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第二六話 パーティー


 鉱山の深部に向かうほど岩男は強くなり、鉱山洞には分かれ道が増えて複雑になってゆく。


「……まただ」


 分かれ道の手前で立ち止まり、手元の手帳と壁を見比べ首を傾げた。


 変わり映えしない鉱山の道すじを覚えるため壁に目印を残し、歩幅を元にマッピングしてみれば、確かに付けたはずの目印が消えていたのだ。


(ちっ。暇なヤツ……どうしようか)


 発勁を放って曲がり角の壁を大きく崩した。さらに大きめの石を分かれ道の片方に積み上げておく。


 これなら消しようが無く、誰が見ても目印だとわかるだろう。犯人探しをするほど暇じゃないが、もし見つけたら岩男の足元で眠らせてやる。


(人間を無闇に殺しちゃいけない。その理由は……ホントかなぁ?)

 

 手帳に積み上げた石の数をメモしながら来た道を引き返し、同じように分かれ道の壁を崩して深部への最短ルートを構築していく。


 中層まで戻れば、ほぼ一本道で迷うこともない。


「腹……減ったな」


 今日は切り上げて帰ることにした。


 途中でアイゼらと合流して帰途につく。ティタンとハリッシュ、アユーも一緒だ。


「アイゼ。水」

「はい、どうぞ」


 ティタンとハリッシュから実戦で鍛えたいとの申し出を受け、アイゼとアユーに懇願されて断れなかった。


「奥はどうだった? 平気か?」

「うん。順路が複雑なだけだ」


 アユーのレベルで死なない場所を見繕い、落盤や岩玉の気配が無いことを確認して後は好きにさせている。


「義姉上が居られるなら危険は無いからな」

「発想の転換が成りましたね。お見事です」


 アイゼは大量の鉄から造った体躯に見合わない大きなファンタスマゴリアを引き連れてノロノロと移動する。


 ファンタスマゴリアで鎧を錬成し着装するという見た目は派手だが中途半端にノロマな戦闘形態を捨て、徹底した物量を武器に重さで戦うスタイルへと変更したのだ。


「やろうと思えばまだまだイケるぞ。鉱山の中で使うならこの程度が限界だ」

 

 ただし、ファンタスマゴリアの展開速度は決して速くないので、これ以上に速くは進めない。


 人間が装備するには重すぎる特殊兵装を纏い、型通りに動くことをやめたアイゼは羽衣の中を滑って進んでいるような感じだ。


「重すぎて邪魔です……」

「あ? なんか言ったかアユー?」

「さすがは義姉上! 魔力容量20超えの二聖は伊達じゃありませんね!」


 仲間の武器をその場で錬成できることも大きい。イメージしやすい単純な構造の鉄器に限れば、何でも造れる動く生産拠点だ。

 

「殿下。私の双槌まで造っていただき感謝申し上げる」

「私が苦労して聞き出したヤクトのススメだ。その得物で間違いないだろう」


 ハリッシュは得物を両手持ちの大槌から片手持ちの2つの槌に持ち換えていた。


「アイゼがしつこいから、仕方なく」

「ちょっとだけって言ったのに……すごく優しいからイイけど……あぁ……もうアレ無しでは生きていけない」

「指圧のことですよね!? そうですね義姉上!?」


 一撃の威力を追究せずとも急所を突けば即殺できる。それは岩男に限ったことではない。


 戦闘において大切なことは如何に相手の呼吸を乱し、間合いを潰して自分の流れに引き込むか。接近戦を行う者にとっては特に重要となる技術だ。


 それを極めるためには一撃必殺を旨とする重量武器は不向きだった。


「お前らの中ではアユーが1番強い。アイゼは別として」

「光栄です。ヤクト殿との模擬戦は非常に為になります。なぜ致死毒が効かないのですか? 苦手な毒を教えてください」

「アユー……毎回、本気で殺しに掛かってないか?」

「アイゼ様。ご冗談を。手加減など無用でしょうに」


 アユーとの仕合いは僕も楽しいので歓迎だ。引き出しが多くて面白いと思うが、ビビッとはこない。


「残念だったなアユー。ビビッとこないとさ。今後の成長に期待だな。胸の急成長にな」

「私はスケベではありませんから……アイゼ様のように」

「な、何だと!? 私だってそんなのじゃない!」

「おっと……むっつりスケベでした」

「潰してやろうか!?」

「ふっ……ノロイ」


 ファンタスマゴリアは逃げる者を追うには決定的に向かない。その本領は防御にあり、よほど上手く嵌めなければ攻撃にならない。

 

