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第二四話 落盤の始末


 薄暗い広場に群れなす岩男。その数を前に止まるかと思いきや、ハリッシュ率いる討伐隊はそのまま戦闘に突入していた。


「……マズいな」


 戦端が開かれて3分も経っていないだろうが、状況は良くない。


「アイゼ。お前はここから動くな」

「ハァハァ……私も前衛に加わっ――てぇええ〜!」

()()()

「……はい」

「はひっ! はひっ! はひっ! はひっ! はひっ!」


 担いできたアイゼを壁際に置くと、その隣に滑り込んできたティタンは過呼吸に落ち入り蹲っている。


「アイゼ。こうなりたくなかったら呼吸法を覚えろ。暇なら練習しとけ」

「わかった。できるだけ深く静かにだったな?」

「そう。胸じゃなくて腹で吸い込む感じだ」


 そもそも戦闘とは呼吸の読み合いだ。呼吸が乱れればすべての動作が乱れて隙になる。


 ほとんどの人間は呼吸をサボっているので簡単に隙を突けるが、裏を返せばこれさえ覚えれば普通の人間が付け入る隙はかなり減らせる。


 それに呼吸法の鍛錬なら脚もむくむまない。


「ヤクト」

「なんだ?」

「その……気を付けて……いってらっしゃい」

「どうしたアイゼ? 走ってないのに顔が赤いな」

「な、なんでもないから早く行け。手練れの衛兵は5メートルを取るぞ」


 壁を蹴って高く跳び上がり岩男の配置を確認して、近場にいる5メートル級から一筆書きになぞるルートを把握する。


(魔法使いが集まるとこうなるのか……面倒だな)


 壁を蹴って一気に肉薄し、5メートル級の額を足場にしつつ殺して次へ。ここからは時間との勝負だ。


(殺せてはいるけど……なんて無駄が多いんだ)

 

 強化魔法で淡く光る槌が岩男の腕を噴き飛ばし、熱量魔法や運動魔法の遠距離攻撃が宙を飛び交う。


 破砕された岩男の体が石飛礫と化し、頭部を外した魔法の流れ弾がルートに割り込んでくる。殺意が籠らない分だけ避けづらい。


「ぜあぁああ〜! ふしっ!」

「どっせぇええ〜い!」


 鉱夫は普段通りに、衛兵も剣を大槌に持ち替えて岩男を力任せに殴っている。全霊の一撃に命を賭けるような裂帛が木霊してとても五月蝿い。


「左翼に展開しろ!」

「中央は一旦下がるのだ!」


 互いに距離を取って槌同士がぶつからないように配慮しているようだが、岩男の拳に槌をぶつけて強引に隙を作り出し、足を崩して倒れたところで頭部を潰すという面倒なことをやっていた。


「圧縮火球! 撃つぞ〜!」

「女ぁ! 引けぃ!」

「えっ? あっ! は、はい!」


 次に狙っていた5メートル級の胴体に『圧縮火球』とやらが命中した。一拍の後、轟音を響かせ爆発し頭部と四肢が弾け飛ぶ。


(頭がどっか行っただろ! 邪魔だな〜コイツら)


 頭部が無事なら数秒で再生してしまうのに、あんな大雑把な魔法で噴き飛ばしてどうする。

 

 大きい岩男ほど復活までのインターバルが長いので先に処理し、最初に倒した5メートル級が戻る前にすべて倒し切るつもりだったのだが、計算が狂い始めた。


「きゃっ!?」


 不意に転がった岩男の残骸につまずき転んだ女に巨大な足が迫る。


(あー、弱い。アイゼより弱い)


 全身のバネを総動員して崩れゆく5メートル級を転ばせ、女に迫る3メートル級にぶつけて叫んだ。


「立て! 動け!」

「は……ははは……」


 腰が抜けて立てないらしい。ぐらつき頭上に倒れてくる3メートル級を見上げ、泣き笑いを浮かべるばかりで動かない。


(ダメだな。死ぬ)


 最初に倒した5メートル級の復活までには間に合わず、落盤の始末に要する時間は大幅に延びるが仕方ない。


 仕切り直しだと腹を括って、尻餅をついた女に駆け寄ると――、


「ディピカ!」

「あ……」


 ひと足早く駆け込んだ男が女を突き飛ばし、そのまま岩男の下敷きになった。


 すぐさま倒れた3メートル級を殺し、女を引き起こしてその場を離れる。


 複数の2メートル級が殺到していた。


 男に優しくする必要は無い。


 あの男は弱かったが、女に優しかったのだろう。



**********



 作戦開始から30分が経過したところで5度目の仕切り直しを余儀なくされた。


「大物狙いで時間を掛けるな! 小さいヤツだけ殴ってろ! 飛ぶ系の魔法は使わせるな邪魔だから!」


 さすがに頭に来てハリッシュに文句を言った。


 コイツらのボスはハリッシュだ。ハリッシュを殺してすぐに取って代われるものならそうしてもいいが、人間に山狼の掟を期待しても無駄だろう。


「いいか!? 30秒で狩れない獲物には手を出すな!」

「……っ! 相分かったが……! 損耗も大きい!」

「ヤクト! 士気が落ちている! 主力を何人もやられてるんだぞ!?」

「知ったことか! 弱いくせに優しいからそうなる!」

「ヤクト! 私も参戦するぞ! していいよな!?」

「アイゼは黙って息してろ!」

 

 苦戦を見兼ねたティタンが参戦し、ハリッシュと手分けして左右に広がった部隊を指揮していたが、時間が経つごとに戦況は悪化していた。


「もういい! 僕が殺したヤツを殺し続けろ!」

 

 女に動き回られると予定が大いに狂う。死に掛ける前に援護しなければならないのだが、それが早すぎることは大きな誤算だった。


「女はアイゼが居るところまで下がれ!」


 サイズに関係なく前線にいる岩男から順に倒し、後はモグラ叩きの要領で復活直後に殴れば同じことだ。始めからこうすればよかった。


 岩男は徐々に数を減らし、本気で急いだ甲斐もあって10分未満で殲滅できた。


「…………ん〜?」


 終わってみれば呆気ないと思ったが、不自然な気配が消えない。


 バラバラになった岩男も消えていない。


(なんだこれ……? 全体的に何か……)


 落盤が消えたことで感じる違和感は段々と大きくなり、広場の中央に集まっていく。


(――下か!)


 地面の一部が盛り上がり、浮かび上がった岩塊には『シンリ』の古代文字。


 散乱した35体分の岩男の残骸が動き出し、岩塊に向かって渦巻き始めた。



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