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第三話 西北東



 海岸に近い場所ほど人間が多いので、その辺りで仕事を探すことにした。


 島の西岸――商業港地区。

 

 四角い島の4辺はきっちり東西南北を向いており、僕が上陸した西沿岸は倉庫が建ち並ぶ港町だった。


「おい。仕事はあるか?」

「あ? 仕事だ? ちょっと待て……おやっさーん!」


 船から降ろした積荷を倉庫に運び込んでいた男の1人に尋ねると、搬入口に立っていた髭面の男を呼んだ。

 

「ここで働きたい? 人足は間に合ってるが日雇いでいいなら……っておいおい」

「なんだ?」

「どこのご令嬢か存じませんがね、冷やかしなら他所でやってくだせぇ」


 港には雑多な人間たちが犇めいており、身なり1つを取っても綺麗なのやら汚いのやら、入り混じっている。


 どの倉庫へ行っても同じように断られ、入港している船の人間に頼んでも同様だった。出店の屋台は言わずもがなだ。


 もちろん女も多くいるのでフェイスベールを外すわけにはいかないが、どうやら僕の見た目はここいらで働く者たちとは別種の人間として映るらしい。


「黒髪だからって何で働けないんだ?」

「厄介ごとは御免です。早いとこ、お屋敷か持ち船に戻られた方がいいですよ」


 僕を雇うことで不利益を被る可能性があるということだろうか。黒髪が目立つからと、よくわからない理由で断られる。


 ベルさんはドラントの人間は他所者に冷たいと言っていたが、コイツらの方が冷淡だと思う。

 

「なら何処に行けばいい?」

「まったく……従者は何やってんだか……迷われたのなら北の行政地区に行かれては? 立て込んでおりますのでここで失礼します」


 対応は終始丁寧だが、敬遠されていることがヒシヒシと伝わってくる。誰も彼も、言われなくても理解しろと言わんばかりだった。



**********

 


 島の北岸――行政地区。


 最後の男が薦めた場所にやってきた。


 西岸よりも子綺麗で整った印象の街並みが続き、立派な建物に屋号を掲げた商店も数多くある。


「おい。仕事はあるか?」

「え? な、何ですか?」

「金が必要だ。働く場所を探している」

「よくわかりませんが……お困りなら自治部会庁舎へ行かれては?」


 道を歩いていた身なりのいい男が指差す先には、商店街の屋根越しにも見えるほど背の高い、白くて大きな建物があった。


 どことなくニホン国大使館を彷彿とさせる造形だが、あれが中継島自治部会――この島の人間たちをまとめている連中の棲み家らしい。


 王様や領主のような人間がいるならソイツと話をした方が手っ取り早いだろう。


 そう思って商店街を抜け、庁舎の敷地を正門側に回り込んだところで北の海岸線が見えた。


「……ん?」


 西岸と違って港に船が見当たらない。


 沖合も水平線まで船影の1つも見えず、しかし、代わりに変なものが浮かんでいた。


 のっぺりとした白い巨大な箱だ。こちらを向いている部分の長さは1キロを優に超えているだろう。


 明らかに船ではないが、遠く海上に浮かぶ箱は島の岸壁まで届く太い鎖で船のように係留されており、その上には黒い変な形のものが載っていた。


 ヒィィィイイィイイ……イィィイイイイイイイイイイ――ンッ!


 その時、北の空から地鳴りのような轟音が近づいてきて、大きな黒い鳥が僕に向かって降下してきた。長く真っ直ぐな翼は羽ばたいていないが、空を飛ぶなら鳥だろう。


 戦うにしろ逃げるにしろ強敵には違いない。ぐっと身構えて相手の出方を窺うこと暫し――僕は自分の目が狂っていたことを知る。


「……は? むむっ!?」


 鳥は僕の目測を超えて遥かに大きかったのだ。


 僕に向かってきていたわけではなく、海上の白い箱の上に降り立つや爆音を奏でて緩やかに減速し、鼻先を横に向けて先ほど見つけた黒い変な形のものの隣に並んだ。


 アレはあの大型鳥が横腹を向けて止まっていた姿だったのだ。


 同じ鳥が何匹も整然と並ぶ白い箱は、巨大な鳥の巣だった。


(なんだアレ!? 捕まって飛ばれたら死ぬじゃないか!)


 あんな大型鳥の巣を目の前にして呑気にしていられるはずもなく、僕は慌ててその場を離れて東へ向かった。


 無策で挑むには危険すぎる相手だが、あれだけの大物だ。


 きっと食べ応えがあるに違いなく、獲物が居ないと諦めていた島に一縷の希望を見出すと共に、やはりアイゼは連れて来なくて正解だったと思う。


 まずは逃がさないように上手く狩る方法を考えなければなるまい。1羽になるのを待って寝込みを襲えばやれるだろうか。



**********



 島の東岸――謎の場所だ。


(なんだここは? なんだコイツら?)


 とりあえず臭い。そこら中から糞便臭が漂い、近づきたくない雰囲気が充満している。


 焚き火を囲んで地べたに座る人間たちの目には生気が無く、殺してくれと言わんばかりに寝転んでいる者も居る。


「おい……アレ見ろよ」

「……運が向いてきやがった」


 ゴミみたいな廃材の山からゴミみたいな人間が湧き出してきた。何が嬉しいのか変な顔で笑っている。


「有り金を出せ……全部だ」

「面倒くせぇ……身ぐるみ剥いじまおう」

「お嬢ちゃん……マヌケな自分と従者を恨むんだなぁ」


 ゴミみたいな臭い息を吐く12人の男たちが僕を取り囲み、じりじりと距離を詰めてくる。間合いの取り方が下手すぎて何をしたいのかわからない。


「おい。仕事はあるか?」

「仕事? ひはっ……そりゃあるさ」

「よく見りゃヤベェくらいの上玉だ……」

「全員の相手してくれよ……1人3発は頼むぜぇ」

「それが仕事か」


 言われたとおり仕事をしてやった。


 1人3発ずつきっちり入れて12秒で全員を沈めると、いつの間にやら周囲から人の気配が消えている。まるで鼠のような連中だ。


「報酬は有り金と身ぐるみだったな」


 12人の男からすべてを奪った。


 コイツらの持ち物で僕が欲しいものは僅かばかりのムーア銅貨だけだったが、仕事の報酬はきちんと受け取らなければ舐められるかもしれない。


「むぅ……金を稼ぐのは大変だ」


 東岸には船どころか港すら無い。


 海岸線には臭いゴミ溜めしかなく、島内の不要なモノが糞尿やら死体やらと一緒に東の海へ流れ出している様子だ。


(島から離れる潮流があるのか……結構速い)


 西岸沖の錨地へ着いた時に船長が気にしていた離岸流だ。


 西と東では条件が異なるのか、沿岸部の環境もかなり違っていた。


 商業港があれだけ混雑しているにも関わらず放置されているということは、東岸は港として使い物にならない地区なのかもしれない。


 ここで仕事をしても儲からないと思った僕は南へ向かって波打ち際を歩きながら、ゴミ溜めから湧き出すゴミ男たちの仕事もきっちりこなして小銭を稼いだ。


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