3章の2 まだ恋人はいないように見える
「何もしてないよ!」
「みんなごめんね、あたしがスシくんと二人きりになったら、とたんに涙が止まらなくなっただけなの。スシくんは悪くないの」
(キラさん、泥縄第三に行くの、まだ心の整理がついてないんだな・・・)
「マヤですけど、スシくん、キラちゃんとちょっと、お話して来たらどうですか? 生徒会室以外の場所で」
「え?」
「キラも、そうしてもらえると、うれしいな」
「え?」
キラと話して来いだなんて、どういう風の吹き回しだろうか。マヤの真意がわからず、スシがおどおどしていると、クロハも親指を立てて「行ってあげなよ」の意を伝えてきた。
「キヤですけど、スシさん。言わずもがなですが、これは校内デートシチュエーションですよ」
「マヤですけど、余計なこと言わなくていいです」
キラはスシの手を引っ張って、生徒会室から出て行った。
マヤは「変なことしちゃだめですよ?」とスシに釘をさすつもりだったが、それを言う方が「変なこと」のように思えて、言い出せなかった。
「クロハだけど。わたしもGOサイン出したけど、マヤも同罪だかんね」
「わかってる・・・」
スシはキラを、屋上に連れて行った。ところが12月下旬なので寒風が厳しく、女子バレー部の全国大会に備えた応援団の練習で、太鼓の音量が半端でない。会話する用事には向かないので、二人は早々に退散した。
「キラさん、どこ行く? 新聞部室に寄せてもらえる?」
「せっかくスシくんと一緒なのに、わざわざナハがいるところに行かなくてもいい」
「じゃあ秘密化身室にしようか。音楽準備室兼用とか」
「あそこも吹奏楽部の練習で、音圧がすごいでしょ。あたし、行きたい秘密化身室があるの」
「どこ?」
「体育用具室兼用」
「・・・」
体育用具室兼用の秘密化身室は、ほかの役員に化身できなかったキラが、「ないしょ2」の最終話で「いつかあたしがスシくんと二人で入るまで、使わずに取っておいて」と願った場所だ。
(うーん。今もって化身はできないキラさんだから、すぐに体育用具室兼用をオレと一緒に使う用事ができるとは思えない。でもあと6日しか泥縄第二にいられないのなら、心残りがないように、一緒に入ってあげるべきかなあ。あ、でも)
スシは、スマホに保存されていた「カニのエンタメクイズ」を出題した。
「さて問題です。マンガで校内デートの場所が体育用具室だった男女の、カップル成立率は? ①100% ②50% ③0%」
「答え知ってるよ。カニくんの調査の範囲では、体育用具室で主役男子と二人きりになったコは、ヒロインレースでは全滅だって」
「というわけで、今行くのは理科準備室兼用にしようよ」
「体育用具室兼用がいい」
キラはスシをまっすぐ見つめた。
キラは昇降口に歩いて行き、スシは無言でついて行った。二人のクラス、2年1組の下駄箱で外履きに替え、グラウンドにある体育用具室に向かった。
「ガタガタっ。いやー、オレの持ってる鍵は、コピーキーのさらにコピーだから、とても開けにくい」
「この場所に、ほんとにキラさんと入るとは思わなかったよ」=キラがスシの声色で発声=
「おっと。キラさん、ほんと、オレの声色うまいよね。マヤさんはまったく出せないし、クロハさんは始めたばかりだから、一日の長があるよね」
「今まではオロネちゃんがいて、化身は女子3人態勢だったから、女子同士で化身するので忙しかったんでしょう? スシくんがほかの人に化身して、見た目いなくなっても、どうということはないという感覚で」
「それはそうとオレ、『ないしょ3』と志を一にするテレビドラマをやっているのを見つけたんだ」
「ええ? 『ないしょ3』はまだ途中もいいとこなのに? やだ、スシくん。そのドラマ、題名に『スシ』と入ってるだけじゃない!」
「せっかく放送してるから、時すでに遅くならないうちに、乗っかっていこうかと」
「そのくらいなら」
「2020年3月に完結した『生徒会、ないしょの欠員1』は、世の中の後続の生徒会ものマンガの企画立案に、多少なりとも役立ててもらえたのではないか、とカニくんが言っている」
「スシくん、そういうのは自分の言葉で言いなよ。引用でなくて」
「生徒会にも六があることを、再認識させられたんだ」
「『六』って『穴』に似てなくもないか」
「高校が舞台なのに中学生の役員がいるというのは、一般化したのは『ないしょ1』の後だと思う」
「中学生って、泥縄第一のスハさんのことを言ってるのね。彼女はフェイクとはいえ飛び級入学で、高校生扱いだけどね」
「生徒会長が長身で長髪の女子というのは①『生徒会役員どうも!』②『熱いぞ!クマがや!!』③『少女&戦車最終章』④『葉と花を茹でる』などに見られる」
「②は『クマ』でなくて『猫』じゃないの?」
「しっぱいしっぱい」
「ねえ、そろそろ、ちゃんと話をしないと。せっかく校内デートの機会なんだからね。スシくん、あたしと初めて会ったときのこと、覚えてる?」
