第26話 日本記録
東名が店を出るタイミングを計っているとデザートが運ばれてきて、碧はのんきにもそれを食べ始めた、あまりの余裕ぷりに拍子抜けした東名は呆れてテーブルに片肘を付いて、
「随分余裕そうに見えるんだけど、今の状況をわかってる?」
思わず口に出た言葉だったが、東名の言葉は碧には上手く伝わっておらず、カチャカチャと皿に残ったクリームをこそげ取りながら、
「まあでも探偵さんはものすごく喧嘩が強かったじゃん、鉄砲ぐらいどうとでもなるでしょ」
うっすらと笑みを浮かべながら答えた碧に、東名は大きなため息を吐いた後心底呆れた顔で、
「さすがに鉄砲には敵わないよ、いったい俺をなんだと思っているの」
「・・・そうなんだ、なんかこうシュバッて躱して倒しちゃうのかと思ってた」
「いやいやいや、いくらなんでも鉄砲の弾よりも早く動くことは無理だよ」
「ふうん」
子供が拗ねたような顔をして返事をした碧を見て東名は、拳銃を向けられるという絶望感が言葉で伝わらないものかと思考を巡らせてみた、おもちゃの鉄砲を向けられただけでも嫌な気分になるというのに、本物の拳銃を持った奴に後をつけられているんだぞと脅しても、どこ吹く風な碧の態度に大物の予感を感じずにはいられないが、銃口を向けられた時の全身から汗が噴き出るほどの緊張感は体験した者で無いと無理な事だろうと自分を納得させた、
「お前、足は速いか」
「11秒の・・・後半」
少し胸を張り気味に応えた碧だったが、それを聞いた東名は両手で顔を覆い、
「それは50メートルだろ、普通は100メートルのタイムを答えるものだ」
それを聞いて驚いた碧は、
「よくわかったわね、どこでわかったの」
そう答えて無邪気に笑っている碧を見て、
「お前を見れば嘘は一目瞭然でわからない奴は居ないよ、どこから見てもどんくさそうだし」
碧はひどーいと言ったような顔で頬を膨らませている、そんな碧の態度にいい加減頭が痛くなってきた東名は、
「走って逃げるのは絶望的だから、とにかく俺の後をついて来い」
「うーん、・・・うん、わかった」
少し考えた後で了承した碧に、何か考える事でもあったかなと、碧の思考の迷宮に入り込みそうになるのを思い留めた東名は、
「よし、すぐに店を出るぞ」
伝票を持ち会計を済ませている東名を見て、碧は両手を合わせてごちそうさまでしたと呟いた、東名は唇を噛みしめながらお釣りを財布に入れると碧の手首を掴み、
「行くぞ」
と言って店を後にした。




