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第六一話 鑑定魔堰



 城内1階の吹抜け空間。そのど真ん中にデンと鎮座している黒い建物があった。


 叩いてみたが聞いたことのない音がする。木、石、金属のどれでもなく、王都では多く見かける白い建材に近いだろうか。


「なんと罰当たりな……アイゼンプルート殿下?」

「うっ……暫し待て。こらヤクト! こっちに来い!」

 

 鑑定魔堰の遺跡は神聖なものらしい。どう神がかり的なのかわからないが、そういうものだから大人しくしていろと言われた。


 全員分の鑑定料は既にティタンが集金してまとめてある。


「ティターン殿下が確認なさったのなら、私に否やはございません」

「そうはいくまい。貴公にも職責がある」

「それは無論そうですが……お手間を取らせることもないかと思いまして」

「くどい。共に検算せよ」

「はっ。失礼いたしました」


 王城勤めの遺跡担当官との間で被鑑定者の人数と年齢、鑑定料の額面を確認してあっさり許可を得た。


「皆々様が遺跡内でお待ちかねです」

「……父上もか?」

「もちろんです。国王陛下も殿下の鑑定に期待されております」


 担当官が遺跡の扉を開くと、ティタンに続いて全員でぞろぞろと入っていく。アイゼやアユーも鑑定魔堰に触れないという条件で見学を許可された。


「中も黒いな!」

「天井に光マセキがいっぱいだねー!」

「こら……お前たち。静かにせよ」

「「「はーい」」」


 遺跡は内部もすべて黒い素材でできており、埋め込まれた光魔堰の冷たい灯りが壁の漆黒と紫の絨毯を照らしていた。


「下には王族の方々が居られる故……まずは我を真似て平伏するのだぞ?」

「王さま? デンカさまより偉い?」

「父上はこの国で1番偉い。子供でも無礼は許されんからな」

「「「はーい」」」


 下り階段を降りるとここは地下だ。一際毛足の長いふかふかの絨毯が敷き詰められ、奥まった一画には一段高いスペースが設けられている。


 いくつかの椅子が並んでいて、疲れた様子の男たちが座っていた。

 

「父上。ご無沙汰しております。ティターン・ドラント、罷り越しましてございます」


 ティタンが前に出て、真ん中の男に向かって片膝を突き、腰を折って頭を下げた。


 ハリッシュもその後ろに控えるように同じ姿勢を取り、アユーは子供たちの背を押してハリッシュの横に並ばせ同じように畏まる。


「うむ……暫く見ぬうちに精悍となったな」


 あんな風に座って視線を下げていたらすぐ死ぬじゃないか。


 そう思ったが、アイゼが僕の腰を抱いてグイグイ引っ張るので、やりたいようにさせた。


 イザとなったら動けるよう膝に若干の余裕を持たせ、ギリギリで床から浮かせる。


 男たちの位置取りや体格、得物の種類を確認し、どの男から落とすか決めた。担当官とかいうヤツからだ。

 

「ありがたきお言葉。義姉上の薫陶の賜物にございます」

「で……あるか」


 王様はアイゼを見て、それから僕をチラっと見て、目が合うとすぐティタンに視線を戻した。


 ティタンの紹介を受けて名乗ったハリッシュも王様に丁寧な挨拶を述べている。


 王様は相槌を打ちながら聞き流しているだけだ。見た目だけは立派そうに見えるが、あれは脳みそを回している人間の顔ではない。


(あいつは弱い。ボスなのに弱いのか……変なの)


 王様とは人間の国のボスという認識だったが、王様より強いティタンやハリッシュが頭を下げている。


 こちらには武器が無いし、ここは狭いのでティタンは微妙かもしれないが、ハリッシュなら徒手空拳でも勝てるだろう。


(魔法? 知恵? 経験? わからない……けど油断はしない)


 男爵しかり、イーロしかり、宿屋の主人しかり、人間の中には僕の知らない強さを持つ者がいる。

 

 王様もその類いの人間なのだろう。その気になればこの場の全員すぐに殺せるとしても、それは誰も望まないことだ。


(アイゼの父親でもあるし……死んだら自殺するか?)


 それはダメだ。アイゼを死なす原因は何であろうと許さないが、僕自身がそうなる可能性もあることを知った。


 自分の行動の結果が信用できない。だから大人しくしておくしかない。


 そして何よりも――、


(アレが鑑定魔堰……この世のモノとは思えない)


 男たちが座っている場所のさらに奥にはもう1つの小部屋があり、廊下より薄暗い空間の中央に黒い壁のようなモノが浮いていた。


 透明の土台があるわけでも、天井から吊っているわけでもないのに宙に浮かび、不自然なほど寸分たりとも動かず、何の音も発しない物体――鉱山以上に不自然な存在だった。


(なんか嫌な感じ……覇気に近いか)


 黒くて平たい長方形の壁から発している気配は黒々と滲み出し、小部屋の小空間はほとんど異界になっている。


 これ以上は入ってみなければわからないが、魔女の魔法とも違う異様な気配を放つモノがただの魔堰であるはずがない。


(これに金を払って触りたがる……わからない)


 危機感の欠如も甚だしい。


 アイゼは既に触れてしまっているので遅いが、その場に居たら確実に止めていただろう。


 ハリッシュの挨拶が終わり、担当官が王様に手順を確認している。


 まず最初にティタン、続いて他の子供、最後にハリッシュと鑑定を進めるそうだ。


(僕が先に行くべきか? ただ、実績だけはあるし……)


 そこが問題だった。鑑定魔堰は1万年以上前から変わらずこの場所にあり、世界中の人間が大昔から鑑定に使い続けてきたもの。


 ベルさんもそれが普通だと言っていたし、鑑定しなければ異端者になってしまうとも聞いた。


 現在では有名無実化したという異端者だが、何がどう異端だったのかを僕は知らない。


 何か良くないことがあるから異端と呼ばれる。


 そう考えれば、直感だけで動いてしまって後でアイゼを死なせる結果になりはしないか。


「殿下。ご存知かと思いますが念のためご説明いたします。鑑定魔堰は人に魔力をチャージします。そのせいで吐き気や頭痛を感じますが一時的なものです。チャージできた魔力量が壁面に表示されるまで、手を離さないようにお願いします」

「うむ、心得ている。すぅ〜……ふぅううう〜……いざ参る!」


 僕らは壁際に並び、ティタンは緊張の面持ちで先陣を切って鑑定の間へ入っていく。


(……ちっ)


 結局、僕は動けなかった。


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