第27話 残りの弾は1発
東名は碧の手首を握ったまま、駅近くの繁華街の人ごみを早足ですり抜けて行った。
道行く人たちにはどこから見ても不審者に引きずられていく少女にしか見えず、周りの視線に気付いた東名は自然と握っていた手首を放した、それでもゆっくりと流れていく人波を掻き分けて早足で進む二人は十分不審者に見えた、それから少し遅れて進む追跡者は、目立たぬようにそれでいて離れ過ぎないように後をついてくる。
意を決したのか東名はビルの隙間に入り込んだ、追跡から逃れようと飛び込んだ薄暗い都会の迷宮を少し進んだところで碧の姿が消えた事に気付いたが、後ろから迫る追跡者の靴音が一つな事を確認して出口を求めてさらに奥へ入って行った。
ぱっと開けた場所に辿り着いた東名だったが、そこが行き止まりだったため立ち止まり、自分が来たビルの隙間を睨みつけた。
ゆっくりと近付く人影はビルの隙間から何本も影を伸ばし、繁華街から漏れてくるイルミネーションの明かりが追跡者のサングラスに怪しく反射している。
追跡者の右手がサングラスにかかり、その素顔を東名にさらそうとした瞬間にぐえっとカエルを踏み潰したようなうめき声をあげてその場にへたり込んだ。
倒れこんだその男の後ろには、どこから現れたのか碧が立っており、その右足に残った不快な感触に顔をゆがめていた、
「うわ、なんかすっごくやわらかくて・・・気持ち悪い」
右膝を上げたまま、足首を右に左に動かしながら嫌な記憶を振り払っている碧に東名は、
「いきなり消えて驚いたぞ、それに手加減し過ぎだ」
と声をかけた、顔をゆがめたまま聞いていた碧はようやく上げていた膝を下げてスカートの裾のほこりを払うと、
「ええーそうなのー、結構強く蹴ったよ」
と言いながら何度も足を振り上げて練習し始めた、股間を押さえながらうずくまっていた男は顔を上げて東名を睨みつけると、
「トーメー、お前これは飯を奢らせた報復か」
息も絶え絶えに何とか声を絞り出した男は東名の先輩である虹橋だった、
「えーそんな事無いですよ先輩、サングラスしてたから誰かわからなかったんですよ」
「くそう、まだ子供作りたいんだぞ俺は」
「大丈夫ですよ、つぶれた時は柔らかいなんて感想は出ませんから」
そんな事を東名に教えられても虹橋は憤怒の表情で睨みつけている、二人のやり取りを見ていてはたと気付いた碧は辺りをきょろきょろとして、暫くの間戸惑っていたが、
「え、た、探偵さんの知り合いだったの」
とあたふたとしながら言うと、
「そうだよ俺が元居た事務所の先輩、いやぁ尾行は気付いたんだけどなぁ先輩だとはわからなかったなぁ」
東名はわざとらしく答えた、それを聞いて何かに気付いた碧が、
「え、じゃあ鉄砲は鉄砲、鉄砲持った人が尾行してるって探偵さん言っていたじゃない」
東名は、ようやく座るくらいまで回復した虹橋の顔を見た後で、碧に向き直りにこりとしながら舌を出した。




