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第七話 呼び出し



 2日後の早朝、海軍基地から呼び出しが掛かった。ムヅキではなく僕に対してだ。


「わっちもお呼ばれされてんす」

「何を張り合ってんだ?」


 基地の外壁に空いた大穴は廃材を寄せ集めたもので目張りされ『立入禁止』と書かれたテープが張り巡らされている。


「閣下のお呼びでありんす」

「ムヅキさん。お待ちしておりました」

「僕も呼ばれたぞ」

「テメェはついでだ」


 今度は普通に門から入ることができた。建物の修理を進めているらしいが外見は大して変わらず壊れたままだ。


 僕とムヅキは辛うじて残った区画の廊下を進み、奥まった場所にある応接室へ通された。


「…………」


 背後に鬼みたいなファンタズマゴリアを展開するアイゼが居た。


「西の錨地で落水した行方不明者の通達はあったでの。ちょいと調べればヤクトのことじゃとわかったので……ガハハハっ! 保護者を呼んでやったぞい! ガハハハハっ!」

「……閣下のご高配に感謝いたします」


 アイゼと一緒に来て、斜め後ろに控えるティタンが身振り手振りで『謝れ』と言う。ダラダラ流れる冷や汗が恐怖の度合いを示していた。

 

「さぁて……ヤクト。どういうことか説明してくれるか?」

「島の獣にわからせようとしただけだ」

「意味がわからない! ちゃんと説明しろ! というか! なんで遊郭なんかに入り浸ってるんだ! そこのところをしっかり説明しろ! 場合によっては許さないからな!」


 アイゼは泣きそうな顔で頬をパンパンに膨らませて怒っている。泣かれると困るのでここに至るまでの経緯を教えてやった。


「帝国の治外法権に押し入っただと!? 何を考えてるんだ! バカなのかお前!?」

「ティタン五月蝿い。お前には関係ないだろ」

「そんなことより! なんで遊郭なのかを説明しろ! そこの遊女に誑かされたんじゃないだろうな!?」

「アイゼも五月蝿い。金を稼げれば何でもいいだろ」

 

 僕は従者だから金を稼ぐ必要など無いと喚くアイゼだが、自力で食い扶持を賄えないヒモなんかまっぴら御免だ。


「どうせすぐ帝国に発つんだ! 頼むから飛行機の予約が取れるまで大人しくしててくれ!」

「それじゃがの、帝国行きの便は暫くお預けかもしれんぞい」

「閣下。それはどういうことですか?」

「本国から一報があってのう。少々キナ臭くなりそうじゃ」


 帝国陸軍や情報部の目を掻い潜り、大陸で暗躍するテロ組織が大規模な破壊工作を計画している。


「テロ組織?」

「テロって何だ?」

 

 その組織の構成員が中継島方面へ向かったらしいと、未確認の情報が帝国大使館に齎されたのは昨日のこと。


「非常に確度の高い情報じゃ」

「未確認じゃないのか?」

「教会も動いたのじゃ。要するに異端審問官がここに来よる。極度に忙しい彼奴(きゃつ)らが動くほどの事態じゃし、下手をすると血の雨が降るやもしれん」


 教皇から何らかの密命を帯びていると見るべきで、異端審問官の任務には帝国も積極的に協力する。


「この基地にも出入港船の監視を強化せよと指示が来たんじゃ。疑わしきは沈めても構わんとな。おそらく飛行機も例外ではなかろう」

「義姉上。飛行機の手配は……」

「ハリッシュとアユーに任せてきた。今頃は庁舎だろうが……」

「ふむ……ドラント王家は絡んでおらぬと見える」

「当然です。大陸のテロ組織と関わりのある者などおりません」

「だからテロって何だ?」

 

