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第五一話 鉱山に賭ける想い


「しゃあ! 四つ腕が出やがった!」

「ヤクトさん! お願いしやす!」


 湧き出す岩男をヤクトが屠り、転がる鉱石を鉱夫たちが回収する。


 腕が何本生えていようと、どれほど再生速度が速かろうと、弱点を晒して機械的に動くノロマな岩男はヤクトの敵ではなかった。


「ヒャッホイ! こりゃ金鉱石だ! 純度も高えや!」

「この調子でドンドン行きやしょう!」

「お、お前たち! もっと慎重に進まんか!」


 明らかに他力本願で調子に乗っている鉱夫を衛兵が嗜める。しかし、そんな説教など大物の連チャンに大興奮の男たちは耳を貸さない。


「うるせぇ! ただでさえ人数が減ってんだ! 背嚢がパンパンになるまでやんだよ!」

「そうでさぁ! 満を持してヤクトさんも出張ってくれた今が狩りどき! 四の五の言ってねぇで衛兵さんも運んでくだせぇ!」

「逝っちまった奴らのガキ共の分も稼がにゃならん! ウチの村ではそう決めてきた!」


 7メートル級の出そうな道を選びながら深層を突き進む鉱夫たちは5人が一塊で動いている。


 遭難に対する備えなのだろうが、差し迫った状況とブラフマ島民の気質が合わさり、採掘に賭ける意気込みが尋常ではない。


「おい! こっちに四つ腕がいるぞ!」

「早く来てくれ!」

「よっしゃ! 足止めだけでもしときまさぁ!」


 5人の男が雄叫びを上げながら大きな脇道へ入った。


「待てと言うに……クソっ!」


 ヤクトは双眸を鋭く細め、徐々に離れていく声を追いかける。


 衛兵に続いて脇道を曲がる――寸前で立ち止まると、衛兵の姿を一旦視界から消して、すぐに後を追った。


「なっ……そんな……バカな!?」


 脇道に見えたものは壁が大きく抉れただけのウロだった。


 ヤクトは唖然とする衛兵を追い越してその中へ入り、壁際や地面、天井を詳しく調べるが、進むべき道は見つからない。


「戻るぞ」

「そ、遭難……5人も一挙に? ああ……何と言うことだ……」

「音も気配も消えた。探したいなら好きにしろ」

「いえ……まずは男爵様に……ご報告いたします」

「なら先に行け。僕は女たちの狩場を見てくるから」

 

 ヤクトは何かを掴んだようだが、そのために支払われた代償は5人の人間――それ以前の観察期間も含めればもっと多くの者たちが犠牲になっている。


 いずれも男ばかりだったが、彼らの遭難がどのような事態を招くのか、ヤクトには想像できていなかった。



**********



 いくつかの比較的安全な狩場を回り、複数の女たちが消えていたことに驚いた。


 ここいらは拠点からも近く、今まで遭難は発生していなかったはずだ。


「……ここもか」

「ヤクト君! どうしよう!? ラシが急に!」

「奥に行ったのか?」

「違うわ! いつも通りに3人で帰ろうとしただけよ!」

「すぐ後ろを歩いてたんだよ! こんなのおかしいよ!」


 消えたのは語尾が伸びるあの女だ。


 狩場から出た矢先、気付けば何処にも居なかったと言う。遭難を免れたはずの2人が泣きじゃくっている。


「一瞬でも視界から消したか?」

「わかんない! わかんないけど……でも!」

「何か変わった様子は無かったか? 採掘に執着したり、必要以上に稼ごうとしたりは?」

「妹の旦那が遭難したのよ!? 無理してたに決まってるじゃない!」

「そうか。わかった」


 人間を殺す岩男、形を変える鉱山洞、身の丈に合った狩場、稀に生じる落盤や岩玉。


 1万年以上も尽きない富の源泉、僕にはたどり着けない最奥、唐突に消える人間たち。


(それが魔女の組んだ概念ってことか)


 どうやら場所や深さは関係なかったようだ。


「ねぇ、ダミニ! もう1回探してみようよ!」

「チャーナ……そうね。居ないはずがないものね!」

「探しても見つからない」


 受け入れがたいのだろう。女たちは僕に詰め寄り、一緒に探してほしいと懇願してきた。

 

「無駄だって言ってるだろ」

「ヤクト君! なんでそんなひどいこと言うの!?」

「きっとラシは近くにいるわ! しぶとい女だもの! 簡単に死んだりしない!」

「死んでるかどうかはわからない。でも、いずれ死ぬ」

「「――っ!」」


 非難しているのだろう。女たちは懸命に僕を睨み、槌を持つ手が震えている。

 

「チャーナ。もう行きましょう」

「そうだね」


 拒絶しているのだろう。女たちは僕に背を向けて、居なくなった女の名前を叫びながら視界から消えた。


(採掘も鉱石を持ち帰るためだろ?)

 

 しかし、あの2人が遭難することはない。この状況で人間を探すという行為には()()()()という目的が付随するからだ。


(なんでそこまで執着する?)


 遭難するかしないかは引き際の問題だ。


 鉱山は潜る人間の意識を反映して在り方を変える。


 不可解で曖昧な変化は多くの人間たちが似て非なる認識を共有しているから。


 アイゼに寄れば、鉱山の造りは島ごとに異なるそうだが、各島の鉱山を認識している人間が別々の群れなのだから当たり前だ。


(益々わからない……なんでこんな面倒なものを?)


 魔女の()()()()を理解すれば謎の――いや、概念魔法『鉱山』も理解できるかと思ったが、当てが外れた。


 凝り固まっているのは魔法ではなく、島に生きるすべての人間たちの認識だ。集団が無意識に抱くイメージとでも解釈すればわかりやすい。


『共に潜ろう! 鉱山は必ず答えてくれるはずだ!』

 

 男爵のキメ台詞は的を射ていた。鉱山は人の想いに答えただけだ。


 遭難は魔法ではなく、もっともっとと鉱石を求める個人の抱くイメージが全体のそれからかけ離れてしまった結果に過ぎない。


(見失ったら消えるってことは、人間同士の認識も影響ありか?)


 複数同時に消えたケースにしても同じこと。協力関係にある全員が極めてズレたアガリを欲した結果だ。


「はぁ……自業自得なんだけど……仕方ないか」


 僕は僕を拒絶した女たちを追うことにした。

 

 遭難はしなくても、岩男に殺されることはある。



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