2章の4 ホワイト・マヤとブラック・スシかしら
「キヤですけど、そうじゃなくて。まず千葉県と兵庫県が選べます」
「スシは全然わからないけど、兵庫県にしようかな」
「そっちは大きいくじ(みたいなもの)ではないので、千葉県にしてください。こことこことここを塗って、金額は2・5万円。あとは数字ですが、木曜にならないと、どれが何番かわからないので、あとでわたしが塗っておきます」
「9-2と」
「しつこいよ! そうじゃなくて。ゴソゴソ、これ。この日記を読んでください」
「これ、暗号日記ですか?」
「さあ、どうでしょう」
「えーと。『赤黒が二つ』とあるけど、これは『赤黒が連覇』と『赤黒が掲示板に二つ』のダブルミーニングか。『去年のポスターに出てない男』ともあるから、連覇は連覇でも、ことしのウイナーは去年出られなかった現3歳のオスということか。『東の大舞台、宇宙は惜敗ドラマを繰り返す』とあるけど、21年前くらいに東京都で2着した宇宙が、ことし千葉県でまた2着するということか」
「不自然なぐらい、すらすらと出てきますね。いいですよ、スシさん」
「話題のドラマに関係あるとすれば、1着2着は王家のファミリー(乗り手が稼業になっている家)の人で、主役の『くりす』が1着、宇宙が2着。ま、いい、寝る」
「寝ないでください」
「先ほどのヒントと合わせると、1着の『くりす』はフランスと思わせてイタリアの方。2着は『たけ』は『たけ』でも『のりこ』の方」
「よくできました!」
「じゃあ9ー2と」
「てめー、コロスよ? いえ、あの」
電車は新前橋に着いた。ここから高崎方面に乗り換え、高崎からは大宮行きに乗り換えた。大宮に着くと、スシの隣のキヤはお役御免になり、クモヤは東京の収録現場へと出勤していった。
みなで改札を出て写真を撮り、またホームに入って、売店で買い求めた軽食を取り、11時52分発の川崎方面行きに乗った。スシの隣には、初めて会う初老の男性が来た。
「スシくんですかな?」
「あっ、わざわざわどうも、すみません」
スシは席を立って直立不動になった。
同じ車両のすみっこで見守っていたマヤ、クロハ、キラは、スシが「飲まれている」と感じて、心の中でエールを送った。
男性はEF。もちろんイニシャルで、本名は未公表。スシが幼いころからテレビなどでよく見る芸能人であり文化人。現在は泥縄系列の学校経営理事長を務めている。すなわちスシたちの命運を握っている人物である。
「そうそう、スシくん、大宮がなぜチェックポイントになったか、言わないと」
「さっきの電車に乗っていた間に、カニくんに聞いておきました。さいたま市北区に、盆栽事業所の松雪園というところがあるから、ここでいいんじゃないかと。ただ松雪園の読み方は『まつゆき』ではなく、『しょうせつえん』です。最寄り駅は、ほんとうは埼玉新交通の加茂宮ですけど、今回のルールでは大宮から往復すると減点2なので、大宮にしたそうです」
「設定したのはスエくんかキロさんだよね?」
「そうですよ、もちろん、オホン」
「スシくんは、泥縄第一にいたときは、何をしていたの?」
「えー。そうきたか。そうですねえ、中学の時はクモヤさんとクモルさんと同じ吹奏楽部にいました。楽曲制作とかも、ちょっとしていました」
「スシくんが女性と区別できない声を出せるのって、どうして?」
「楽曲制作に生かそうと思って読んだ本に、ハイトーンの出し方が載っていました。でも『がなり』みたいに、女性の振り絞るような声は、なかなかマネできません。フォルテとピアノのコントロールも、自分の声とやり方が違うので、相当歌いこんだ歌でないと、歌えません」
「スシくんは水泳が得意なの?」
「キラさんが相手だったから同じ時間で倍倍、いや倍、泳げただけです。クロハさんやマヤさんが相手なら、そういうわけにいかないと思います」
「スシくんたちの泥縄第二・第三の統合案、見せてもらったよ」
「どうでしたか?」
「学校経営側が困っていたところを、うまく回避してくれている。なかなかいい案だと思った」
「じゃ、じゃあ!」
「いい案はいい案なんだけど、ではそれで行きましょう、ともなりにくい。泥縄第一と第二の統合を推進していたのは、教員人件費の段階的縮減も念頭にあってのことなので。きみの案でも、学校は2校残るから」
「泥縄第三を系列に引き入れたのって、どういう意図からなんですか?」
「うーん、言いにくいんだけど、それまでの第三の学校法人が、運営をあきらめかけていたんだ。そこへ公共事業のための学校敷地譲渡要請があって、敷地の売却益で借金を返済するために、うちの学校法人に教員・生徒を引き受けてと打診があって」
「攻撃して関係者を拘束するようなやり方では、なかったんですね?」
