第十一話 漁師
ドラント島、南の港町ゴーラガートにて――、ヤクトはくんくん鼻を鳴らす。
ニヤケ面の男から地図を奪い、衛兵隊から馬を奪ってプラデーシュを発った。アイゼがやっていた徴発の真似らしいが理解していない。
街道を無視してまっすぐ南進し、途中で見つけた町の門番に町名を確認しつつ水筒を奪い、ヤクトは最速でブラフマ島行きの船があるという町にたどり着いた。
「はぁ……どれもビビッとこない」
ヤクトは匂いで男女を嗅ぎ分ける能力を身につけていた。
数日を共に過ごしたアイゼ、キーア、女将の匂いを覚え、店主の匂いと比較することで目安にしているらしい。
「アイゼが1番いい匂いだな。乳も1番だし……今のところ」
クズの発言である。
異性の好みなど経験則に基づく嗜好とその時代の価値観で左右されるもの。
ヤクトは多数の中から探し出すものだと思っているようだが、究極的には比較の問題に過ぎないと僕は思う。
ガールハントのやり方なんか教えていないし、僕にも実体験は無いので仕方ないのだが。
「この町はもういい。まずは金だ」
町の目抜き通りを馬に跨がって進む。駆け足だ。
「コラァ〜! 貴様何をやっとるかぁ〜!」
「町中で馬を駆けさせるやつがあるか! 止まれ!」
「当たるな。だが走れ」
「ヒヒィ〜ンッ!」
叫びながら走ってくる衛兵を無視してヤクトは直進。雑踏の合間を縫い、立ち竦む人間を飛び越えて港を目指す。
島に馬は居なかったから乗馬は教えていないが、手懐けた山狼を乗りこなしていた。どうせ同じように馬をシバいて服従させたのだろう。
「よし。あとは好きに生きろ」
「ブルルル……」
港で馬を乗り捨てると桟橋に着いていた船に乗り込み、船頭に「ブラフマ島に行け」と告げた。相手の行き先を確認するつもりはないようだ。
「ブラフマ行きは隣の桟橋じゃい」
「はぁ? 船が無いだろ?」
「三日後に到着予定だったと思うぞ」
「遅い。さっさと行け」
「この船は漁船だ! わしは漁師だ!」
「知らない。行け」
ヤクトは漁師の股間に掴んで脅し、言うことを聞かせてしまった。
今どきの若者にしては骨があるとか。年嵩の漁師の琴線に触れたようだ。
「もうひと稼ぎしようと思っとったが、別にええわい」
「金を稼いでいたのか? それはすまなかった」
ヤクトが謝った。驚天動地の成長だ。
「わしの家はブラフマだから構わん。本島の方が魚に良い値が着くからな。出稼ぎみたいなもんだ」
「金を稼ぐのは大変だからな」
そんなことも教えた気がする。たしかにその通りだが、僕の教え方が足りなかったからこうなっているのだとすれば申し訳ない。特に衛兵の皆さん。
「坊主は何しにブラフマくんだりまで行くんだ?」
「鉱山に入って稼ぐ」
「……組合には?」
「組合で稼げると聞いた」
漁師は小型の推進魔堰を止めて停船すると、ヤクトと目線を合わせて真剣な顔で諭した。
「悪いことは言わん。やめておけ」
「なんでだ?」
「こんなガキに……ったく。お前さん、悪い案内人に当たったな」
ブラフマ島は西南五島の中でも人口が少ない。1人1人の鉱夫はやり手が多いが、鉱山への入り口は1ヶ所しかなく採掘量は五島で最も少ない。
「荒稼ぎできるって聞いたぞ?」
「案内人の言葉が足りなすぎる。わざとだろう」
今現在、ブラフマ島の鉱山洞は閉鎖されている。深部から強大な岩男が入り口付近まで上がって来てしまい、大勢の鉱夫が犠牲になったことが原因だ。
「岩男って何だ?」
「はぁ? そこからかよ? とんでもねぇ案内人だな……」
岩男とは、鉱山で採掘される鉱石の元となる存在らしい。岩男を倒すことで各種鉱石が手に入るのだと言う。
ドラント鉱山がそんなものだったとは僕も知らなかった。目から鱗というやつだ。
「なんだそれ? 獣か?」
「陸獣の類いじゃねぇ。身体が岩でできとって、倒すと崩れて消える。その後に残るのが鉱石だ」
岩男は深く潜るほど強くなっていき、鉱石も大きく希少なものが多くなる。
鉱夫たちは各々の実力に合わせて採掘場所を選んでいるのだが、その強い岩男が入り口付近に居座っているせいで入山できなくなってしまった。
「領主様が何度も討伐隊を出したらしいが返り討ちだとよ。立場上、王家に支援は求めづらいから仕方なく懸賞金を懸けた」
その岩男には懸賞金1,000,000ドランが懸けられている。
ニヤケ面の男が荒稼ぎできると言っていたのは、危険な岩男を倒せればという条件が付くのだ。ヤクトが感じた気持ち悪さは男の迂遠な悪意だったのだろう。
「カレー食べ放題の宿屋が一泊2,000ドラン……――はっ!? 500泊もできるじゃないか!」
「あ? え? 坊主は算術ができるのか?」
「算術? 考えればわかるだろ」
「というか、カレー食い放題でその値段は安すぎやせんか?」
「とにかく! 岩男は僕が倒す! 早く出せ!」
「わしの話ぃ聞いとったか!?」
「他の人間に取られたらどうすんだ!」
馬のように漁師の尻を叩いて漁船を押し進めたヤクトは、日が沈む前にブラフマ島に到着した。
漁師に鉱山の方角を聞くや、タダで乗せてもらった礼も言わずに駆け出していく。
「海面を走ってやがる……新手の運動魔法か?」
ただの水上歩法だ。
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本作は『海の彼方のトティアス ~救助されたら異世界だったので美人船長の船で働くことにしたら、地雷系女子に包囲されてしまった件~』の続編です。
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