情報収集開始
不満たらたらだった妻達を、何とか宥めすかす事に成功した俺達選抜メンバーは、ソニアの転移魔法で『天都』へとやって来た。
「桔梗とリコリスには、例の「十天商」について調べて欲しい。ただし、無理だと判断したら素直に退くこと。それだけは厳守で頼むぞ。刻限は日暮れまで。時間になったら、町の中心部にある広場で落ち合おう」
「りょ~♪ ま~かせてよ♪」「はい。小官の出来る範囲で頑張る所存であります」
桔梗とリコリスの二人はそう言い残すと、町の雑踏へと姿消したのだった。
「それでぇ、残ったおねぇさん達はどうするのぉ?」
「俺達はこのまま日暮れになるまで、普通に町を散策する。主に商店を中心とした場所だな」
言うならば、俺達が「表」、桔梗とリコリスが「裏」を、それぞれ調べる。その様な感じでとらえてくれ。
「しかし、そんな所を調べて何か情報が得られるものでござるか?」
「この町で商売をする以上、必ず例の「十天商」の息のかかった商人が居るはずだ。彼等なら何かしらの情報は持っているだろう、という希望的観測さ。まあ無いなら無いで構わないのだよ。その時は「何も情報が得られなかった」という事実が確認できるのだからな」
椿の質問に、そう答える。ここで問題になるのは、在りもしない情報に無駄な時間を掛ける事だ。
「……成程ね。何の成果も得られなかった……それすらも貴重な情報ってわけかい。アタイには無い考え方だな」
俺の言葉を聞き、一瞬驚いた顔をした後、ニヤリと口の端を上げて笑ったのはアルメリアだ。
人間の心理として、何か行動を起こしたのならば、その労力に見合う成果が欲しいと思うのは当たり前だろうさ。
「無駄を無駄のままにしない……それが俺の信条の一つだよ」
まあそれについては今語る必要は無いか。その内暇な時にでも語るとしよう。
それに、このショッピングには隠された『本当の目的』があるのだ。その秘密とは……直ぐに分かるさ。
「さあ、先ずは大店から行くぞ。何か気に入ったものがあったら購入しようか」
ここでお土産の一つでも買って帰らなければ、家で待つ妻達に何を言われるか……。
そんなこんなありながらも、ショッピング自体は楽しく過ごせたよ。
それに、面白い物も見つけられた事だしな。
俺が見つけた物、それは『大豆』だ。より正確に言うなら、大豆「らしき」物だがね。
それと『大麦』だ。これを見つけた時は、思わず「ブラボー」と叫んでしまったよ。店の店主が、驚きのあまり後ずさりしていたな……。
だが、ふふふ……これがあれば……色々な物が作れるなぁ。今から楽しみだよ。
その後も日暮れまで町中を歩き回り、色々な店に行ったな。
買い物の成果は上々、そろそろ日暮れ時となる時間。俺達は桔梗とリコリスと合流する為に、町の中心にある広場へと足を延ばしたのだった。
家に帰ったら何から始めるか……そんな事を考えていた時に、それは起こった。
「……殿。町の様子が変でござる」
最初にその異変に気がついたのは、椿だった。
「ああ、人の流れが妙に少ねぇぞ。ここは町の中心だろ?」
椿が感じた違和感の正体を、アルメリアが突き止めた。
そう言えば……この広場に来た時は町の人々で賑わっていたのだが……いつの間にかその賑わいが消えているな。
「これはぁ……旦那君?」
「ああ、狙い通りだ。奴さん、見事に引っかかってくれたようだぞ」
先程述べた「ショッピングに隠された本当の狙い」というのは、この事だったのだ。
あれだけ大っぴらに「十天商」の事を聞いて回れば、何かしらのリアクションがあると踏んだのだ。
前回、ここを訪れた際も襲われたと、妻達に聞いていたのでな。もしかしたら……と思って餌を撒いておいたのさ。
連中からしたら、自分達の事を嗅ぎ回る奴なんて、目障りでしかないだろうからな。
そうこうしている内に、広場からは人の気配が完全に消え去っていた。やれやれ……何とも大掛かりな演出をしてくれたものだ。だが、そのお陰で確信が持てたよ。
この町で、これだけ大規模な演出や仕掛けを施せる人間は限られている。間違いなく「十天商」の連中の仕業さ。
人の気配が消えてから少しした後、遠くから大勢の人が歩いて来る音が聞こえてきた。
広場に姿を見せた集団は……これは最早「お約束」な見た目の連中だった。数はおよそ三十か。
一言で言えば、『冒険者崩れの山賊』。これが一番しっくりくるだろうよ。見た目は勿論の事、装備もバラバラ。そこそこ質の良い武具を身に付けた者もいれば、粗悪品の者もいる。
それにしても……だ、俺は「十天商」の連中を、高く見積もり過ぎているのか? それとも連中は思っているよりも不景気なのか?
このレベルの輩を三十人程度で……随分と舐められたものだな。俺達も。




