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第三一話 アイゼの秘策



 鉱山深部の調査を初めて3日後、始めは取り合わなかったティタンたちだったが、自らマッピングした道すじにもヤクトのものと似たような誤差や矛盾を見つけて、いよいよアイゼの予想が真実味を帯びてきた。


「義姉上のおっしゃる通り……状況証拠が揃いすぎてますね」


 湧き方や消え方など細かな部分は異なるが『倒すと消えて物品を落とす』という点で『岩男』と『モンスター』は同じ。


 材質が岩か木かの違いはあれど『勝手に修繕され内部構造が変わる』というダンジョンの特性は『鉱山』と『林檎の樹』の共通項。


「緩やかすぎて経路の変化に気付けなかったという事でしょうか?」

「……地図が無いことにも説明がつく。使い物にならぬなら残らないわけである」


 そして、何より大きな疑念は最近出来たばかりの『林檎の樹』と大昔から存在する『鉱山』が同じ魔法の産物であった場合、伝説上の『海の魔女』復活の証左となる――そんな事があり得るのか。


「こんな事は概念魔法でしか不可能だろう」

「人間が1万年も生きてるもんか。例の大英雄が創ったんじゃないか? その林檎の樹っての」

「たしかに大英雄は法国の建国宣言にも関わっていたと聞く。何か遺していたとしても不思議は無いな」

「どちらにせよ大きすぎる情報です。秘匿するべきと思われます」

「……無論だ。我らの心中だけで止めおくべきである」


 あくまでも想像の範疇を出ない推測であり、真実がどうであったところで何が変わるわけでもない。


 大樹の誕生から既に10年が経過している。本当に魔女が復活していたなら、トティアスはとうの昔に滅んでいるだろう。


(全部が魔法だと思って見れば……なるほど)


 落盤の時にも感じた繋がりとよく似た何かが張り巡らされ、あるいは包んでいるように感じる。


 その不自然な感覚は深部に向かって大きくなっていた。



**********



 領主の館に戻ると、ハリッシュは鉱山の古い記録を洗い直すと言って書庫へ向かった。


 ティタンは庭で弓の訓練に勤しみ、アユーは自分の仕事をこなす中、ヤクトはといえば――。


「くぅう〜ん。あぁ〜……溶けちゃう〜」

「ここ」

「あひっ……! いい〜……いいぞヤクト〜」

「ここも」

「――おほっ!? そ、そこはダメだぁ〜!」


 ベッドの上でアイゼのツボを押していた。


 股関節の付け根を押されるアイゼはとんでもない格好にされている。


「ダメダメダメ! ヤクトそこは本当にダメ!」

「女の骨盤はわかりにくい。もっとよく見せろ」

「あぁああ〜! ダメだってば……――あっ」


 ダメと言いながら抵抗しているようには見えないが、挙動の起こりに先回りされているのだろう。きっとそうに違いない。


「あぃいい〜……あぁ……ナニコレきもち〜」

「ふーん。男と全然違う。可動範囲が広く取れそう……広げてやる」

「何を!? うぉ……おぉおおお〜! にゃんか伸びゆ〜!」


 仰向けに寝そべりベッドシーツに浸み込むアイゼは心地よさに身を委ね、潰されたカエルような姿で脱力している。


 女の骨盤に興味があるらしいヤクトは好き放題に両脚を動かし、腰回りや股関節をグイグイ押してほぐしていった。


 2時間に及ぶ気持ちいい骨盤マッサージが終了し、アイゼの正気が戻ってきた。


「すごいぞヤクト! 腰が軽い! 体が羽根のようだ!」


 楽々と股割りや上段蹴りを披露し、腰を振ってダンスを踊る。


 2割増しにクビレた腰つきが持ち前の巨乳と相まって、アイゼの魅力を爆上げしていた。


「なんかムラムラする。なんだこれ?」

「――はっ!? ヤクト! それだ! それこそがビビッとってやつだ!」

「いや違う。これはビビッとじゃない」

「お前……実はかなり子供なんじゃないか?」


 もはや言い出しっぺの僕にもビビッとが何なのかわからない。


 僕のような人間にまともな性教育ができるはずもなかったので仕方ないのだが、アイゼには心底申し訳ないと思っている。


 普通の養父からはかけ離れていたが、育ての親として公認しよう。好きに教育してやってほしい。

 

