第29話 人の金で食う飯は旨い
東名と碧の二人がかりの反論に、本当に仲が良いなと確信した虹橋は、股間の痛みで歪んだ顔を笑顔に変えて二人の出方を見ている。
二人はそれに気付き目を合わせたが、それが更に誤解を招く事に気付きお互いがそっぽを向いた。
「トーメーお前いくら何でも、それはまずいんじゃないか」
完全に上から攻めてくる虹橋の攻勢に、劣勢に立たされた東名は唇を嚙みしめて碧の方をちらりと見た後で虹橋の方へ向き直り両手をバンザイして、
「降参しました降参です、この子は以前の依頼者の娘で、たまたま俺の顔を見かけて一緒に食事をしていただけです」
淡々と話す東名の言葉をにやにやしながら聞いていた虹橋は、さらに唇を歪めて勝ち誇ったように言い放った、
「依頼者の娘に手を出すとか、探偵の風上にも置けないな」
少しふんぞり返った虹橋のサングラスがきらりと光った、虹橋の言葉を受けて少し考えていた東名だったが、大失言だった事に気付き、
「違いますよ、何もしてないしそんな予定も無いです、仕事の邪魔ばかりしてくるんで少し怖い思いをしたら近寄らなくなるかなと思って」
「えー、けっこうスリリングで楽しかったよ」
にこにこと答える碧の言葉は助け船なんかでは無く、さらに虹橋を笑顔にさせてしまった、碧は魚雷のような一撃で東名を陥落させてしまった、
「ごめんなさい、私が悪乗りをしてしまいました、また飯を奢るので許してください」
東名は俯きながら虹橋に謝罪した、東名の哀れな姿に気を良くした虹橋は、
「そこまで殊勝に謝罪するのならだれにも言わずに置いてやろうかな、どうだ、その時にはお嬢ちゃんもご馳走にあずかるか」
「はい、お願いします」
間髪入れずに返事を済ませた碧と、とんでもない要求を出した虹橋の顔を交互に見ながら、東名は自分がまた大失言をしてしまったと後悔していた。
「まあ冗談はさておき、トーメー明日にでも社長に挨拶に来いよ」
落ち込んでいる東名を尻目に、虹橋が切り出した、
「・・・やっぱり行かないとダメですか」
顔をもたげさせて東名が答えた、今にも泣きそうな顔に虹橋は喜びが爆発しそうになるのを押さえて、
「今日の尾行もお前が事務所に顔出さないからなんだぞ、そうすれば俺がこんな痛い目に合わなくて済んだんだ」
「そう、本当にそうですよね」
碧は食事に誘ってくれた虹橋の肩を持ち始めた、しかし、自分がその痛い目を合わせた事を忘れているかのような発言に、虹橋は少し首を傾げながら同意している。
そんな二人を見て東名はこの場を丸く治めるために、
「わかりました、明日伺うとお伝えください」
「よしわかった、絶対に来いよ、あとお嬢ちゃん連絡先聞いても良いか」
「・・・先輩、本気だったんですね」
スマホをくっつけながら碧と虹橋は満面の笑顔で返事をした。




