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第十五話 アコギな商売



 狭い食堂には僕とスヴェンを含めて6人の人間が集められていた。


 アルシャ、バーブ、ボコハ、ラム。スヴェンと同年代らしきこの4人が本船の乗組員だと言う。

 

「チンピラに襲われたって……何やってんだ! この間抜け!」


 ラムの予想通りにスヴェンを叱り飛ばした女はアルシャという名で、副船長のような立場らしい。この船では船長より偉い人間がいるようだ。


「今回のスヴェンに落ち度は無いだろ?」

「そうそう。商談蹴ったくせにチンピラ嗾けるとかバカじゃん?」

「飢えた馬の鼻先にニンジンぶら下げたからだよ。スヴェンは蹴られに行ったんでしょ」

 

 バーブとボコハの男2人はスヴェンに味方し、アルシャとラムは危機感が足りないと説教を続ける。


「ガキの頃から山羊の世話が下手だったからねアンタは!」

「馬と山羊は違うんじゃ……いえ、何でもありません」


 馬と言えばウーマはどうなっただろう。ブラド号に放置したまますっかり忘れていた。


 あの馬なら何処かで好きなように生きている気がするし、飛行機が飛ぶようになっても馬を乗せられるのか知らない。


「なぁ。馬は飛行機に乗れるか?」

「さぁ? 乗れないんじゃない?」

「私らも乗ったことないし。わからないね」

「そうか。続けてくれ」


 始めは警戒していた乗組員たちだったが、スヴェンの事情説明を聞き、僕が遊郭の若衆だと知ると態度を軟化させた。特に女2人は椅子を薦めたり茶を出したりと世話を焼いてくる。

 

「そうか! 帝国産馬の空輸! これは商機かもしれない!」

「話を逸らすんじゃないよ」

「あからさまだよね」


 マズい茶を啜りながら会話に聞き耳を立てていると、スヴェンがやろうとしている商売が見えてきた。今日失敗した商談の相手はあの奴隷商館の主だ。


「アルシャ。もうその辺にしとけ」

「まったくアンタは……これ以上言っても仕方ないか」

「それで? ()()()は?」

「とりあえず甲板磨き命令しといたよ」


 スヴェンが奴隷商人に売り込もうとした商品はボコハが言うところの『黒いの』――あの甘い匂いの女だ。


 西南五島の近海でたまたま捕まえた半魔らしい。


「漁網を引き揚げたら魚と一緒に半魔が入ってるじゃない。びっくりしたよホント」

「あの時は生きた心地がしなかった。スヴェンの悪運にも困ったもんだ」

「悪運なもんかい。金を生む豪運の持ち主と言ってくれ」


 毒づくアルシャの回想によると、予期せぬトラブルにより前の島で代金を回収し損ねてしまった。扱っていた商品は人間奴隷だ。


 金が無ければ次の仕入れもできないから漁師の真似事をして小銭を稼ぐつもりだったが、半魔が獲れたことで事情が変わったと言う。


 コイツらの話には大きな矛盾があった。


「お前らには無理だ」


 どれだけ着込んでいようと見ればわかる。あの女は強い。


「こりゃ……驚いたね」

「さすがだ。ヤクト君にはわかるか」


 生き物としての性能が人間よりも高いのだ。たぶんヘルメスが連れていた半魔奴隷たちより身体能力は上だろう。


「どうやって捕まえた?」

「そこがスヴェンの悪運の凄いところなんだ」

「いやはや照れるなぁ」

「バーブが甘いからってつけ上がるんじゃないよ。別に褒めてないんだからね」

 

 聞けば、あの女は始めからスヴェンの奴隷だったのだと言う。


 スヴェン本人も忘れていたのだが、数年前にとある島へ奴隷を売りに行った時のこと、買主の方がまとまった金を用意できなかった。


 しかし、どうしても奴隷が必要だと言うので、とっておきの奴隷証券を金の代わりに貰ったらしい。


「奴隷証券って何だ? 隷属契約とは違うのか?」

「お姉さんが教えてあげるよ。最近は奴隷ばっか扱ってるから結構詳しいの」


 奴隷とは隷属魔堰に縛られているから奴隷なのであって、それに付随する奴隷証券はただの書類に過ぎない。


 ただし、商法的な価値を持つのは書類の方であるから、証券の持ち主がその奴隷の所有権を持つことになる。


「スヴェンは隷属契約を結んで、証券貰って、その上で奴隷本人は島に置いてきたのよ」

「はぁ? なんでだ?」

「得意先だったからねぇ。要するに先行投資さ。私が連れていても宝の持ち腐れだったんだよ」


 半魔は肉体の成長が早いとはいえ、当時の『黒いの』はまだ幼く、子供を産めるような体格ではなかった。


「へぇ……ホントに家畜なんだな」

「ヤクト君……ホントに10歳かい?」

「肝が座ってんじゃんか」

「さすがは遊郭の若衆だな」

 

 半魔の撲滅に向けて動く人間がいる一方で、()()()()とする人間もいると言うことだ。

 

 奴隷にして売るところまで計算に入れれば、確かに効率の良いやり方ではある。


 しかし、それを生業とする島に人間奴隷を売りに行くということは――。


「……軽蔑した? そりゃするよね」

「別に」

「姿かたちが人間に近い方が高く売れるそうだ」

「だけども、人間の血が濃すぎると身体能力が落ちんだと」

「その匙加減が難しいって……阿漕(アコギ)な商売もあったもんさ」


 人間と半魔を交配させて()()()()()()半魔を造り出し、奴隷として売り捌く。


 僕の人間に対する認識が大きく変わった。

 

「私たちの得意先はブリーダーという外道だ」

 

 別名、育種家とも呼ばれるらしい。


「無論、敵が多いので島の所在は極秘。守秘義務契約を結んでいるから喋れないし……おれたちも助かっている」

「売れない人間奴隷を半魔の苗床として売り捌いてんだから、ボクらの地獄行きは確定じゃん」

「はははっ。地獄の沙汰も金次第さ。地獄聖女の自伝を読んでないのか? この世界こそ地獄らしい」

「あれ怖いけど面白いんだよね。リアリティが半端じゃないって言うかさ」

「バカだね。ありゃフィクションだよ。本気にしてどうすんだい」


 スヴェンもそうだが、他の4人も何かがおかしい。


 丹田は激しく回り続け、喜怒哀楽の表現とは裏腹にまったく澱まないのだ。


 人を人とも思わない人間と商売をするうちに当てられてしまったのか。


 原因は定かではないが、油断のならない連中だ。


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