「い、いいか? 男と女が……その……ナニすることで……だな」

「何する? なんだ?」

「ナニを……使って……その……掘るんだ」

「何を使って何を掘る? わかるように言え」

「山の獣にも居ただろう!? こう……背後から……こう……のしかかって……あぁ……教えちゃっていいのか……?」

「何を悶えてんだ? 厠なら早く行け」

「くっ……ままよ! だからナニを! アソコに! 突っ込んで! いっぱい掘るんだ!」

「だから! わかるように言え!」


 自らの豊富で半端な知識に翻弄されて、真っ赤になったアイゼは「あと3年待って!」と叫んで部屋から逃げ出した。


 彼女にもまだ早かったようだが、よく考えるとヤクトがそれを理解した暁にはとんでもないことになるような気もする。


 無理強いは優しくないとは教えておいたものの、イケメンに対する女のガードがここまで緩いものだとは僕も知らなかった。これでは無理強いにならない。


「教える……教えない……教える……教えない……」


 廊下をトボトボ歩くアイゼがぶつぶつ呟いている。


「教える……って、どうやって……? 実践するしか……実戦? 何をバカなことを……あぁ……ヤっちゃっていいのか?」


 ここは辛抱するべきだ。下手をすると大災厄の再来となる。気付いてほしい。その危険度に。


「いや待て……何も知らないから……乳揉むだけで済んでるんじゃないか? 最後まで知っちゃったら……あぁ……なんて野生的な」


 聡明なアイゼは気付いてくれた。社会の秩序は守られるべきだ。彼女の立場はその守り手なのだから。


「一体どうすれば……他の女を排除できる? こうなると留学は危険か? ヤクトの価値は顔面だけで気付かれる……どいつもこいつも油断ならんし」


 フェイスベールで口元を隠し、真剣な表情で考え込むアイゼの雰囲気はミステリアス。


 社会の秩序を心配する気はさらさら無かったようで、思考はやがてミステリー小説の世界へズレ始めた。


「仮面……仮面か。そうだ……顔を隠させよう。だが、仮面は保安上ダメかもしれんな。むぅ……ベール……フェイスベールだ。各国の文化は尊重されて然るべきだろう」


 学園にいる肉食系女子からヤクトを守り、自分だけ関係を深めて常にビビッとこさせるよう仕向けるために、アイゼの発想は百合小説の世界へ飛躍した。


「だが、これは女がするものだし……女装? なるほど……アリだな。女のフリをさせれば女に狙われることもない……男が近づけば殴られるだけだ。よし……それでいこう」


 普通に頼めば確実に断られることはわかっているらしい。


「アユー!」


 廊下の奥にアユーの姿を見つけたアイゼはダッシュで駆け寄り相談し始めた。


「面白いと思います。面白いだけですが」

「……なんか言ったか?」

「フェイスベールをしていても不自然でない程度に、中性的な衣装を仕立てましょう」

「おおっ! できるのか!? すぐやってくれ!」


 フェイスベール自体を嫌がる可能性はあるが、ヤクトに限って装飾品に興味があるはずもない。


 何を犠牲にしてでも必ず着させてみせると言ってアイゼは胸を張った。


「女同士なら人前で胸を揉んでも変じゃない。仲の良い女はそんなものだ」

「しかし、よろしいのですか? アイゼ様の反応は生々しいので同性愛者の嫌疑が掛かりかねませんが?」

「……何か引っかかる物言いだが、望むところだ。余計な虫が(たか)ってきて難儀していた」

「では、深いお話をいたしましょう。こちらへ」


 仲の良い2人は階段を上がり、上階の衣装部屋へ消えた。


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