喪喪太郎 第三話
道中、飛影はいつもより大きな羽音をたてていた。「あいつ、ヤベェよ!まじヤベェよ!」
「まあまあ、そんな熱くなるなよ...。焼き鳥だけにさ」月光狼はヘラヘラと笑いながら言った。
「うるせぇ!俺の返しを雑にいじってんじゃねえ!」
「え?月光狼さん、今のどういう意味っすか?」
「入ってくんな猿!お前が一番うるせえよ!」飛影は食い気味に吠えた。
「まあまあ、てか飛影は喪喪太郎さんに媚びすぎじゃね?よく出来るよな。俺だったら無理だな」
「え?何?俺が媚びたくて媚びてると思ってる?鳥なのに帰巣本能より媚び本能の方が強いんすか?とか思ってんの?」あまりに口早に話すものだから、飛影はくちばしをカチカチと鳴らしていた。
「そこまでは言ってねえじゃん。ただー」月光狼の言い終わりを待たず、飛影はくちばしを開いた。「ただじゃねえよ。俺のは媚びによるムードのメイキングだろ?じゃあ実際さ、俺がムードをメイキングしなかったらどうなるか分かる?それ分かった上で言ってる?」
月光狼の態度はどこか冷ややかで、フンっと鼻で笑った。「まあまあ、遺言実行しなくていいよ」
「べつに熱くなってねえよ!てかお前ほんと、うるせえな。ムードをメイキングしてもらった恩恵だけ受けて、俺の媚び批判っすか?よくやりますねー。いやー、ある意味感心っすわー」
「いや、媚びの恩恵ってなんだよ」
「うわー、ドン引きー。お前みたいな奴、雉界にもいるわー。俺の実家の隣の木に住んでる雉彦君とか、まさにそんな感じだった」そう言うと飛影はわざと上昇と下降を繰り返しながら続けた。「五人兄弟で自分だけ上手に飛べないからかな?他の兄弟のこと、『雉に生まれたからって飛ばなきゃらないという固定観念に縛られた哀れな存在』とか言ってた。何あれ?冷笑?冷笑癖なの?教えてよ月光狼君」
飛影は尚も止まらない。「どうせあれだろ?お前ってMBTI診断のことを科学的な裏付けが弱い(笑)とか言いつつ、一匹でいる時にこっそり診断してるタイプだろ?」
月光狼は口角を上げて鼻の上に皺を寄せ、牙をチラリと見せた。「は?じゃあ言わせてもらうけど、お前が媚びるからアイツが増長してるだけじゃん。仮にお前がムードをメイキングしてたとしても差し引きゼロだよ」
くちばしを開き、何かを言いかけた飛影を見た秀吉は、突如陽気な声で語り出した。「まあまあ、飛影さんも月光狼さんも落ち着いてくださいよ。飛影さんは僕らが気不味くならないようにしてくれてるんですよね?で、月光狼さんもそれに感謝してないわけではないっすよね?」
月光狼は一度立ち止まると、後ろ足で身体をペシペシと叩きだした。「まあな、ムードが悪くなって更にあいつが増長するって最悪のパターンは回避できてるよな」
それを聞いて飛影は全身の羽毛を逆立て、「ケーーン」と鳴いた。一際大きなその鳴き声は、辺りの木々に乱反射して森に轟いているかのようだった。
「お前、いちいち一言多いよな。なんなのマジで?感謝したら死ぬの?普通にありがとうでよくない?そんなんだから未だに交尾できないんだよ。喪喪太郎と根本が同じなんだよお前」
飛影の怒りの残響が消えるか消えないかの間のような時の中で、ただ秀吉が目を泳がせながら、飛影と月光狼を交互に見ていた。
当初は飛影の言葉に感情を失ったかのようだった月光楼の表情は、刹那の後に激情に染められた。「ワンワンワンワン!グルルルルルゥ」
飛影は頸をクイクイと前後させながら、月光狼に追撃を加えた。「お?お?それ遠吠え?」
「飛影さん、言い過ぎっすよ。それに、喪喪太郎さんと同じはマジで禁句っす」
「いや、いいんだよ。こういう奴には言ってやった方がいいの」
「まあでも、そもそもの原因は喪喪太郎さんな訳じゃないですか。この三匹で誰が悪いとかはないんすよ」
「まあ、俺は"一羽"だけどな?」飛影はくちばしで羽を一つ引き抜くと、緑色のそれを秀吉に見せつけた。
「そっすね。間違えました。そう言えば、どうします?肉か魚どっちにします?」
「急にマジな話すんなよ」
「いやでも、喪喪太郎さん怖いっすもん。早いとこ魚でも採って帰りましょうよ」
月光狼は何か訳の分からぬことをブツクサ言いながら、会話に入ろうとしない。
「いやいや、そもそも魚でいいのって話なんだよ。アイツ、最低でも魚って言ってたじゃん?これで魚採って帰ってみ?またネチネチだよ?」
「いや、でも純粋にっすよ?俺らで鹿とか猪倒せないっすよ」
「そうなんだよ。俺らって控えめに言っても戦闘能力低いんだよ。それこそ、子鹿が倒せるギリギリのラインだよ。なのに、俺ら引き連れて鬼退治行くんだろ?馬鹿なんだよアイツ。絶望的にさ」
「そうっすよ。しかも鬼って、7尺越えで40貫くらいあるらしいですよ」
「デカっ!もうほぼシャキール・オニールじゃん」
スーーーー、秀吉は歯の隙間から空気が漏れ出るような音を立ててた。そして、黙り込むとゆっくりと腕を組み、首を僅かにかしげた。
「飛影さん...。今もしかして、鬼とオニール掛けました?」
「え?あ、ああ。まあ...」
「本当に申し訳ないんすけど、喪喪太郎さんと同じレベルっす」
飛影は何も言わない。月光狼は甲高く遠吠えをした。




