65.行く者と残る者と
前話のあらすじ
シュリお姉ちゃんとクリスさんが怖かった。
「オウガ。出征に連れて行く人選が終わったから、確認してほしい」
王国との接触という隠された目的を無事に達成し、半月ほどの狩猟修行からツザの町に帰還したその夜、オウガの部屋を訪れたシュリが差し出したのは、討伐軍と自警団に残す人選の一覧だった。
その一覧で分けられた見覚えのある人名に、オウガは苦笑する。
「これはまた……揉めそうだね」
「通達は私もするから――オウガはこの二人をお願い」
ちょんちょんっとシュリが手早く居残り組に記された二人の名前に印を付けた。
「えっ? この二人……?」
「私が行くと角が立つ。がんばって」
瞠目するオウガに軽い口調で激励を送ると、シュリはそそくさと部屋を後にする。
「どうしよう……」
シュリによって印を残された見慣れた名前に、オウガは頭を抱えた。
◇
「オウガ殿、今何と?」
「ええと……アマネに自警団団長として町を守ってもらいたいなと」
剣呑な雰囲気を纏ったアマネが、たじろぐオウガを半眼でねめつける。
「ほう。で、オウガ殿やシュリは?」
「……討伐軍としてイヌ族と戦いに、行ってきます」
「私には、その間大人しくじっと待っていろ、と?」
不満を隠さないアマネに詰め寄られ、冷や汗が流れるのを感じたオウガだったが、
「アマネは強くて、人を扱う事に慣れているから。俺たちが帰ってこれるようにこの町を守っていて欲しいんだ」
「…………それなら、シュリが残るのでも良いのではないか?」
怒気を萎ませ、自身の胸元に軽く握った拳を当てて視線を俯かせたアマネに、オウガは僅かに逡巡すると、
「――そうだね。でも、シュリが一緒だからこそ、俺たちはイヌ族にも勝てるんだって思える」
「っ!?」
「シュリがいなかったら、たぶんイヌ族を討伐に行こうなんて思わなかったよ」
楽しそうに苦笑いを浮かべるオウガ。
「……それが私との差か」
「アマネ?」
「分かった。自警団団長の任を受けよう。その代り――」
握り締めていた拳を解いたアマネが、その手をとんっとオウガの胸に置いた。
「帰った時、私たちとの結婚についてちゃんと考えてくれ」
「えっ!? ちょっと!? アマネ!?」
「では!」と身を翻して赤くなった顔を隠すようにして足早にアマネが去って行き、残されたオウガは、
「とりあえず説得できたけど――どうしよう……?」
またしても困惑するのだった。
◇
「絶対に嫌です。私も付いて行きます!」
頭を下げたオウガにぷいとそっぽを向いたのは、治療師として町に残ってほしいと頼まれたマリアだ。
「でもね、マリア。シュリは指揮官として来てもらわないと困るし、マリアまで町を離れちゃったら、町に治療師がいなくなっちゃうよ?」
「それは薬師さんたちと話し合いました。結論として、元々獣人領には治療師がいないのだから、昔に戻るだけだと了承してもらっています!」
「へっ? そんな話をしてたの?」
「それに、重病者の皆さんの治療は既に終わっていますし、最近の新規の患者さんは軽症の人ばかりで、あまり私の力は必要とされてないんです」
「話し合いの場にはシュリさんもいたのに、何で私を……!」と憤慨するマリアからオウガが視線をそらし、傍観していた護衛騎士のレイアに助けを求めるも、苦笑して肩をすくめた彼女は、
「こうなると頑固だぞ? 教会の立場を捨てて飛び出してきた娘だからな。一度シュリに相談しに戻ったらどうだ?」
「そうさせてもらおうかな……」
「私は引きません!」と気迫溢れるマリアの様子に肩を落としたオウガは、レイアの助言通り一度話を持ち帰ることにした。
その夜。
「っち。オウガでもダメだった」
「シュリ?」
「シュリさん!? 今舌打ちが聞こえましたよ!?」
どうしたものかと相談したオウガの予想に反して、残念そうに舌を鳴らしたシュリと直談判するためにオウガたちの家へと訪れたマリアとの間に火花が散ると、説得という名の怒鳴り合いが空が明るくなるまで続き、晴れやかな笑顔のマリアが家を後にしたことから、結果は推して知れるだろう。
その後、只ならぬ仲が公言される女たちに頭を下げて回ったオウガの目撃情報に、様々な憶測が飛び交い、誰の怒りに触れたのか自警団の訓練に強制参加させられた町の住人の悲鳴が響き渡るのだった。
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