第35話 弾劾論破
「東名さん・・・、私が依頼した件なのですが」
俯いていた厳道がゆっくりと顔を上げて話しかけてきた、沈んだ表情の厳道はちらりとリツコの方を見て、
「それで、その・・・、私を尾行していたのは東名さん・・・って事なのでしょうか」
「それは・・・、違います」
東名は即座に否定をしたがすこし歯切れの悪い言い方になってしまった、尾行をしていたのは事実だけれど、尾行に気付かれたのは自分では無い、東名はすぐさまその事について弁明を始めた、
「私がリツコ様の依頼を受けて尾行をしていたのは八月の後半までで、その時には厳道様は私の尾行にお気付きにならなかった筈です、暫くの間尾行をしていましたがリツコ様に契約の破棄を告げられまして、それ以降は尾行をしていません、厳道様が尾行に気付かれたのは私が尾行をしなくなってからだと思いますが」
少し首を捻りながら考えていた厳道だったが、東名の方へ向き直り二度頷いて東名の言葉に同意を示した、
「それにしても、夫婦で同じ探偵事務所に依頼をするなんて、そんな偶然も有るんですね」
不意の厳道の疑問にも東名はすぐさま答えを出した、
「厳道様は恐らくご自宅のパソコンで私の事務所を調べたのでは無いかと思いますが、すでに家族のどなたかが探偵事務所の検索をした履歴が残っていて、それで私の事務所が一番上に表示されたのでは無いかと思います」
厳道は東名の言葉をなるほどと頷いて聞いていたが、リツコは東名から視線を逸らした、
「ですので、偶然と言うには出来すぎな事も、どこかにそのきっかけの様な物が有るのだと思います」
リツコは心ここに在らずという有様でうつろな表情をしているが、厳道は東名の言葉に納得をしたようで、隣に座って居るリツコの異常を感じて顔色をうかがい始めた。
「厳道様が今日会いたいとおっしゃっていたのは、今のお話しでよろしかったですか」
「はい、私が尾行されて困っているという事を東名さんに相談した事を妻に問い詰められまして、どうしても一度会って話しをすると言って聞かなかった物ですから」
「なるほどわかりました、では厳道様は私の説明でご理科頂けたと、そう思ってもよろしいでしょうか」
「はい、大丈夫です」
厳道は頷きながら答えた、それを見て東名は胸を撫で下ろした。




