全然既読が付かないの。怒ってるのかな?」

「さあ、オレからは何とも」(たぶん、その通りだろうな)

「新聞、あす発行なの! キラに手伝ってもらえなさそうだから、スシくん、助けると思って、手伝って!」

(ははあ。キラさんが言ってた用事って、これのことか)

 スシは、短時間でいろいろ考えた。

(クロハさんとマヤさんは、オレとの会話遮断を敢行《かんこう》しているから、ナハさんの頼みを聞いていいか相談するのは失礼だと思う。部活が成り立たなくて困っている生徒の頼みをむげに断ったら、なんて生徒会長だと、批判されそう。相手がナハさんだと、それこそ新聞に書かれそう。ここはひとつ、大きな心で、手伝いをしよう。マヤさんとクロハさんには、デートと勘繰《かんぐ》られないように、手伝いのことをメールで報告だけしておこう)

「スシくん、返答はいかに。ことと次第によっては、こちらにも考えがあります」

「なんでオレが脅迫されるの?」

「イエスかノーか、その答えがほしい」

「まあ、手伝ってもいいです。はい」

「ありがとう。猫の手も借りたいのよ。自分の立場を危うくする署名を自ら書くような、弱っちい生徒会長は、とことん利用して、しゃぶりつくすのよ」

「それが新聞発行に携《たずさ》わる者の言葉か。ああ、署名なんかするんじゃなかった。つけこまれてしまった」


「学校に近い、いつものファミレスに行こうよ。おごるから」

 スシはバイクを引いて、ナハについて行った。クリスマスが近いこともあって、ファミレスはけっこう混んでいた。

「いらっしゃいませ、何名さまですか?」

「二人です」

「ひそひそ、バイト店員の泥縄第二JKだけど、ナハ、生徒会長連れて来て、どうしたの?」

「ひそひそ、何かをどうしようとか、そういう気はさらさらない」

「ひそひそ、まあいいや。頑張ってね」

 ナハはスシと、案内された席についた。スシが遠い目をしているので、ナハがスシの目の前で手を振った。

「いや、ごめんごめん。ここはね、オレが生涯《しょうがい》初のデートをした場所なんだよ」

「知ってる。相手はマヤさんじゃなくて、クロハさんだったんでしょ?」

「まあ、そうなんだけども。ずっと言われ続けるのかな、それ」

「ごはん、何か好きなの頼んで」

「自分で払うよ、自分の分は」

「マヤさんとクロハさんに怒られるから?」

「・・・」

 食事を急ぎ目に済ませると、ナハは新聞の作業に取り掛かった。

「スシくん、フロントページの『ナハを生徒会長に 現会長自ら署名』の記事に添えるコメント、まだもらってなかった」

「ねえ、そんなふうに載せられたら、オレは窮地《きゅうち》に追い込まれるんだけど。『自ら署名するなんて、最初から、やり遂げる気はなかったのか。会長選挙でオレたちが入れた票を返せ』となる」

「あー、わかったわかった。署名をやったともやらないとも書かないけど、読んだ人が『どう読んでも、これはヤってるね』と思えるようにする」

「言い方!」

「苦悩の末、彼は『私人』と書いた」

「まあ、どうやってもバレバレだね。まあ本当のことだから、しょうがない。好きに書いていいよ。言論封殺とか、報道管制とか、そういうのはしちゃいけないし」

「こういうとき最後までスシくんの味方をしてくれたオロネちゃんは、もういない。スシくんがキラ以外の女子役員全員に、とことん嫌われる、望外の展開に」

「唯一の味方のキラさんも、あと6日しかいられない」

「スシくんとマヤさんが生徒会室でキスしたとき、キラが新聞部に配慮を求めるよう、説得に来たでしょ?」

「ああ、あれは、1面トップにすると、対外的に妙な関心を呼び起こすだろうから、どこかよく読むと載っていなくもない、というかんじにできないか、と言ってもらっただけで、決して言論封殺ではない」

「そのときわたしは誓ったの。いつかスシくんとキラをキスさせて、1面トップにすると」

「どういう誓いなの? 1面トップが生徒同士のキスだなんて、どんな学校新聞なのさ」

「フロントページのコメントは『もともと、キラさんに入るはずの票をもらって会長に当選した身なので、キラさんを生徒会長にしてあげたいという気持ちが、全くないわけではない』。こんなかんじでどう?」

「いやー、なんか偉そうじゃない?」

「いいよ、このぐらい。でもって、6日後にはスシくんに、しれっと生徒会長に戻ってもらわないといけないんだから、ディスり過ぎはよくないし」

「戻ってもらう? 署名活動は、だめもとじゃなかったの?」

「欲が出てきた」

 2時間ほどで、ナハのPC《パーソナルコンピューター》に新聞原稿はほぼそろった。

「スシくんのおかげだよ。ほんと、ありがとう。あと、こまごましたのは、わたしが家でやるから」

「じゃあ、オレはこれで」

「ま、ま、ま。新聞はあらかた終わったけど、もう一つ手伝ってよ」

「?」

「今回、キラをすんなり生徒会長にできなかったのは、生徒会規約に原因があると思うの」

「ええー? 何を言い出すの?」


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