第30話 東名と社長
次の日、重い身体に鞭を打ち厳道の通勤を見届けた東名は、すぐさま虹橋に電話を掛けた。
「先輩、東名ですお疲れ様です、あのー、ダメだったらまたの機会で良いんで、すぐに断ってほしいんですけど、これから、御社の社長様のアポは取れますか」
たどたどしく断ってくれと伝えた東名だったが、虹橋の返事は東名の顔を曇らせた、
「おう、話しは通してあるから、いつでも良いと言っているぞ」
「はあ、わかりました、では・・・」
そう言っていったんスマホから顔を離して時計を確認してから、
「13時に伺うとお伝えください、はい、よろしくお願いします」
電話を切り大きくため息を吐いた後で東名はゆっくりと最後の晩餐へ足を向けた。
東名の信頼しているグルメサイトの情報に間違いは無く、久しぶりに訪れた駅近郊でも美味いと唸らせられるランチを堪能した、しかし旨い食事をしても東名の気は晴れず、道行く罪の無い人たちに隕石でも落ちてくれないかと願っていた、しかし世の中は東名が思っているようには成らず、仕方なく東名は5分前には着くように店を出た。
久しぶりに訪れた元勤め先は、最後の日と変わりなく元の場所に有った、この近くに人工衛星が落ちたというニュースを見た記憶が無いので、変わらない佇まいは当然の事だろう。
覚悟を決めた東名は呼び鈴を押し、応対をしてくれた女性に社長に会いに来たことを告げると、応接間まで案内をして貰い、暫く待っていて欲しいと告げると、アイスコーヒーを置いて女性は部屋を出て行った。
炎天下を歩いて来た東名は少し迷ったが、したたり落ちる水滴と涼しげな音を立て浮き沈みしている氷に我慢が出来ず一口口に含んだらそのまま一気に飲み干してしまった、久しぶりに飲む濃いアイスコーヒーに喉の渇きが癒され、
「ここのコーヒーが濃いのか?俺のとこのが薄いのか?」
思わず声に出るほどの違いに驚いていると扉が開き、社長が部屋へ入って来た、東名は慌てて席を立ち頭を下げると社長は右手を挙げて着席を促して自分も席に着いた。
「久しぶりね、何年になるかしら」
東名は目を伏せたまま何も言えずにいた、固まったまま動かない東名にしびれを切らしたのか社長が堰を切ったようにしゃべりだした。




