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最終話 お爺ちゃんと私と、みんなの大冒険

 日曜日の昼時。

 私は自分のパソコンの前に座り、緊張に心を昂ぶらせていました。


 私の前にはパソコンと、少し昔のゲーム機。

 そして買ったばかりのマイクが置いてあります。

 パソコンの画面に映るのは、ドラゴンファンタジーのゲーム画面。

 KEN君に言われた通り配線を繋いだら、どういうシステムかゲーム画面がパソコンに映るようになったのです。


『いよいよですね。ユキナさん』


 パソコンのチャット画面にKEN君からのメッセージが表示されます。


『JIJIさんがお亡くなりなったこと、ユキナさんが動画を引き継ぐこと。

 あらかじめ、Twitterや掲示板で説明してありますが、一応ユキナさんからも訪問者たちに伝えてください。

 まだみんな、少し半信半疑なところがあるので………』


「うん、わかった」


 カタカタとKEN君に返事を返しつつ、私はため息をついてしまいます。

 まさかこんなことになるなんて、祖父が亡くなった時は想像もしていませんでした。


 何となく、私はゲーム機を見つめます。

 数年前に発売された、型落ちのゲーム機。

 中には祖父が実際に使っていたドラゴンファンタジー7が入っています。


 時計に目をやれば、時刻は午後0時55分。

 泣いても笑っても、あと5分で私のライブ配信が始まってしまうのです。


『ライブ配信の待機室にはもう結構な数の訪問者が来ています。

 流石JIJIさんですね』


「始まる前から不安になるようなことを言わないで………」


『大丈夫ですよ。ありのままのユキナさんを見せればいいんです』


「うーん」


 私が返事を返すと同時。パソコンの画面に『配信予定時刻が近づいてます』とサイトからの最後通告が表示されます。

 

 くそう、覚悟を決めろ幸那!

 おじいちゃんの動画を引き継ぐと決めたのは自分じゃないか!


 ピッという小さな電子音が、私へ午後の1時を伝えます。

 同時にパソコンの画面には、文字列が怒涛の如く流れ込んできました。


[うおおぉぉぉ!マジで始まったぁ!!]


[KENさんはユキナちゃんが代理を務めるって言ってたけど、マジなん?]


[これで普通にJIJIが出てきたら笑うw]


 大量の文字がゲーム画面を覆うように表示されていきます。

 どうやら本当に、ライブ配信なるものが始まってしまったようです。

 私は覚悟を決め、マイクに向かって声を伝えます。


「あ、あの………は、初めまして!

 おじいちゃん―――JIJIの孫のユキナと言います!」


[お、おなごの声やぁ!!]


[マジで、あのユキナちゃんなの!?]


 滝のようなコメントの嵐に私は圧倒されてしまいます。

 見れば閲覧者という項目に10282と数字が表示されていました。

 つまり、私はいま1万人以上もの人の前に立っているということでしょうか?

 こんなの、生まれて初めてです。


 何にしても、先ず彼らへ祖父のことを伝えなければいけません。


「は、始めに皆さんへ伝えなければいけないことがあります!

 祖父は、実況者のJIJIは一ヶ月ほど前に急逝しました。

 ………心筋梗塞で、あっという間のことでした」


[Oh………]


[JIJIが死んだって話、本当だったのかよ………]


[心筋梗塞ってなに?]


[んなもん、自分でググれ!]


 やっぱり、多少の混乱を禁じえないらしいコメント群。

 私は気を取り直すように、彼らへ伝えます。


「そ、それで、今回。私が祖父の代理を務めることになりました!

 ユ、ユキナと言います!

 えとっ、JIJIの孫です!!」


『KEN:落ち着いてユキナさん!それは、さっき言った!』


 画面の下で、KEN君からのメッセージが表示されました。


 うう………ダメです。早くも失敗です。

 そもそもこんなの、私に向いてないんです。


[まあ、とりあえず落ち着けw]


[ちょっと頭冷やそうか?]


