第31話 幼馴染
「いつまで黙っているの、父の葬儀が終わったらすぐに退社していって後は知らんぷりで、何か言ったらどうなの、父からこの事務所を引き継いだ私が、どれだけ苦労したと思っているの」
東名は一気に話したせいで、息継ぎをしている隙に口を挟もうとしたが、すぐに回復した彼女がそれを許さなかった、
「そうでしょうともそうでしょうとも、私の苦労なんて知ったことではないって、わかってるわよ東名君の事は、なにせ長い付き合いですからね、でもね、幼馴染としてそれで良いのかな」
良くは無い、と口を挟もうとした東名の機先を制して幼馴染はまた話し出した、
「そうよね、いつもいつもそうだったよね、あれは私たちが小学校の・・・」
そこから小学校時代の6年間の愚痴を延々と聞かされ、それがようやく終わり静かになったところで東名は弁明の機会が訪れたと思ったが、それから中学時代と別々だった高校時代と再会した大学時代の話しに続き、彼女と共に彼女の父が経営していた常盤探偵事務所に入社して、ともに切磋琢磨していた頃の話しになり、これでようやく解放されると東名は安堵のため息を漏らしたが、東名が退社してからの5年間の愚痴は聞かされている東名も困惑する内容だった。
しかし長かった常盤凛子の愚痴も終わりを告げた、ほぼ何も言えずにいた東名はしゃべり疲れてコーヒーで喉を潤している凛子に、
「すまない、とても大変だったんだね」
とだけ声をかけた、いままで何度も同じ話を聞かされてきて、どう答えて良いのかを熟知している東名は凛子の求めている言葉がわかっている、東名の言葉を聞いた凛子は姿勢を正し、
「わかれば良いのよ、で、今日の要件はこの前虹橋が東名君の事務所に行った時の件かしら」
「はい、それなんですがどうも事情が変わってきまして」
「どう変わったの」
「それがですね・・・」
東名は凛子に、今の厳道を調べても浮気の証拠が出てこないと伝えた、なぜそれがわかるのかと言う凛子の至極まっとうな意見には自分が受けた依頼の事や厳道が事務所で話していった、などとはとても言えないため、言葉を濁しながらなんとか伝えようとしていると、
「良いわ東名君の事だから、言えない事もあるわよね」
「わかっていただけますか」
「ええ、長い付き合いだもん、・・・いつも、大事なことは言ってくれなかったわよね」
東名は物わかりの良い凛子社長に感謝をしつつ、言葉の裏にある真意を読み取らせようとしてくるかのような幼馴染の凛子に苦虫をかみつぶしたような顔をして、
「お前のせいで女性が苦手になったんだぞ、俺に全く気もないくせに、そう言う事を言うから大学時代に俺は苦労したんだ」
「あらそうだったのごめんなさい、でも、ようやくいつもの口調になってくれたわね、私に敬語なんか使ってかしこまっていた罰よ」
「はいはい、いまさらそんな嘘じゃあ罰にもならないよ」
東名が席を立つと凛子もそれにつられて席を立ち右手を差し出してきた、東名はそれを握り返して、
「ああ、一つ言い忘れていました、虹橋先輩の尾行は相変わらずですね」




