お話し(物理)をしようか
「お前に聞きたい事がある。俺の質問に素直に答えるなら、手荒な真似はしない」
「……けっ! テメェに話す事なんて何もねぇよ」
くっくっく……その威勢の良さ、一体いつまでもつかな?
「では、宣言通り手荒にいかせてもらうとしよう」
俺は手に持った愛槍を、男の右太ももへと突き立てる。
「……えっ?」
槍を刺された男は、何が起きたのか理解出来ずに、呆然とした顔をしている。まあ、今は薄皮一枚切り裂いた程度だ。大して
出血しているわけでも無いし、痛みも無いだろう。
「さて、ここからはお前の返答次第だ。あまりもふざけた態度だと、俺も「うっかり」手に力が入ってしまうかもしれんなぁ?」
俺がニヤリと笑うと、それでようやく全てを察した男が、顔中から冷や汗をダラダラと流し始めた。
「先ずは簡単な質問からにしようか。お前達は、誰の命令で俺達を襲ったんだ?」
「ひぃっ⁉ や、やめてくれっ! わ、分かった、全部話すから、それだけはやめてくれっ!」
やれやれ、最初から素直にしていれば良いものを。
「それじゃあ、お前の知っている事を聞かせてもらおうか」
「うぅ……お、俺たちは「十天商」の一人――第七席のお方に雇われたんだ」
第七席……ね。これは詳しく聞いてみる必要があるな。
「その席次は、どうやって決まっているのだ?」
「基本的には、商人としての「力」が強い順になってる」
商人としての「力」ね……。つまり、商いの規模――もっと言えば『資金力』で、その席次が決まるのだろう。
「その第七席の名は?」
「……チーピン。あの方はそう呼ばれている。それが本当の名なのか、それとも偽名なのかは知らん」
「そのチーピンとやらは、この町に居るのか?」
「いや、普段はソン国にある本店に居る。この町に来るのは、「十天商」の会合がある時だけだ」
「その会合とやらの日程は分かるか?」
「それに関しては、俺はなんも知らねぇよ。「十天商」の会合は最重要機密扱いだ。知っているのは、限られたごく一部の人間だけさ」
ちっ、面倒な。そのチーピンとやらを問い詰めるには、わざわざソン国にある本店まで出向くか、いつ開催されるかも分からん会合の日を狙うしか無い。
だが、素直に本店に出向いたとして、そのチーピン本人に会えるとは思えんね。居留守を使われるに決まっているさ。
会合にしても、それが半年に一回なのか、一年に一回なのか、それとも不定期開催なのか……それが分からない事には、どうしようもない。一年中この『天都』に常駐する訳にはいかんからな。
「俺達を襲ったのは、この町に居ないチーピンからの命令だったな? どうやってその命令を受けたんだ?」
「……「十天商」の方々は、遠くの町と連絡を取れる魔道具を持っているんだ」
まあ、これは予想通りだな。さて、他に聞きたい事といえば、
「他の「十天商」のメンバーについては知っているか?」
「残念だが、他の方々の姿は勿論、名前すら知らねぇよ」
徹底しているな。流石にこの男から芋づる式に全てを知る事は出来んか。
「お前がチーピンから受けた依頼の具体的な内容は?」
「俺が受けた命令は、「十天商」の事を嗅ぎ回る『ネズミ』を排除する事だ。今までにも何度か受けた事のある依頼だったんだ」
ふむ。俺達以外にも同じ事をしていた人物がいたのか。それをこの男が中心になって排除していた、と。
これだけ強大な力を持つ集団だ。その正体を探りたいと思うのは、当然の感情か。恐らく「同業他社」、つまり商人だろうと予想する。
これ以上、この男から聞ける情報は無いか。いや、もう一つあったな。
「今回の襲撃、お前がこのゴロツキ共を雇ったのか?」
「そうだが……それがどうした?」
「お前はコイツ等で俺達に勝てると思ったのか? 質も量も足りないとは考えなかったのか?」
俺の最大の疑問はこれだ。こんなゴロツキでどうにかなると、本気で思っていたのか?
「……今まではコイツらで問題無かったんだよ。テメェらみたいなイカレた強さを持ってる方がおかしいんだ!」
うん、それに関してはコイツの言う通りだな。冒険者ランクA以上の実力者なんて、そうそうお目に掛かれる機会は無いか。仮に居たとしても、こんな密偵まがいな事はしないかな。
「そう言えば、数日前にもゴロツキに襲われたのだが、それもお前達の仕業か?」
「あん? 知らねぇな。俺たちがアンタらを襲ったのは、今日が初めてだ」
ふと、先日襲われた事を思い出し、この男に問いただしてみたが……違ったか。という事は、別の「十天商」の関与が疑われるな。これまた面倒な話だ。
今度こそ、本当に終わりかな。他に何か無いか、妻達にも視線を送るが……特に無しか。では、撤収するとしようかね。
「それでは、俺達は帰るとするよ。世話になったな」
「なっ⁉ お、おい、この縄を解いてからにしてくれよっ!」
俺達がこのまま何もせずに帰ると悟って、慌てだすリーダーの男。
「断る。縄を解いた瞬間に暴れられると面倒なんでな。まあ、運が良ければ「誰か」が助けてくれるだろうよ」
「ま、待ってくれっ‼」
俺達は漢の叫びを背中に受けながら、広場を後にし裏路地目と入っていく。
「あれで良かったのでござるか? 今後の事を考えるのなら、ここで始末してしまうのが良いのでござらんか?」
裏路地に到着すると同時に、椿がそんな事を聞いてきた。
「別に問題無いよ。どう足掻いても、あいつ等に助かる道は無いのだからな」
ここはカルディオスの町やシャムフォリアの王都程、治安が良い訳では無い。そこいらに浮浪者の類もチラホラと居るのだ。そんな町で、縛られて動けない人間が居たらどうなるか……。
そうでなくとも、任務に失敗した下っ端の運命など、一つしか無いのだから。
日頃の行いが良ければ、連中にも助かる可能性はあるだろう。言葉通り「万が一」だろうがね。
「桔梗とリコリスの報告も聞きたいし、一度家に帰ろうか。ソニア、頼む」
「はぁい、それじゃあ行くわよぉ」
と言う訳で、俺達はソニアの「転移魔法」で帰宅した。