[ユキナちゃん、声カワユス!]


 だけど、流れるコメントはまるで私を励ましてくれているかのようでした。


[落ち着いて、ゆっくり話してみ?

焦ったりせんでいいから]


「…………」


 誰かは知りませんが、この人の仰るとおりです。

 私は一つ深呼吸をして、出来るだけゆっくりと話すことにしました。


「KENさんからも話して頂いているのですが………祖父は実況を途中で止めてしまうことが酷く心残りだったみたいで………。

 私、祖父から『自分に何かあれば動画の続きを投稿して欲しい』とお願いされたんです。

 ………もし、皆さんが嫌でなければ、祖父の動画は私が引き継ぎたいと思うんです、けど………」


 まだ少し声が震えているものの、今度は何とかしゃべることが出来ました。

 私の問いかけに、JIJIのファンたちがコメントを送ってきます。


[いいんじゃない?なに、××動画は教えたがりの巣窟だから、ゲームについてはいくらでも教えてくれるさ]


[お前ら、ネタバレすんなよ!]


[祖父の冒険を孫が引き継ぐか。

胸が熱くなるな!]


「はは………」


 彼らはどうやら、私を受け入れてくれるようです。

 私はコントローラーを握り、おっかなびっくり、冒険の第一歩を歩み始めたのでした。



『勇者JIJIよ!よくぞ戻ってきた!

 お前達の行く手に神の加護があらんことを!』


 王様の厳かな言葉と共に、JIJIと仲間たちが街へ姿を現します。


「ここはどこなんでしょう?何をすればいいのかな?」


[えーっと、確か………前回はパーティを作って装備を整えたところだったな。

JIJI、キャラ作成に夢中すぎて全然進んでなかったから]


[とりあえず、次の街を目指したらいいんでない?]


[一月前の内容なんて、あんま覚えてねぇ………。

とりあえず、パーティを確認してみたら?ほら△ボタン]


「はい」


 私が言われたボタンを押すと、パッと仲間たちの情報が表示されます。

 先ず目に映ったのは、立派な鎧を身に着けた青年のグラフィック。


 勇者JIJI。

 かなりのイケメンです。


[このゲーム。キャラのグラフィックを結構弄れてさ。

JIJIはそのイケメンが自分にそっくりだって豪語してたけど、実際どうなの?]


「全然、似てないです………」


[だよなwww]


 確かに、この『JIJI』は私の知る祖父と全く外見が違います。

 そもそも祖父は老人で、こんな若々しい青年ではありませんでした。

 ………でも、何故でしょう?

 このJIJIからは、何だかお爺ちゃんと同じものを感じてしまう………。


 あ、そうか。

 この人、目元がお爺ちゃんにそっくりなんだ。

 いつも優しげに目を細めていたお爺ちゃんと同じ、温かい目をしている。


「似てないけれど………表情はお爺ちゃんみたい。

 お爺ちゃんも、良くこんな風に笑っていました」


[………そっか]


 私は何だかうれしくなって、他の仲間たちも確認してみます。


 戦士 マサユキ。

 痩せ気味の体に、高い身長。目つきがちょっとやぶにらみ。

 驚いたことに、彼の外見は本物の正幸君にそっくり。

 お爺ちゃん、何だかんだいって正幸君も一生懸命作ってあげたみたいです。


 そして、僧侶 ユキナ。

 綺麗な長い髪に、大きな瞳。真っ白な肌。

 お爺ちゃん、ちょっと美化しすぎです。

 私はこんなに可愛くありません………というか、胸を盛りすぎ………。


[他のキャラはどうなの?

JIJIはそっくりだって言ってたけど………]


「マサユキは本物の正幸君にそっくりですね………。

 ユキナはちょっと美化しすぎ………それに、私の髪はこんなに長く―――」


 そこで、私ははたと気付いてしまいます。

 高校生になった頃、私は髪を首にかかる程度の長さまで切りました。

 以来、ずっとその髪型なのですが………このユキナの髪型は、かっての私。

 中学生だった頃の私と全く同じ髪型だったのです。


 祖父の記憶に残った私は、こんな髪をしていたのでしょう。

 そう言えば、祖父にちゃんと会ったのは、中学生の時が最後だった気がします。


[どしたん?]


