第38話 緊急依頼
「はい、ではここにサインを頂いて、はい、これで今回の依頼は完了です」
「ありがとうございました、最初は不安でしたけど思い切ってお願いをして良かったです」
「そう言っていただけると助かります、やはり初めて依頼をされる時はみなさん緊張されるみたいで」
「そうですね」
「大体が一見の方がほとんどで、何度も利用される方の方が稀ですから」
東名が書き終えた領収書を手渡すと女性は席を立ち、事務所を出て行った。
今回の依頼はとても簡単なものだった、娘がくっついてきたりせず、その旦那からの依頼も無い。
あれから2週間が経った、東名にとってまったく利益の無い依頼だったが、ひとつだけ気になっている事が有る。
これからの人生で、自分の様な者に今後出会わなければ、人並みな生活はおくれるだろう、簡単な話しだ。
もしまた自分の様な者と関りを持ってしまったら・・・。
「その時は腹を括ってもらうしかないな、俺の時の様に」
東名は自分が置かれていた境遇と重ね合わせ、思いがけずに口に出してしまっていた。
その日はいつものように寝坊をして、いつものように朝食と昼食を兼ねてモーニングとサンドイッチを食べていた、今日が半分終わって、残りの半分も何事も無く過ぎて行ってしまう、まだまだ強い日差しを浴びながらそんな事を考えていた。
コーヒーをおかわりしようか考えていると不意に胸ポケットが振動し始めた、取り出したスマホの画面には登録の無い携帯番号が表示されている、東名は周りを見渡して電話に出た、
「・・・」
「もしもし」
「・・けて」
「もしもし、どちら様ですか」
「探偵さん・・・助けて」
か細い声に聞き覚えの有った東名に緊張が走る、東名は同じように声を潜めて、
「どうした、何が有った」
「知らない人が家に入って来て・・・」
「それで」
通話は切れていないが声は聞こえず、替わりに知らない男の怒声とドタドタ、バタバタと何かを探している音が暫く聞こえた後で通話が途切れた、東名は席を立ち素早く会計を済ますと駅へ走った。




