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オオカミノ国  作者: 十乃字
四章・始まりの終わり
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66.苦難の旅路は賑やかに

 前話のあらすじ

 ツザの自警団長をキツネ族のアマネに託した。


 狐獣人アマネを新団長に迎えたツザの自警団の再編が終わり、オウガを大将に据えた討伐軍も新たに編成された。


 それぞれは別個の組織として活動を始め、そして――


「無事を願っているぞ」


「うん。アマネも、ツザをよろしくね」


「任されたよ。……しかし、”皆”行ってしまうのだな。シュリ殿。帰ったら話があるぞ?」


「…………適材適所」


「ほほう? イヌやウサギの小娘もか?」


「あ、あの子たちには町は任せられないから……」


 討伐軍の出立を前に、自警団として町に残る面々との別れの挨拶を交わす時間が設けられたのだが、討伐軍として並ぶ獣人の戦士たちの中に見慣れた顔が並んでいるのを視認したアマネが、細めた目でじっとりとシュリを見つめる。


 責める視線に心当たりがあるのか、目線を逸らしてたどたどしく言い訳を口にしたシュリに苦笑したアマネが、彼女を優しく抱き寄せた。


「愚痴も文句も山ほどあるからな? 戻ったらちゃんと聞けよ?」


「ごめん。でも、信頼してるのは本当」


「うん。信じるよ。町は任せろ」


 身を離した二人が照れ笑いを浮かべあう姿に、見守っていたオウガたちもほっと胸を撫で下ろすと、


「それじゃ、行ってきます」


 まるで散歩にでも出掛けるかのような軽い口調を合図に、討伐軍は町を立った。




   ◇




 その夜、討伐軍最初の野営地。


「こんなに緩んでいて大丈夫なのか?」


 指揮官として一際大きな天幕を用意されたオウガの隣には、そわそわと落ち着かない様子の狼獣人ハヤテの姿があった。


「イヌ族の居住地まで、まだ一月は掛かる。職業軍人として鍛えられていない私たちが、そんな長い間神経を張り詰めていたらとても持たない。ハヤテも肩の力を抜いて」


 オウガの隣、椀に盛られた肉の切れ端を味見と称して幸せそうに頬張っていたシュリが、オウガにもたれ掛かるようにして力を抜く仕草をして見せる。


 初日の料理当番を買って出たマリアたちが腕を振るい、オウガの天幕の中には肉の焼ける香ばしい香りが充満している。


 豪勢な料理の素材も、道中に見つけた獲物を各自狩猟することを許可していた産物だ。


 討伐軍として選抜された少数精鋭の百人の獣人の戦士たちを十の小隊に分け、進軍の間に各自の判断で森や山へと分け入っていく。


 限られた兵糧を節約するための苦し紛れの案ではあったが、様々な種族が入り混じった討伐軍の連携を高めることに加え、熟練の猟師であるオウガたちから獲物を分け与える事で上下関係が確固たる物になるという副次効果があるだろうとシュリは見込んでいる。


 ――自分の肉を分けるのだからそれくらいの効果があってほしい、という願望が多分に入っているが。


 オウガの天幕の周りに点在する小隊毎の天幕では、酒精こそ無いものの宴のような賑やかな食事が始まっていた。


「ハヤテちゃん、折角ご相伴に預かるんだから、言うことは聞かないと。ほら、詰めた詰めた」


 マリアたちの手伝いをしていたオウガたちの幼馴染である狼獣人娘のアヤリがハヤテの隣に腰を下ろすと、湯気を上らせる皿を彼の前に配膳する。


「アヤリまで……はぁ。わかったよ。美味そうだな、これ」


「王国騎士の野営の定番料理なんですよ。オウガさん、シュリさんもどうぞ」


「待ってました! いただきます!」


「私たちの胃袋はすっかり王国に握られる……うまうま」


「何だか人聞きが悪いな」


「でも王国の料理は何でも美味しいッス」


「本当ですよ!」


 配膳を終えたマリアがオウガの横を確保すると、人の悪い笑みを浮かべたシュリがからかう。


 それに獣人娘たちに料理指導を行っていたレイアが苦笑するが、獣人娘たちが熱々の肉料理に舌鼓を打ちながら褒め称え、討伐軍初日の夜は賑やかに過ぎていった。



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