「いえ………」


 私の声音の変化に気付いたのでしょうか?

 コメントがそれ以上の言及をしてくることはありませんでした。


「あれ………もう一人いる?」


 JIJIとマサユキとユキナ。

 私の良く知る3人のほか、パーティにはもう一人仲間がいるようでした。

 私は不思議に思って、その仲間を確認してみます。


 彼女は、盗賊のミュウ。

 小柄な体に天真爛漫な瞳。何故か頭にはネコミミが生えています。

 そして、ユキナ以上に大きな胸と突き出た腰まわり。何と言うか、小柄なのにやたらと艶かしい体つきをしているような………。


 ミュウは誰よりも良い装備をしているようで、明らかに他の仲間たちよりもお金をかけられているようでした。


「ミュウ?

 マサユキとユキナはわかるけど、このミュウって誰でしょう?

 初めて聞く名前です」


[あー、ミュウね。

それJIJIが一番ハマッていたエロゲのヒロイン。

 JIJI、そのキャラが大好きでさ、ドラファンみたいにキャラ作成が出来るゲームでは結構な頻度で再現してたんだよ]


[JIJI。ロリの癖におっぱい星人だったからなw

ミュウはどストライクだったんだろ]


[バカ!お前ら、余計なこと言うな!]


「…………」


 私は思わず無言になってしまいます。

 その『エロゲ』という単語は初めて聞きましたが、禄でもない気配だけはヒシヒシと感じるのです。


「なるほど………本当にJIJIは、しょうもうない人だったみたいですね」


[ユ、ユキナさん………?]


「このキャラクターは消去します」


[ま、待って、やめたげて!

ミュウはJIJIにとって癒しの女神なの!]


[勘弁したって下さい!!]


「ええい、うるさいです!

 何でこのキャラだけ、明らかに装備が優遇されてるんですか!?

 あの、スケベお爺ちゃん!!」


『KEN:ゆ、幸那さん………ミュウは、ミュウだけはどうかご容赦を!!』


「KEN君!あなたもなの!?

 ああもう、なんで男の人ってそうなの!?」


 思いがけず知ってしまった祖父の性癖に愕然としながら、私の冒険は続いていくのでした。



 JIJIたち、勇者一行が草原の上を進んでいきます。

 始めの街で装備を整え、彼らが向かうのは次の街。

 

 不意に画面が暗転し、緊迫感のあるBGMが鳴り響きました。

 モンスターとの、遭遇です。


 モンスターは弱そうな液体状の塊、3体。

 ゲームをしない私でもどこかで見た記憶がある、ザコ敵の代名詞のようなモンスターでした。


[おほ、始まった!]


[とうとう初戦闘か!]


「………つ」


 何でもないモンスターのようですが、私にとっては人生初めての戦い。緊張に身が引き締まります。


 モンスターは飛び跳ね、パーティに飛び掛ってきます。

 ドゴッという鈍い音と共に『痛恨の一撃』とメッセージが表示され、マサユキが倒れてしまいました。

 私は思わず身をのけぞって、悲鳴を上げてしまいます。


「正幸君!?」


[マサユキが死んだ!]


[いつも通り、マサユキが死んだ!]


[布の服じゃ、やっぱ無理やったんや!]


[なんかこの流れに、デジャブを感じる………]


 何故かコメントが盛り上がっていますが、それどころではありません。


 私は説明書で見たとおり、モンスターを攻撃しようとボタンを押したのですが、何故かJIJIはピクリとも動きません。

 棒立ちになったパーティを、モンスターたちがボカボカと一方的に攻撃していきます。


[おい、なにやってんの!?早く攻撃!!]