「泥縄第三には、南米の国の石油のような資産はない。たとえあったとしても、攻撃なんてしない」
「あ、今の話だと、うちの学校法人には敷地売却益が入らないのか」
「そう」
「第三の生徒会の借入額が385万円あるとわかって、びっくりしていたところです」
「今も増え続けている。申し訳ないけど、学校経営側を頼らず、生徒のことは生徒でやってほしい。早めに手を打ったほうがいい」
「未来の生徒に押し付けずに、いまの第二と第三の生徒で人数割りして清算ですかね。第二の生徒は納得しないだろうなあ。でも第三の生徒の負担を重くすると、ただでさえモチベーションが低そうだから、ばたばたと学校を辞めそう」
「ほら、あの。泥縄第二には、勝利の女神がいるだろう?」
「オレの責任で、泥縄第一に流出させました」
「オロネさんじゃなくて、ほら、もう一人」
「え~! キヤさんは非正規生徒ですから」
「彼女がなんとかしてくれるかも」
「貢いでくれるとか?」
「そうじゃないんだけど、まあいいか。それで、来月の学校経営側の、校舎方針決定会合のことだけど」
「ええ」
「理事の数からすると、現状で泥縄第一への統合派が優勢。でも泥縄第二・第三統合派との差はわずか1人」
「第二の校長先生は理事に専念しただけだから、票数に変化はないのか。でも、あとたった1人なんですね? 同じ人数になったらどうなります? 町長選挙であったみたいに、抽選というのもありえますか?」
「同数になったことないけど、はっきりした規定がないから、抽選というのもあるかもね」
スシは、がぜんヤル気になってきた。
電車は川崎に着いた。EFは改札を出て、自分の事務所に戻っていった。
理事長と対等に渡り合ったスシを、みんながうれしさのあまり、もみくちゃにした。
「クロハだけど、スシくん! 絶対に移転と第三の合流を勝ち取ろう!」
メンバーは電車を乗り換えて、鶴見のホームに降り立った。改札を出て写真を撮り、再びホームに戻って列車に乗った。
14時54分発・大船行き。ここからのスシのパートナーは、クロハ書記次長だった。
「なんでクロハ書記次長になってるんですか?」
「こらスシ。わたしにマヤ相手みたいな口をきかないでよ。なぜクロハ化身か? 決まってるよ! これから、スシくんがクモルとキスしたことに文句を言う! 会話の間に間にネチネチ言うから、気イ遣いのマヤじゃないほうがいいんだ!」
「マニマニねちねち。微妙に違うような」
「微妙?」
「しかし相変わらずクロハ書記次長には、クロハさんになりきろうという心がない。ほかの人が化身をないがしろにすると、怒るくせに」
大船15時49分発。
熱海16時58分発。ここからスシのパートナーはマヤ副会長となった。
「これで、メンバー全員が相方になってくれましたね」
「スシくん、クロハ書記次長の相手、疲れたんじゃないですか?」
「いやー、そんなことないです」
「顔に出ちゃってますよ。でも無理もありません。なぜか列車4本連続でクロハ書記次長が相手でしたから」
「マヤ副会長には勝てないなあ。ホワイトヒロイン・マヤかしら。そんでもってオレが、ブラックヒーロー・スシ。自分でヒーローとか言ってしまった」
「まあいいですよ。それよりキラちゃんが『あたしばっかり20分だったのはひどい』って言ってます。あした以降、彼女の番を少し長めにします」
1日目の日程は安城までだ。今回のイベントではスエとキロが宿を手配したが、一行は初日に名古屋までたどり着けず、参加メンバーも多いので、安城の隣の三河安城近辺に範囲を広げても、一つの宿には入れなかった。スシマヤとカニオロネは同じ宿を割り当てられていた。
スシとマヤ副会長が座るシートの前に、オロネが現れた。
「スシくん、マヤ副会長。ごきげんいかが? きょう最後のチェックポイントの安城は、エンタメ名作のヒロインの名字そのままだから、説明不要だね。鶴見も説明してなかったけど、安城と同様ということで、ここでまとめて処理」
「わざわざご丁寧に、ありがとうございます」
列車は21時10分に安城に着いた。改札を通って駅の外まで出て、外観と駅名表示を撮影して、おのおの宿に散った。
スエが配宿したビジネスホテル近くのコンビニに、スシマヤカニオロネが顔をそろえた。なぜかキヤもいた。
「スシですけど、キヤさん、なんでいるんですか?」
「あなたがた高校生が夜間徘徊するなら、付き添いの成人がいた方がいいかと思って、地元に一足先に戻るのをやめたんです」
「オロネだよ。スシくん、マヤちゃん。今作は『ないしょ3』だから、何か『3』に関係ある商品をゲットするゲームをしようよ」
「どうやると勝てるのか知らんけど、オレ負けないよ!」
◇お知らせ
2章の4の【朝読書向け】と【朝読書以外向け】は、2026年3月28日に統合されました。