「もちろん。教室で転校を考え直せと言われて、どうしていいか、わからなかったよ」
「スシくん、あれからしばらく、あたしのこと避けてたわよね」
「そうかな?」
「『えー、そんなことない』って言ってくれるかと思ったのに」
キラはしょげ返った。
「うん、今はそんなことないから」
「スシくん、ここのところ、彼女のマヤちゃん以外の女と、よくキスしてるわよね」
「ぶっ、ごほっごほっ! そ、そうかな。そうでもないような」
「生徒会長選挙で張り紙されたとき、スシくんが、あたしのために怒ってくれて、それで」
「いや、あのときは、みんな怒ってたよ? キクハ先生も。ほんと、ほんと」
「ねえ、スシくん。困らせたくないからあまり言わないけど、あたしはあのときからずっと、スシくんが」
キラが間合いを詰めてきた。スシは後ずさりした。
「スシくん、壁を背にして下がるって、面白い」
「!」
キラはどうしてしまったのだろうか。スシと二人きりの状況と、あと6日で泥縄第二を去らねばならない運命とで、何かが弾けたのだろうか。
「キラさん、積極的、、、」
「スシくん。役員だけでなく、オロネちゃんやクモルさんともキスしたんだから、当然、あたしにもしてくれるよね? この際、事故に見せかけてでも」
スシが覚悟を迫られそうになったとき、人影が目に映った。
「あれ?」
ニヨニヨ
「!」
スシは飛びのいた。
「あっはっは! スシくんのリアクション最高。カニくんの移籍で選管の委員長に昇格した、レサでーす」
レサは、女子バレー部の練習コスチュームで、外履きを履いて来ていた。
「レサさん、どうやって入って来たの?」
「鍵開いてたし」
「そうでした」
「あなた方を邪魔してやろうという気はさらさらない。ナハさんが『キラを生徒会長にする運動』の署名を始めると選管に言ってきたので、スシくんに伝えとこうと思って。あなた方を邪魔してやろうという気はさらさらない」
「キラだけど、わざわざ2回言うところが、面白がってるだけくさい」
「スシくん、リコール署名の届け出なら、必要な日数不足で突っ張ねられたけど。ナハさんは戦術を切り替えたので、むげにはできない。署名がたくさん集まったら、近いうちに生徒総会をやることになるわよ」
「それは非常に困る。冬休み前の学業日は、あすとあさってしかない。いろいろなスケジュールがもろに影響を受けてしまう」
「女子バレー部の全国大会の壮行会は、あらゆるスケジュールに優先して、ちゃんとやってね」
キラは「まだ話終わらないの?」という目で、レサを見た。
「あはは。邪魔者はそろそろ消えます。あ、自分で邪魔者って言っちゃった。じゃあね。スシくん、頑張るんだよ」
「どう頑張るのさ」
レサは体育用具室から出て行った。
キラは再びスシを見つめた。スシは、レサが来たドサクサを利用して、キラとの位置関係をリセットする知恵は働かず、壁を背にして追い込まれたままだ。
「ねえスシくん」
「な、何かな?」
「スシくんには彼女はいても、まだ恋人はいないように見える」
「え?」
スシは何も言い返せなかった。
「スシくん、あたし、まだ何とかならないかなあ?」
「えーっと」
じー
また誰かいる。視線を感じる。
「わっ、ワキ先生、いいところに!」
「ちっ」
「スシくん、キラさん、ごきげんいかが。わたしは邪魔しに来たわけではないんだけど、校内巡回していたら、レサさんが体育用具室から出るのが見えたので」
「キラですけど、突然ですが先生は、キヤさんとどうやって付き合うようになったんですか?」
「え? ああ。キラさんが話を別な方向に持っていこうというのを、ヒシヒシと感じますが。でもキラさんはもうすぐ学校を去る人だから、ここでわたしがキヤとのことをごまかしたら、ヒドイですよね。なので、本当のことを言います。わたしとキヤは、」
キラとスシは、前のめりになって話に耳を傾けた。
「ともに泥縄第二の出身で、わたしが2学年上です。高校では接点はなかったんですが、わたしがバイトで講師をしていた塾に、キヤが生徒で入って来て」
キラとスシの目の色が変わった。
「と言っても、キヤが高校生のうちは、何もないですよ。わたしは教員採用試験に落ちて、大学卒業後はツテで、タキくんの家のスーパーチェーンに就職したんですけど、キヤが追って入社してきて、」
「ふんふん」=スシキラ同時発声=
「キヤはあんなだから、寄って来る男が多くて。そのたびにわたしは盾に使われたんです」
「キラですけど、キヤさんは先生を利用したんじゃなくて、先生が好きだったんでしょう? きっと高校のころから。そうでなければ2回も追っかけたりしません」
「うーん、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。今もって、わたしの方からは、カップルという実感は乏しいですね」
「ええーー!」=スシキラ同時発声=




