第十八話 ヤクトの思考
『グォオォオオ――オォオオ……』
3メートル級の岩男も難なく倒し、転がる鉱石が大きくなってきた。持ってきた麻袋は一杯だ。
「帰るか」
「ダメだヤクト。小さいのを捨てて先に進むぞ」
「嫌だ」
「進むぞって! 頼むから!」
目的はハリッシュの救出だと言って譲らないアイゼが麻袋を引っ張ってきた。僕が採った鉱石を奪う気なら容赦しないが、極度に手加減してやらなければいけないから面倒だ。
「捨てたら……パフパフさせてやる」
「別に。捨てなくてもできるし」
「――みゅっ!? そ、そうだった……あぁ……これまでか」
「ヤクト貴様! 義姉上にここまでさせて! 泣かせたら殺すぞ!?」
「お前には無理だ」
ティタンもいちいち絡んできて面倒だ。ギリギリ死なないように黙らせることもできるが、こいつの知識は欲しいからとりあえず放置で。
「ヤクト殿。小石10個より中石1個の方が高く売れます」
「よし。全部捨てる」
「「…………」」
アユーもそういう事は早く言ってもらいたい。野兎を大量に狩っても解体が面倒なだけ。それと同じ理屈だ。
『グゥォオオオオオオオオオ――ッ!』
2メートル級の小石に興味は無い。岩男は動作が遅くて攻撃を避けることも容易いから無視して先に行こう。
背後から悲鳴が聞こえるが、アイゼとアユーなら小石相手に死なないから大丈夫だ。
「ヤクト! ヤクトぉ〜! 待ちなさい!」
2メートル級5体に囲まれただけで酷い慌てようだ。念のため立ち止まって戦いぶりを見物していると、慌てる理由がわかった。
「――くっ!?」
岩男の腕に力任せの斬撃を入れてティタンの剣が折れた。こうして見ると弱さの違いが良くわかる。
それぞれに弱いが、3人の中ではティタンが群を抜いて弱い。何故か動きがギクシャクしている。
「ティタン! 下がりなさい! アユーは中距離から牽制を!」
アイゼはファンタスマゴリアを2人の防御に回しつつ『鉄風刃』で岩男を刻んでいた。
「防御するな。避けろ」
「無茶を言うな! 2人とも魔法無しなんだぞ!?」
「手足を狙っても無駄だぞ」
「助言はいいから手伝え!」
岩男には額の古代文字以外に急所は無い。参考までに観察してみると断ち切られた脚は数秒でくっついた。思った通りだ。
「頭を狙え。適当に砕けば死ぬから……たぶん」
「ヤクト殿! こうも包囲されては捌き切れません!」
「ティタンを守ってるからだ」
「「当たり前だ! (です!)」」
剣が折られたティタンを守ろうと割って入ったアイゼが盾を錬成し、無理に岩男の拳を受けたところで戦闘に介入した。
振り回される腕を避けながら4体の額を削り、顔面に大量のクナイを生やした5体目が倒れる。
アイゼが盾を拘束具に変えて拳を固め、その隙にアユーがトドメを刺したのだ。
できると思ったからやらせてみたが、始めから互いの長所を活かして共闘すれば何の問題も無かった。
「はぁ……死ぬかと思った」
「最後は僕が居なきゃ死んでたぞ。なんでだ?」
「なんでって……何がだ?」
アイゼは本当にわかっていない様子だ。
「勝てたのにどうして勝ちに行かない?」
「私1人なら時間は掛かるが勝てた。だが、ティタンは初の実戦だ。得物まで失ったんだぞ」
「弱いくせに逃げなかったティタンは野兎より弱い。死んで当然だ」
「――っ! ヤクト! 訂正しなさい!」
アイゼは顔を真っ赤にして目尻を吊り上げている。本気で怒っているらしいが、何を怒っているのか理解できない。
ティタンは逃げられたはずだ。数秒だったが、アユーは退路を作っていただろう。
どんなに弱い生き物でも弱いからこそ別の強さがあるものだ。そうでなければ生きていけない。
「例えば、数が多い」
「……何を言ってる?」
「虫は弱いけど数が多い。たくさん食べても一向に減らない」
虫にとって単体の生き死になどどうでもいい。それは僕には真似のできない強さだ。
「鼠は小さくて、すぐ逃げる」
「……ティタンは人間だ」
「捕まえるのが面倒な割に食うところが少ない。だから大きな獣に狙われにくい。他に居なきゃ食われるけど」
ティタンは壁を背にして座り込んで荒い息を繰り返している。死に掛けて命を拾い安心した様子だが、もう助かった気でいるらしい。
「もういい。ヤクト。ティタンの荷物から水筒を出してくれ」
「これは僕のものだ」
「――っ!? お、お前! 最初からそのつもりだったのか!?」
「水も食べ物も無いところに行くんだ。あるだけ奪っておいて何が悪い」
女には優しくしなければいけないからアイゼとアユーには返してやったがティタンは男だ。無闇に殺してはならないと言っても別に優しくする必要もない。
「安心しろ。女には優しくするから」
「ヤクト……お前の優しいってなんだ?」
「死なせないこと」
決まっている。ビビッとくる女は特に死なせてはならない。
僕と一緒にいる限り、どんなに弱くても生きていける。そこまで優しくできれば重畳だが、僕にはまだまだ遠い先の話だ。
「アイゼもアユーもビビッとこないけど、できるだけ優しくしてやる」
3人は顔面を蒼白にして僕を見ていた。その顔を見ていると、何故か胸の奥がチクリとする。
僕の知らない攻撃魔法かと思ったが、誰にも聖痕は浮かんでいない。不自然さは何も無い。
ならば自然な痛みという事になるが、別に死ぬようなものでも無さそうだ。
「ここは挟撃されやすい。さっさと行くぞ」
見通しの良い場所に移動したところで小休止。
アユーがティタンの擦り傷を手当てし、アイゼは自分の水を分け与えている。
2人は優しい女なのだろうか。それとも女とは弱い男に優しくする生き物なのだろうか。
男にとって永遠の謎とはよく言ったものだ。




