第39話 浴室の出来事
駅に着いた東名は、待機しているタクシーに乗り込むと運転手に行先を告げ、つかの間の休息の後部座席で額の汗を拭った。
目的地である赤木家の手前で降りた東名は遠巻きに見張りの確認を済ませ、安全を確信してから家に入った。
恐らく襲撃した犯人達は明確な目標が有ったらしく、タンスなど貴重品が入っているであろう部分を漁った様子は無く、姿を見かけた碧を見つけるために家中を探したような跡は有った、肝心の碧の姿も中々見つからなかったが、浴室の摺りガラスの前で東名が立ち止まり、
「・・・どうやら無事だったみたいだな」
「・・・」
碧は何も答えなかった、
「ちょっと待ってろ、すぐに取って来てやるから」
そう言い残して東名は浴室を離れ二階へ上がり、碧の部屋のタンスの中から下着とパンツを見繕い、タオルとティッシュの箱を掴むと浴室に戻った、
「ここに置いておくから、済んだら出て来いよ」
浴室の扉の前に持ってきた物を置き、東名はとりあえず廊下に出てみたものの他人の家の中ではどこにも居場所が無く、暫くは我慢をしていたがついに耐え切れなくなり、
「外で待ってる事にするよ、お前の両親とは顔を合わせたくないしな」
碧にそう伝えてもシャワーの音しか聞こえて来なかったが、伝わったものとして玄関へ向かったその時、恐らくはリツコのであろう悲鳴が聞こえ、くるりと踵を返すと浴室へ後戻りすることになった、
「まずいぞ、お前の母親が帰って来た、さすがに今顔を合わせたら俺が犯人になってしまう」
東名の訴えが届いたのか浴室の扉が開いた、咄嗟に後ろを向いた東名の右手を碧がそっと握ってきた、その手は微かに震えていた。
「探偵さん少しの間静かにしていて」
碧はそう囁いて東名を浴室に誘い込んだ、あられもない姿をしている碧の方を見る事が出来ないでいた東名だったが、はっきりとリツコが近づいて来た時には咄嗟に碧の方を見てしまった。
そこには裸の少女の姿は無かった、ただ右手を握っている感覚だけははっきりとしている、リツコが浴室を覗いた時には思わず顔を背けてしまったが、リツコは濡れている浴室を怪しんだだけで東名には気付かず、碧の名を呼びながら別の場所へ捜しに行ってしまった。
「・・・わかっていても怖いもんだな」
「やっぱり・・・、そうだったんだ」
「とにかく一回外に出よう、ここに居たらまずいし」
「・・・裸のまま外に連れ出す気?さすがにドン引きなんだけど」
「お前の裸に興味は無いからすぐに服を着てくれ、さっき持ってきてやっただろ」
「手を握ったままだとパンツが精一杯で」
碧がそう言いながらもぞもぞと動いている感触が、東名の右手に伝わってきている、
「手伝ってやろうか」
「・・・」
碧は何も答えなかった。