「あれ?あれれ?」


 私はカチャかチャとコントローラを弄りながら、困惑の声を上げてしまいます。


「ダメです!どのボタンを押しても、全然反応しません!!」


[なにぃ、んなバカな!]


 私はパニックを起こし必死になってコントローラーを振り回しますが、相変わらず反応は無く、早くもパーティは半壊状態になってしまいました。


「ダメです!このゲーム壊れてます!」


[そんな簡単に壊れてたまるか!

ちょい、落ち着け!]


『KEN:幸那さん、ひょっとしてコードが抜けてないですか!?』


「こ、コード!?」


 不意に送られたKEN君からのメッセージ。つられるように私がゲーム機本体へ目を向けると、なるほど、コントローラーのコードが抜けていました。

 さっきのけぞった時、抜けてしまったようです。


「すいません、コードが抜けていました!

 もう大丈夫―――」


 私は慌ててコードを差込み再び画面に目を向けると、なにやらコメントが大文字で表示されていました。


[とりあえずポーズ!ポーズボタンを押してぇ!!]


「はい?ポーズ?」

 

[コントローラーの真ん中にある、黒いゴムのボタン!早くぅ!!]


 私は言われるがまま、そのボタンを押すとゲーム画面がピタリと止まりました。

 どうやらこれは、ストップボタンだったようです。


「と、止まった………」


[いや、コード抜けてたって………なに、狙ってんの?

天然キャラ狙い?]


「はぁ………すいません」


 咎めるようなコメントに私は項垂れてしまいます。


[怒んなよ………JIJIだって初期のころ、似たようなことやらかしてただろ?]


[そこらへん、本当に孫って感じだなw]


[とりあえず、状況を確認しようぜ]


 コメントに促され、私はパーティの状況を確認してみます。

 パーティは文字通り、壊滅状態になっていました。


 マサユキは死亡。

 JIJIとミュウも体力が半減。

 ユキナに至っては体力が一桁まで下がり、赤色で表示されている有様です。


 そして、虫の息であるユキナに、モンスターが飛び掛っている状態で画面は止まっていました。


[もうユキナは攻撃に耐えられねぇな。

諦めて、JIJIとミュウで立て直すしかないか]


[つっても、僧侶無しでの立て直しはキツイぜ?

確か、回復アイテムの類もほとんど無かった筈だ。逃げた方がいいんじゃね?]


[………いや、ちょっと待て。

JIJIをよく見てみろ]


 何の操作も受けず、棒立ちになっているパーティの面々。

 そんな中、JIJIだけはまるで駆け出そうとするかのように、足を踏み出していました。


[これ………『かばう』が発動してんじゃねーか?

だったら、まだいけるぜ]


「かばう………ですか?」


[そ。勇者は固有スキルに『かばう』ってのがあってさ。

HPが減った仲間に対して、オートでかばいに行くことがあるんだ。

たぶん、今も発動してる]


 コメントを受け、私はもう一度、JIJIのグラフィックに目を向けます。

 JIJIとてダメージを受けボロボロの様相でしたが、それでも彼はユキナの方を向き必死に駆け出そうとしているようでした。


「………」


[JIJI、実況プレイ中にもよくユキナちゃんの話をしてたからな。

可愛くて可愛くて仕方ないって………。

もちろん、ここにいるのは唯のデータに過ぎないけれど………なんつーか、やっぱJIJIなんだなぁって思っちまうよ]


[そうそう。JIJI、効率無視でユキナにばっかめっちゃ優遇してたもん!

まあ、マサユキがその割を喰ってたんだけどなw]


 流れるコメントを捉えながら、私は何だかうれしくなってしまいます。


「………でも、本当のお爺ちゃんは、正幸君と大の仲良しだったんですよ」


[そーなん?]


