第37話 依頼終了
経費の計算が終わってもまだ天井を見つめていると呼び鈴が鳴った、
「どうぞ、開いてるよ」
東名はソファから立つこともなく、また開いた扉の方を見る事もなくそのままの姿で来客を迎え入れた、
「あの・・・探偵さん・・・」
天井を見上げたままでいる東名の顔を覗き込んだのは碧だった、
「ああ、どうした」
「探偵さん、ちょっとその・・・」
「どうした、言いにくい話でもあるのか」
ここでようやく姿勢を戻した東名は、碧にソファに座るように促した。
「・・・」
碧は何か言いたげだったが言葉に詰まる、そんな碧を気遣ってか、
「コーヒーでも飲むか」
東名はそう言って席を立ち、碧が小さく頷いたのを見届けてから冷蔵庫からコーヒーを出し、コップに注ぎ碧に差し出した。
お客様用の透明のグラスでは無く、キャラクターの入ったマグカップで差し出されたそれを碧は少しずつ飲み始めた、
「今日、お前が何をしに来たかは知らないが、それを飲んだら明るい内に帰りな」
暫くどうするか考えていた碧だったが、何度か小さく頷いて東名に従う事にしたようだ、
「それじゃあ、私帰るね」
「ああ、気を付けてな」
碧はコーヒーのお礼を言うと東名の事務所を出て行った、その後ろ姿を見送った東名は事務所へ戻り洗い物を済ませると帰路に付いた。
東名は夕食と晩酌をしながら寛いでいると虹橋からの着信があった、東名は名前を確認してマナーモードに切り替えた、3度目の着信時に覚悟を決めて電話に出ると、涙声の虹橋が電話に出てくれたことに感謝を述べた後ですぐに常盤に変わった、東名はスピーカーから耳を離し聞こえてくる罵声の大半を聞かずに済ませ、怒鳴り疲れたのか静かになった常盤向かって、
「俺がもっときちんとしていればこんな事にならなかったのに、本当にごめん」
と謝罪をすると電話口の常盤はすぐに態度を軟化させ、最後には東名にお礼を言って電話が切れた。
どっと疲れが押し寄せてきた東名は、コップに残ったビールですべてを流し込み、シャワーを浴びるために浴室へ向かった。
深酒をしたわけでは無いのに随分と寝坊をして目が覚めた東名は、もたもたと身支度を済ませていつもの喫茶店に入ると、遅めの朝食と早めの昼食を兼ねてモーニングとサンドイッチを注文し、昼過ぎまでのんびりと過ごした。
最初にリツコが事務所を訪れてから早ひと月、今だ太陽はぎらぎらと東名の横顔を焦がしている。




