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第三二話 行くべき道を探して



 ようやく王家から鉱石売却に関する(たっ)しがあった。


 男爵によると、手間は掛かるが最短で売却益を得られる方法だと言う。


「直販でありますか?」

「うむ。3日後、商人が島にやってくる。王家とも取引のある大物らしい」


 その商人が鑑定と査定、見積もり、売買交渉、運搬に至るまですべてを手配するのだと言う。しかも現金で一括払いを確約しているらしい。


 通常は鉱夫組合と王家の価格交渉で取り決めている品目ごとの単価をベースに競売が行われ、鉱石運搬船で仕向先へ出荷される。


 ほとんどは帝国への輸出となるため、ハリヤーナ島の東5,000マイルにあるムーア・ドラント中継島行きだ。


 一聞すると複雑に聞こえるが、日常的に鉱石を売る側としては組合に定額で収めるだけなので楽なのだそうだ。


「手間と言っても交渉だけだろう。金と銅のベース単価はわかっているのだ。途中で差し引かれる手数料が掛からない分だけ得ではないか」

「何分、異例の手配ですのでな。まぁ、あのような大物が採掘されたことも異例なのですが……」

「組合を通せば代金は後払いだ。競売も荒れるだろうし、今は時が無い」

「殿下のおっしゃる通り、好都合ではあります。少々……都合が良すぎるほどに」


 ブラフマ嫌いの王家にしては高配が過ぎると警戒する男爵だが、結局すべては自分たちの交渉次第であると割り切ったようだ。


「早急にこちらの提示額を決めておきたく思います。ティターン殿下には組合支部との会合にご同席いただければ幸甚です」

「願ってもないことだ。勉強させていただく」

「ヤクト殿はどうするね?」

「僕はいい。鉱山に行くから」

「お前も聞いておいた方がいいと思うがな。まぁ、好きにしろ」

「では失礼する」


 男爵はティタンとハリッシュを伴って島内の有識者が集まる別室へ移った。


 

**********



 今日も今日とて、女たちは鉱山の深部で頑張っている。


「息子のた〜めな〜ら、え〜んや〜こら〜っと!」


 5メートル級の額に薄らと魔法の光を帯びた槌が打ち込まれ、断末魔の呻き声と大振りな鉱石を残して岩男は消えた。

 

「あら? これ高いんじゃない?」

「だよね! 何となくわかるようになってきた!」

「3人で等分だよね〜?」

「「当然」」


 キラキラ煌めく金色の粒を見つけてレアドロップに喜ぶ彼女たちは深部での採掘にも慣れてきた様子で、弾む声からは自信とやり甲斐が感じられる。


「ヤクト君……今日も可愛かったわね」

「眼福だった」

「尊い~。尊いよ~」


 鉱山に潜ったヤクトは既にこの場を通り過ぎた。最短ルートではないにも関わらず、必ずここを通るのはヤクトなりの優しさだろう。ビビッとはこなくとも何か感じるものがあるのかもしれない。

 

「ウチの娘どうかしら? 母娘丼って男の夢じゃない?」

「アンタ何言ってんの!? それはズルい。ウチのは貧しいから……私に似て……」

「ウチなんか男だし~。ヤクト君は男に厳しいっぽいし~」


 ヤクトと共に来たアイゼは、彼女たちにハリッシュの銅鉱石に買い手が付きそうだと伝えた。


 だから、もう女だてらに無理をして採掘する必要はない。早く帰れと。

 

「上手く息子にできたとしても鉄血姫さまが怖いわ」

「アレは姫さまじゃないって。鉄血鬼だって」

「またファンタスマゴリアが増えてた~。背景が怖い貌になってた~」

「なんかね、強い女を目指してるらしいわ」

「なんで?」

「知ってる〜。ヤクト君は強い女にビビッとくるんだって〜」

「あら? そうかしら?」

「そう思うでしょ〜? たぶん違うよね〜……母性に飢えてたりして〜」

「「母性全振りするわ」」


 かしましい彼女たちは僕よりマシな、おそらくモブだ。ヤクトを愛でる女A、B、Cに過ぎないだろう。


 今、ヤクトはここに居らず、彼女たちの笑い声を聞くこともない。


 それでも僕がここに居るということは、彼女たちも間違いなくヤクトの物語の登場人物なのだ。



**********



「ヤクト」

 

 アイゼが五月蝿い。


「ヤクト。おい」


 アイゼが五月蝿くて集中できない。


「なんで座ってるんだ?」


 鉱山を成している、いや、織り込まれていると言った方がしっくりくるだろうか。


 複雑なようでいて単純。決まり切っているようでいて、どうとでも変わる。そういう曖昧さの繋がりを紐解き、辿る感覚は全との合一に近しいと思った。


「ヤクト!」

「……五月蝿い」


 だから行けるところまで行って、あとは座禅を組んでいる。なのにアイゼが五月蝿いのだ。


「説明しただろ。めちゃくちゃデカい魔法なんだ」

「領域を限定した事象変異だろ? 意味がわからない」

「変異の誘導だ。あらゆる意味で凝り固まってる。解くには理解するしかない」

「まだ先に進めるじゃないか。行けるところまで行った方がいいだろ」


 見た目だけだ。ここが現時点で辿り着ける最奥。

 

 僕という個の認識が『鉱山』に呑まれて自ら先に進もうとしない。これでは死ぬまで歩いても最深部にはたどり着けない。


「因果を捻じ曲げるスゴい魔法だ。師匠並みだ」

「そりゃ相手は海の魔女だからな。お前の師匠とやらよりスゴいに決まってる」

「師匠の方がスゴいに決まってんだろ!」

「――痛っ!? 久しぶりに痛い!」

『グオオオオオオオオオオオオ――ッ!』


 乳をガシガシやっていたら7メートル級の岩男が出た。腕が4本付いている。


「アイゼ」

「ハァ〜! ハァ〜! ハァ〜! はぁ〜ん!」

「相手しとけ」


 岩男は鉱山の一部に過ぎない。


 個別の自我を持たない木偶人形だが、最初に見つけた額の急所もわざとらしいくらい判りやすかった。今にして思えば。


 海の魔女といえば、小説の中で人魚姫に足が生える薬を渡した女だ。


 美しい声と引き換えに怪しげな薬を飲む人魚姫はバカで弱い女だと思ったが、最後の泡になって消えるところは不思議とビビッときたような気がした。


(魔女はなんで鉱山を? 対価に何を奪った?)


 岩男が人を殺すのはそういう魔法だから仕方ないし、戦って弱い方が死ぬのは当たり前だ。


(潜った人間の命? ……対価になるわけない)


 むしろ逆だ。人間の認識すら鉱山の維持に利用している。僕が先に進めないのもそのせいだ。

 

 鉱山が儲かることは理解できる。しかし、魔女は人間に鉱山を与えて何の得があったのか。


 座禅を組みながら周囲に感覚を拡げると、アイゼと岩男の戦闘がよくわかる。


 ファンタスマゴリアで関節を固めて拘束しつつ、岩肌を伝ってじわじわ額に迫る鈍色。あと少しでトドメを刺せそうだ。


 アイゼは落盤の時より明らかに強くなっている。


 身体の歪みが無くなったことで前よりずっと良くなった。戦闘も、見た目も、触り心地も。


 他のどの女より優しくしてやりたいと思える。今のところは。


(ドキドキするし……ムラムラする)


 なのにビビッとこないのは何故だ。


 やはり女は男にとって永遠の謎なのだろうか。

 

 

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