「ええ。正幸君は小さい頃から側に住んでいたし。

 一緒にザリガニを釣りに行ったり、野球をしたり………男の子の遊びを良くやっていました。

 一度なんて、せっかく遊びに来た私を放置したものだから、私が不貞腐れてしまったことがあるくらいです」


[そりゃひでぇwww]


 私は記憶にある祖父の話をみんなへ語りかけます。

 みんなはJIJIのことを知ってるかもしれないけれど、お爺ちゃんのことはほとんど知らない。

 それが何だかうれしくて………そして、みんなに教えたくなってしまう。


 画面を止めたまま、私はお爺ちゃんのことを話します。


 とても陽気で、優しい人だったこと。

 野菜を育てるのが、とても得意だったこと。

 小さな私に、色々なことを教えてくれたこと。


「だけど………私、大きくなってからお爺ちゃんに全然会っていないんです。

 亡くなったと聞いてお爺ちゃんの家に行ったのも、10年ぶりくらいのことだったんですよ………」


 そして最後に、私が祖父と疎遠になっていたことを伝えました。


[ま、まあ、そういうモンなんじゃねーかな?

俺だって数年、自分の爺さんに会ってねぇ………]


[俺もだ………やっぱ仕事についちまうと、色々と難しいものがあるよな………]


 私の話を受け、画面にそんなコメントたちが流れていきます。

 そんな中、一つのコメントが私の目に入りました。


[JIJIは、幸せだったのかなぁ………?]


「…………」


[80を越えて、一人暮らし。

こんなゲーム実況だけを生きがいに、一人っきりで。

言ってしまえば、孤独死じゃん。

何十年も必死で生きてそんな幕切れ………何て言うか、報われなさ過ぎる]


 動画に流れる、そんな声。

 思わず私は無言になってしまいます。


[おい、実際に家族がいるんだぞ!

外野の分際で勝手なことを言うな!]


 祖父は幸せだったのでしょうか?

 彼の人生は報われるものだったのでしょうか?


 そんなの、私にはわからない。

 わからないけれど―――。


「大丈夫ですよ………」


 私は確信を持って答えます。

 きっと、私の確信は間違っていない―――。


「お爺ちゃんの生放送。閲覧していた方はいますか?

 お爺ちゃん、あの配信で言ってました。

 『葬式の時、家族には笑っていて欲しい』って」


「祖父の葬儀を上げた時、集まった親戚はみんな笑ってました。

 楽しそうに、祖父の思い出話へ花を咲かせてた

 悲しいけれど、懐かしくて。

 最後まで立派に生きたお爺ちゃんが誇らしくて………寂しいのに笑ってました」


 そう、まるで―――


「まるで、皆さんと同じように―――」


[ユキナちゃん………]


「だから、大丈夫。

 お爺ちゃんの人生は、きっと実りのあるものだった。

 だって、みんながこんなに祖父のことを想ってくれているんです。

 更新の途切れた動画に1万人以上の人が集まって、口々に祖父のことを話してくれる。

 これで寂しいなんて言ってたら、祖父は欲張りというものです」


[別に………俺らはただ、JIJIがゲームしてんのを見てただけだぜ?]


「だけど祖父にとって、みんなはかけがいのない人たちだったと思うんです。

 だって、聞いて下さい。

 生前、祖父は私に手紙を書いてくれたんですけれど………結局、一番伝えたかったのは『更新中の動画をよろしく』ということだったんですよ?」


 私が笑みを漏らしつつそう伝えると、みんなが私の言葉に答えてくれました。


[マジかよwww]


[ユキナちゃん、不憫すぎるwww]


[××動画厨すぎんだろ、JIJIwww]


 流れる楽しげなコメントを見送りながら、最後に私は決意の言葉を伝えます。


「そんな祖父の遺言。私はしっかりと果たしたいと思うんです。

 私はJIJIに比べ饒舌じゃありませんし、ゲームもほとんどしたことがありません。

 つたない実況で申し訳ないのですが………私の―――お爺ちゃんと私の冒険に、皆さん付き合って頂けますか?」


[聞かれるまでもないだろ?]


