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第五五話 鬨の声


「よくぞ持ち堪えた!」


 伝令から落盤発生の知らせを聞いたハリッシュが捜索隊を率いて駆けつけた。彼らの背には気絶した負傷者たちが背負われている。


「小物は制圧済み! 大物を近づけるな! 矢弾を寄越せ!」


 ティタンが即座に状況を共有して弓兵から矢を補充し、前線をハリッシュに任せて後方へ下がった。


 歩法の上達が功奏し危なげなく立ち回ってはいたが、やはり弓の真価は距離を空けてこそ発揮される。


「広く展開せよ! 前線を押し戻すのだ! 落とした岩男は復活させるな!」

 

 子供と老人が2メートル級を無力化していることで前線はすっきりと開けており、不意の事故も起こりにくくなっていた。


「きゃっ! また光った!」

「削れ削れ~!」


 担当の岩頭が復活すると両目がビカッと光る。それを合図に額を削ると、頭部を目指して動き始めた岩石パーツがピタっと止まる。


 これをひたすら繰り返すだけで落盤の危険度が大きく下がった。


「お母さぁ~ん!」

「サアチ! よく頑張ったわね!」


 潰れたと思われたダミニも生きていた。土壇場で身体強化を行使して圧死を免れていたのだ。


 強化魔法で筋力は変わらないため生き埋め状態から脱出できず、復活した岩男が立ち上がった瞬間に逃げ出してきた。


「ダミニ! 良かった無事で!」

「ごめんなさいチャーナ。心配かけちゃったわね」

「身体強化だよね? どうやったの? やっぱりぐっと固める感じ?」

「違うわ。ヤクト君が言ってたとおり全部そのまま……むしろ何も変えない感じかしら?」

「うん! イメージできない!」

 

 身体強化は行使が難しく魔力消費も激しいが、使いこなせば無敵に近い性能を誇る。


 あえて言おう。決して土建魔法などではないと。


「でも、ホントに潰れなかったんだ……この柔乳がカッチカチになるの?」

「だから違うから。何も変えないんだって」


 僕くらいの使い手になると瞬時に任意の部位を強化したり、一晩中そのままで寝たりもできる。この強化睡眠魔法が無ければ僕は初期のヤクトに食われていただろう。


「ウチの胸が固くなったら泣く男がいっぱい居るわ。ねぇ? アヒット君?」

「はひっ!?」

「ラシがあんなことになって……ぐすん。お母さんって呼んでいいからね?」

「ウチは嫌だわ。アヒットが弟になるなんて」


 捜索隊の男たちの参戦により前線が押し戻され、後方の女たちにも余裕ができた。


 ティタンの援護を受けたハリッシュは5メートル級の腕を駆け上がって額を割り、アユーは岩男同士の足を鋼糸で結んで転ばせる。徐々に数が減ってきた。


「あと少しである! 衛兵隊は脚を落として動きを止めよ! 倒れた岩男には必ず1人貼り付け!」

 

 莫大な富を得る機会を逃し、多くの犠牲を払って虫の息だったブラフマ島は不屈の闘志と創意工夫によって、いよいよ落盤に打ち勝とうとしていた。


「最後! 5メートル級だ!」

「油断せずに切り崩せ! 残骸にも注意しろ!」

「倒れた! ハリ様!」

「ちぇえええええええええい!」


 ハリッシュの槌が膝を突いた岩男の額にめり込み、遂にすべての岩男が討伐された。


「「「うぉおおおおおおおおおおおお――――っ!」」」


 生き残ったすべての島民から勝鬨が上がり、喜びが溢れる。


 今回の落盤は岩玉とはならず、すべての岩男の残骸が崩れて消えると、跡には大ぶりな鉱石が大量に残されていた。


 まるで鉱山が成し遂げた人間たちを讃えているかのように。



**********


 

 岩玉の追い打ちは無かったが、ここには未だ鉄塊が残っている。


 英雄譚の主人公のように華麗なる復活を遂げて大活躍するのかと思いきや、ヤクトはアイゼに囚われたまま、見せ場も無いまま危機は去った。


「義姉上ぇ~! そろそろ出てきてくださぁ~い!」

「ヤクト兄ちゃん! おれらが悪かったって!」

「カレーでもあれば出てくるでしょうか?」


 多くの人間が鉄塊をカンカン叩いて呼びかけるが反応は無い。


「……空気はあるのであろうか?」

「「「――はっ!?」」」


 ハリッシュの呟きにギョっとする一同。


 これを錬成した時のアイゼは冷静でなかった。空気孔を設ける余裕があったとは思えない。


「割るぞ!」


 ここは土建魔法の出番だろう。


 老人が研ぎ上げ先端を鋭く尖らせた(のみ)に強化魔法を施し、身体強化を使える者が鉄塊に押し当てて構え、同じく強化した槌を振るって分厚い鉄を掘っていく。


「うわっ!? 気をつけろ! おれの手を打ってどうする!?」

「身体強化してりゃ問題ねぇだろ。鑿の方も連続で強化しろよ」

「槌の強化魔法が強すぎるんだ! 相殺されんだから考えろ!」


 同種の魔法の相殺という現象は広く知られている。


 干渉した魔法同士が互いを打ち消し、込められた魔力の強い方が残るというものだ。


 強化魔法が付与されている間はどちらも無敵状態。無敵と無敵がぶつかり合って魔法の顕現を削り合う。


 したがって、強化魔法に対抗できる魔法は強化魔法のみであるとも言える。

 

「やればできる! 頑張れ!」

「こっちは身体強化で魔力を削られてんだ! テメェの方で調節しろ!」

「どうでもええ! わしの鑿を第一にせんかい!」

「たわけ! 第一は義姉上のお命だ! 早くしろ!」


 数ヶ所で同じように(はつ)られ、やがて鉄塊に縦一直線の溝ができた。


「コォオオオ〜……――チェストぉおおおおぅ!」


 鉄塊によじ登った衛兵の裂帛が木霊する。


 頂点から溝に沿って振り下ろされた刀身が鉄を切り裂き、鉄塊はモモタロウの桃のようにパカンと割れた。


「義姉上! ご無事ですか!?」


 中から現れたのは折り重なるように倒れる2つの人影。


 酸欠で死んだかと焦ったティタンが駆け寄り「ぶべっ!?」――瞬時に砂鉄へと戻ったファンタスマゴリアで両足を取られた。


「お前たち……さっきからカンカンカンカンと五月蝿いぞ」


 冷たい眼差しで周囲を一瞥するや、即座に視線を切って捨て、あとは一心不乱に胸元の黒髪を愛でる。


「ヤクトが起きちゃったらどうする……あぁ……なんて可愛い寝顔だろう」


 一瞬前とは打って変わって、浅葱色の瞳は慈愛に溢れる潤みを帯びていた。


 その落差たるや全員がドン引きするほど酷いもので、1人で勝手に幸せを噛み締めるアイゼにティタンは何も言えなかった。


 それにしても、あのヤクトがこうも無防備に眠るとは信じられない。


 気を許していることは間違いなく、アイゼの勝ち鬨も近いのではないだろうか。

 


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