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第四話 南



 ゴミ男たちから奪った臭い身ぐるみは東岸の南端で捨てた。臭すぎて嫌だったから。


 僕がその場を離れるとすぐそれに群がり、欲しいものだけ奪っていく人間たちはやはり鼠のようだった。


 あれはあれで1つの強さなのかもしれないが、それとは別に地べたに座り込んだまま立ち上がらない人間たちが謎だ。


 両手をお椀の形にして差し出してきたあの連中は何者だったのか。


(丹田が死んでた……なんだあれ?)


 無意味な行為が意味不明だったので無視したが、向けられる視線は僕を見ているようで何処も見ておらず、とても気持ち悪かった。


 あんな連中が居る場所で金を稼げるわけもない。とりあえず東は駄目だ。これで南もダメなら大型鳥を狩って肉にして売るぐらいしか思い付かない。


 鳥狩りについて考えながら南岸を歩いていくと、波打ち際を隠すように聳える高い壁が見えてきた。


 5メートルほどの高さで西に向かって続いており、上部には棘の付いたワイヤーをコイルした物が何重にもぶら下がっている。


(……意外と面倒だな)


 ワイヤーの強度自体は大したことはなさそうだが、ところどころに付いている剃刀のような棘は無視できない。


 一足飛びに越えられる高さではないし、少しでも引っ掛かったら弛んだワイヤーに絡め取られて全身に小さくない傷を負うことになる。


 ワイヤーは陸側に向けて垂らされているので、この壁は海岸への侵入を防ぐためにあるのだろう。


(……気になる)


 水上歩法で海から回り込んで見ようかと思っていたら、壁の前に直立不動で立っている2人の男が目に入った。


 男たちの間には壁に設けられた門扉があり、今は固く閉ざされている。


「おい。仕事はあるか?」

「「……」」


 男たちは答えず、目線で門前の看板を指した。


『在ムーア・ドラント中継島神聖ムーア帝国大使館 兼 帝国海軍第三艦隊分艦隊基地』


 長ったらしい名前には『大使館』の文字が入っている。


 つまり、ここはドラント本島で訪ねたニホン国大使館と同じような場所なのだ。あの時はイーロやマリーナから得た情報が役に立った。


「1番偉い人間に会わせろ」

「……帰れ」


 やはりこの島の人間の方がドラントの連中よりも冷たい。ベルさんはこの島に来たことが無かったのだろう。


「それでいいのか?」

「……帰れと言っている」


 わざわざ玄関から来てやったのに、門番の態度に腹が立った僕は海から回り込むのをやめた。


 門から100メートルほど離れたところまで移動し、白い壁に片手を当てがい――、


「――ハっ!」


 発勁を打ち込んで壁に穴を開け、職を求めて敷地内に入った。


「敵襲〜! 敵襲ぅ〜!」

「警報鳴らせ! 緊急事態だ!」

 

 門の方からピーピーと笛を吹く音が近づいてくる。


 何をしたところでアイツらに僕の労働意欲を挫くことはできない。


「何者だ!? 神妙にしろ!」

「まだ子供じゃないか! 門兵は何をやっていた!?」

「外壁を破られた! 素手で破壊したんだ!」

「ファンタスマゴリアを装備! 二聖かもしれん注意しろ!」


 騒ぎながらワラワラ集まってくる人間たち。距離を取られると面倒なので一気に間合いを殺し、敵中のど真ん中に入った。


「おい。仕事はあるか?」

「――なっ!? いつの間に!?」

「近すぎる! 徒手格闘だ! 同士討ちを避けろ!」

「おのれぇ〜! どこの手の者だ!? 自治部会か!?」


 徒手格闘をやりたいらしい。同士討ちを避けたいらしい。


 だったら同士討ちを避けつつ、多勢の利を活かせる徒手格闘を教えてやろう。


「まず互いの距離が近すぎる。もっと離れろ」

「ぐわっ!?」

「ごふぅ!?」


 数人組で固まっている男たちに蹴りや拳打を当てて散らし、ちょうど僕の死角に入った男にわかりやすい隙を見せてやった。


 これほどの隙を突かないわけがない。後は適当に避けながら順番に隙を見せてやって、多数だからこそ得られる無限通りの勝ち筋を教えてやればいい。


 ところが、その男は変な構えを取ったまま動かない。


「……何してる? 早く来い」

「な、何者だ!? まずは名乗りを上げるが武人の――」

「お前はいいや」

「キュウ――ぐぉおお〜……んごぉ〜……」


 人間には向き不向きがある。この男は戦闘行為に向いていない。きっと事務方として働く大使館職員なのだろう。


 瞬時に闘志を燃やせない人間は別の強さを求めるべきで、今は邪魔なので眠りのツボを押して優しく寝かせてやった。


 最近はハリッシュやアユーに体術を教える機会も多く、この手の指導には自信があったりする。


「小隊長!? マザーコンプ小隊長〜!」

「バカな!? 大陸人魔戦線を生き残った豪傑だぞ!?」

「死ぬなマザーコンプ卿! くっ……意識が無い!」

「……お前らもいいや」


 倒れた仲間をいちいち気遣って無用な隙を晒すようでは話にならない。そんなことより僕の隙を見つけることに集中してほしい。


「「「んごぉおお〜……」」」


 追加で3人を眠らせ、4人、5人と向いてない人間を眠らせていくと、5分ほどで誰も居なくなった。


 剣や具足を装備していたのでてっきり兵隊かと思っていたが、全員事務職だったらしい。


(これで仕事終わりでいいのか? 報酬は……身ぐるみ剥げばいいか)


 先ほどの臭い男たちより持ち物は上等だ。特に臭くもないし、商業港の誰かに売れば金になるだろう。


「――むっ」


 マザーコンプキョーと呼ばれていた男の剣を奪い、兜を奪って鎧を剥ぎ取ったところで、海岸近くにある建物から小さな火の玉が飛んできた。


 ティタンの『圧縮火球』よりずっと小さいその魔法は、アイツが航海初日に練習していた『火弾』だろう。


(ティタンの火弾より遅い。こんなの当たるわけない)


 ポムポムといくつも飛んでくる『火弾』をひょいひょい避けていると――、


「――っ!」


 逆方向から『火弾』が飛んできた。


 別の敵が潜んでいたわけではなく、放たれた10個の『火弾』がそれぞれ別の軌道を取って僕の周囲をゆっくり旋回している。


「へぇ……!」


 絶妙な時間差と速度差を持って全方位から襲い掛かる『火弾』の群れ。


 同じ魔法でも使い方次第でこんなに面白いとは驚きだが、宙を漂い不規則に動く火の玉はやはり不自然だった。


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