「ヤクト。私は剣技を極めれば良いだろうか? どう思う?」

「ティタンは勉強だけやってろ」

「義姉上。申し訳ありませんが」

「お、おぅ……可愛い義弟の頼みなら仕方ない。今夜のうちに聞き出しておく……あぁ……こうやってさらに堕ちてゆくのか」

「……堕ちたいくせに」

「アユー!」


 騒がしいのに何故か気持ちが落ち着く。モヤモヤはそのまま残っているが、食べ物も喉を通らない息苦しさは無くなっていた。


 呼吸法は普段と変わらないはずなのに、これはどうしたことだろう。


「私たちはアレだ。冒険者パーティーみたいだな」

「ぱーてぃ?」

「林檎の樹ですか?」

「そうだ。学園のフィールドワークで一度だけだがな」

「帝国と法国は上手くやっているようです」

 

 大陸の北西一帯を国土とするプレンティウス法国は建国されたばかりの新しい国だが、その母体は女神教会そのものであるため力はある。国主である法皇を教皇が兼任しているため、異端審問官は全員法国の手駒とも言えるそうだ。


「そいつらは強いのか?」

「当たり前だろ。異端審問官には貴族だろうが王族だろうが逆らえない」

「女神教会教皇はトティアス最強と名高いお方だ。魔力容量もさることながら、なんと言っても五聖だからな」

「五大魔法を全部使えるのか……それは面倒かも」


 10年前、現在の首都となっている聖都に『林檎の樹』と呼ばれる大樹が突然生えた。その中には『モンスター』という敵が居て、それらを倒すことで様々な物品が手に入るのだとか。


「呑まれた鑑定魔堰が見つかればオプシーの混雑も多少は収まるでしょうに」

「最近は諦めて日銭を稼ぐだけの冒険者も多いようだがな」

 

 そのドロップアイテムを集めて売ることで生計を立てる者たちを冒険者と呼び、彼らは数人の仲間と共に大樹へ挑むのだとか。


「その一団をパーティーと言って、五大魔法それぞれの適性者を揃えた5人パーティーが多いんだ。ヤツらはいつもワイワイと騒がしくてな」


 アイゼはとても楽しそうにフィールドワークの思い出を語る。


 プロの冒険者に引率されて第1層を攻略しただけだったが、その魅力に取り憑かれて卒業後の進路を冒険者に決める学園生が大勢いるらしい。


「進路……己れの進む道を自ら決められるとは。帝国は平民階級も豊かであるか」

「ハリッシュ殿。それが平民だけでもないのだ。当主の意向に背いて家を捨てる貴族も多い」

「……そのような勝手がまかり通ると?」

「自立自責が帝国魔法学園の基本的な教育方針だからな」


 学園で能力を示し、何らかの実績を打ち立てれば、平民でも叙爵されて貴族になることもあるのだとか。

 

「支配階級の刷新が進んでいる。皇帝はそれを容認する構えだ」

「……貴族にとっては受け入れがたい屈辱のはず。帝国はよく揺らがずにいるものである」

「そこは法国の存在が大きいのだろう。聖都以外に広い領土を得た教会の人材不足は目に見えているからな」

 

 現状は自由を求めて家を飛び出す貴族と、地位に憧れて貴族を目指す平民の双方が帝国内に混在している。


 政治経済に聡いティタンの見立てでは、法国が人材の受け皿となることで大陸全体のバランスは取れているのだとか。


「……形は違えど、それも下克上であるか」


 アユーは何かを期待する目でハリッシュを見ていた。



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