第22話 先輩と社長
昔話に一段落が付き、2杯目のコーヒーを飲み終えたころ、肝心な話しをしていない事に二人とも気付いた、しかしいざ仕事の話しとなると話の取っ掛かりが掴めず、暫くの間沈黙が続いたが口火を切ったのは先輩と呼ばれている男の方だった。
「しかし坂上SSSなんてへんてこな名前付けたなぁ、東名探偵事務所とかなら俺もすぐにお前だと気付いたんだがなぁ」
「それだとみんなトウメイ探偵事務所って間違えますからね、最初はそうしようと思っていたんですが登記の時にさんざん間違えられて、こりゃあダメだって途中で変更したんですよ」
「そうか、そりゃあそうだよな、俺も初対面の時に間違えたし」
「それに、間抜けな先輩が私の事務所だと気付かずに隠れているなんて事も有りますしね」
「誰が間抜けだよ、ってああ、その話しなんだけど、あの人はお前の依頼者なのか」
「ああ、帰って行った人ですか、そうですよ、先輩の事務所の対象者なんですか」
「まあ、そうだな」
そう言って先輩は顎に手を当てて少し考えこみ口を開いた、
「あ、ってことは盗聴器は」
「はい、先輩に教えてもらった通りに対処しました」
「なんで盗聴器が・・・ってそうか、そこから丸見えか」
東名の後ろには大きな窓が有り、自分が隠れていたところがまるわかりな事は明白だった、
「はい、それも有ります、まあそれだけじゃないですけど」
東名は含みのある顔で返事をした、それを受けて先輩と言われている男は目を瞑り、顎に当てていた手で額をぽんっと叩き、
「やられたなぁ、で、どんな依頼なんだ」
「尾行を対処して欲しいって事ですね」
それを聞いて先輩は首を傾げ、
「あ、ああそうなのか、ふうん」
再び顎に手をやり口を噤んで考え事をし始めた、東名はそれを黙って見ていたが、あまりにも長い時間考えているため、
「私はあまり社長と顔を合わせたくないので、出来れば先輩から伝えて貰えますか」
「あ、ああそれは良いが・・・、よし、もう良い時間だし飯でも食わせてくれよ、それで引き受けてやる」
先輩は両手で両膝を叩き席を立った、それを見て東名も席を立ち、
「後輩に集るんですか、逆に事務所開設のご祝儀を貰っても良いと思うんですけど」
「んじゃお前直接社長に言えよ」
先輩はいたずらっ子の顔をして東名を煽る、その顔を見て大きくため息を吐いて、
「わかりました、まだ慰謝料払ってますもんね、今日は私が、後輩の私が、ご馳走しますよ」
東名は何度も繰り返し先輩をからかい、二人は事務所を出て駅に向かい休日もランチをやっているお店でディナーに舌鼓を打った。