 私の問いかけに、どこかの誰かが答えます。


[JIJIが世界を救うまで、最後までつき合わせてもらうさ。

一緒に、ちょっと世界を救ってこようぜ!]


「ありがとう………ございます」


 パソコンの画面越しに、私は思わず頭を下げてしまいます。

 伏せた視線の先には、KEN君とのチャット画面が映っていました。


『KEN:( ^ω^)b』


「ふふ………」


 お爺ちゃんは、きっと幸せものです。

 だって、こんなに沢山の人が、お爺ちゃんのことを想ってくれていたのだから………。



 私は思い出したようにコントローラーを握りなおしまします。


「おっと、変な所でしゃべり続けてしまいました。

 さっそく、ゲームを再開しますね!」


 再び動き出すゲーム画面。ユキナへの攻撃はコメント通り、JIJIによって遮られました。

 ユキナが無事だったとは言え、戦闘はまだまだ劣勢。盛り返していかなければなりません。


「えと………とりあえず回復を………」


[回復すんならJIJIよりミュウの方がいい。

盗賊の方が素早いし、何よりミュウはすげー良い武器を装備してる]


「は、はい!」


 私はミュウへ回復魔法をかけようとするのですが、不慣れな操作にもたついてしまいます。

 その刹那、モンスターが今度はミュウに狙いを定め、体当たりをしていきました。


「危ない!」


 私がそう叫ぶのも束の間、ミュウへの攻撃をJIJIがかばいます。


[お、今度はミュウをかばったか。流石JIJI!]


[JIJI、ミュウに関しては、ユキナ以上に厚遇してたからなw

実にJIJIらしいw]


[「御主人様、ありがとにゃー」とか言ってそうwww]


「………」


 相変わらずミュウ談義を続けるコメントたちへ、私は冷めた視線を送ります。


「なるほど………そのミュウというキャラクターは、可愛い顔してとんでもない女のようですね………」


[ユ、ユキナさん………?]


「やっぱり、このキャラクターは消去します」


[やめて!]


『KEN:やめて!』


 私と祖父とみんなの世界を救う旅は、まだまだ始まったばかりです。



『ユキナさん、お疲れ様でした。

 大変だったでしょう?』


 生まれて初めてのライブ配信。

 それを終えた私は、KEN君とスカイプで会話していました。

 パソコンの画面越しで、私はぐったりと呟きます。


「結局、終始グダグダになっちゃったね………」


『生配信なんて誰だってそんなモノです。それにユキナさんらしい、良い放送だったと思いますよ?

 第1回の配信は大成功です!』


「そうかな?」


『ええ!』 


 KEN君の明るい声に、私は少し元気をもらいます。

 流石10代、元気いっぱいです。何だか眩しく感じてしまいます。


『ざっと見ですが、配信は良い具合に30分くらいで纏まりそうです。

 私の方で編集して動画にしておきますね!』


「ありがとう………KEN君」


 まだパソコンに映っているドラゴンファンタジーのゲーム画面。

 画面の中で、『JIJI』はやっぱりおだやかな笑顔を浮かべています。

 お爺ちゃんとは似ても似つかないJIJI。

 だけど、その笑顔はやっぱりお爺ちゃんの面影があって、私は何だかうれしくなってしまいます。


 お爺ちゃん。


 お爺ちゃんの冒険は、きっと私が続けるよ。

 お爺ちゃんが救おうとした世界は、私やKEN君、JIJIファンのみんなできっと救ってみせるから………。


 だから、一緒に冒険していこうね。


『そう言えば、動画のタイトルはどうします?

 決まっているならTwitterや掲示板に報告しておこうと思うんですが………』


 KEN君からの問いかけに、私は真っ直ぐに答えます。

 それは私の中で、もう決まっていました。


「うん。動画のタイトルはね―――」



『お爺ちゃんと一緒に、ちょっと世界を救ってくる!』


と、いう訳で、ユキナとJIJIの冒険はまだまだ続いていきますが、幸那のお話はこれでお終いです。


 それでは、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!

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