 ティタンが要約するところでは、ある種の人間が自分の考えを周りに認めさせるために、物を壊したり、人々を殺傷したりして怖がらせることらしい。


「殺して奪うってことか?」

「テロにも色々とあるから一概には言えない。自分たちの正義を信じて無辜の民草を傷つける厄介な連中もいる」

「セイギ? 何だ?」

「自分にとっての正しいことや信条の話だ。人の数だけあって然るべきものだが、まともな人間には受け入れがたい正義を叫ぶ狂人もいるのが人の世だ」


 わかるようでわからない話だが、大事なことは1つだけだろう。


「そいつらは強いのか?」

「どうじゃろうな。強者か否かはさておき、こそこそ動く小物ほど面倒なもんじゃ。シュキ・イーシュタルのようにのう」

「――まさか! 破壊工作とはそういうことなのですか!?」


 シュキ・イーシュタルの悪名は改造魔獣の脅威と共に語られ、大英雄とは真逆の意味で歴史に名を刻まれてしまった。世紀の大テロリストと呼ばれているらしい。


「悪意ある者が改造魔獣を手に入れたとすれば……ああっ!?」

「大変だ! とんでもないことになるぞ! 大変だぁ〜!」


 アルローという国の辿るべき歴史を変えたとすら言われる『魔獣海戦』は大規模テロ事件として、学園でも必修扱いされている近代史の大事件だと言う。


 新入学生でない僕には無関係だが、予習に余念が無いティタンも在学生アイゼと同等の知識があるようだ。


 たしかに模倣犯が生まれていても不思議は無いと、アイゼとティタンは恐れ慄いている。


「改造魔獣って食えるのか?」

「「食えるわけないだろ!」」

「すまんかったの。シュキめの話は冗談じゃ」


 ノーマン家と旧イーシュタル家は同じ帝国貴族でありながら、昔から世代を超えて犬猿の仲を自認するほど仲が悪かったと言う。閣下もその御多分に洩れず大嫌いだったらしい。


「テロリストとて命は惜しい。改造魔獣に手を出してただで済むわけがないんじゃ」


 当時はテロという言葉すら無かったが、貴族の、しかも公爵家の人間からテロリストが生まれたことを受けて、帝国が定めた対テロ基本法は非常に厳しい。その中でも特に厳格な法が改造魔獣対策基本法だ。


 違反すれば国も身分も関係無く死刑が確定する。間違いなく異端審問官が飛行魔堰で滅殺しにやってくる。


「そ、そうですね。育てるにも時間が掛かるという話ですし……」

「絶対に告発する者が出るからな! あり得ないな!」

「そういうことじゃ。そこまでの大事ではないが、基本法を盾に迫られれば自治部会も嫌とは言えん。テロリストは中継島で袋のネズミじゃろう」

「それで飛行機も欠航するというのが閣下の読みなわけですか。なるほど納得です」


 遅れが出ると言っても異端審問官がテロリストを仕止めるまでの措置であり、その前に呆気なく逮捕される可能性もある。

  

「じゃからそれまでの間、ヤクトはムヅキに預けることでよいな?」

「何故ですか!? それとこれとは話が違う!」

「100万ムーアじゃ」


 壁の修理代らしい。基地の建屋を壊したのは艦砲なので基地の予算で賄うが、壁に穴を開けたのは間違いなく僕だから弁償しろと言う。


「うっ……100万ムーアですか……私の通貨魔堰でお支払いします」

「いかん! それはいかんぞい! 若いうちからヒモはいかん!」


 言うことはもっともだ。僕もヒモは嫌だ。


 島での滞在期間が長くなるなら益々稼ぐ必要が出てきたということ。


 遊郭という場所は嫌いだが、ムヅキの手伝いは色々と勉強にもなる。


「何の勉強だ!」

「アイゼは何を怒ってるんだ?」


 それから何故か宴会が始まり、仲間がいるなら呼べと言われてハリッシュとアユーも合流した。


 案の定、中継島発の飛行機はすべて欠航していたらしい。


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