「ガンベルト」と町の現状
「それじゃあ、中庭に行こうぜ。こいつらをリコリスに届けなきゃな」
そう言ってルピナは、机の上の拳銃とナイフを手に中庭へと歩いていった。俺もその後に続いていく。
「おっ? やってるな。リコリス、例のブツ持って来たぜ」
ルピナと俺が中庭に姿を見せると、鍛錬をしていたリコリスが手を止め、こちらに歩み寄って来た。
「おおっ! 完成したでありますか?」
「おう。後は実際に使っていて、問題が無いかどうか確認するだけだ。ほれ、持ってみな」
ルピナから手渡された拳銃とナイフの感触を確かめるリコリス。
最初にナイフを右手に持ち、数回素振りを行った。素振りの最中に何度か頷いていたから、満足な出来なのだろう。
続いて『訓練用・頑丈案山子君改』に向かって拳銃の銃口を向ける。
「……すぅ」
一度、大きく深呼吸した後、目標に向かって拳銃を数発撃ちこむ。
拳銃から発射された魔法の弾丸が、『訓練用・頑丈案山子君改』を撃ち抜き、大きな傷が幾つも出来た。
「リコリスの要望で、威力よりも連射性能を重視する調整をしたんだ。アタイとしては、完璧な調整が出来たと思っているよ」
そう語るルピナの表情は、何処か誇らしげだ。成程ね。つまりこの拳銃は、攻撃用というより牽制用という事だろう。
拳銃を撃ちながら移動し、敵との間合いを詰めてナイフや格闘術で敵を倒す。実にリコリスらしい戦法だ。
だがしかし、それだけで終わらないのが「ルピナクオリティ」だ。
先程、この拳銃の事を「牽制用」と評したが、それでも中ランクの魔物なら十分に倒せる威力を発揮しているのだ。流石にローズの銃と比べると、多少見劣りしてしまうがね。
リコリス達は、引き続き中庭で鍛錬を続けるそうだ。俺か? 俺はとある用事を済ませる為に、町へと繰り出した。
向かう場所はそう、ユニスの店だ。
「いらっしゃいませ……あれ? 今日はお一人なんですね」
ユニスの店に入るや否や、そんな事を言われてしまったよ。そこで俺は今までの行動を振り返ってみた。
俺が一人でユニスの店に来た事は……あれ? 思い出せない? ば、馬鹿な! 一回くらいはある筈だ! よく思い出せ。
だが幾ら記憶を辿っても、一向に思い出せない。それ即ち、元々そんな記憶は存在しない……という事だろう。
いや、今は過去を振り返っている場合ではない。要件を済ませてしまおう。
「これを見て下さい。ユニスさんに、この図面通りの物を作って欲しいのです」
「これは……ベルト、ですか?」
俺が見せた物。それはリコリス用の「ガンベルト」の設計図だ。
彼女の意向により、腰に装着するタイプではなく、太ももに装着するタイプにした。
見た目にも彼女のこだわりが反映されている。華美な装飾は一切無し。色も極力目立たない色にする徹底っぷり。『質実剛健』という言葉がピッタリな感じになる予定だ。
「細かい仕様はユニスさんにお任せします。それでどうです? 作ってくれますか?」
「……初めて作るタイプの物ですが……ポーチに近いですかね? これなら何とか作れそうですね。二、三日頂ければ完成させられると思います」
「お願いします。それと、日にちの方は気にしなくていいですよ。ユニスさんが納得する物が出来上がるまで、何日でも待ちますから」
ユニスに「ガンベルト」の製作を依頼したら、今日の予定は終了だな。これ以降はフリーな時間だ。
ふむ。このまま素直に家に帰るのも勿体ないか。どれ、適当に町をぶらついてみるかな。
町の中を散策していると、ある事に気がつく。少し前までは、物を売っていたのは「露店商」が大多数だった。しかし今はしっかりとした店舗を構えて商売をする者が増えつつある。
原因は単純で、外からこの町を訪れる来訪者が劇的に増えたからに他ならない。
特に増えたのは冒険者だが、旅人……もとい観光客も増加傾向にある。
観光客の目当ては主に二つ。一つは、カルディオスの町で食せる珍しい食べ物だ。
まあ、その殆どが我が家で試作された料理だがね。
当たり前の話だが、我が家で試作された料理は、まず初めにこの町――カルディオスでお披露目される。
そしてそこでの評判を聞き、調整したり改良したりした後、王都のジャックにそのレシピを売る。そういう流れになっているのだ。
そこにはどうしたってタイムラグが発生してしまう。早くても一か月。遅ければ半年ほど時間が掛かる。
そこで一部の物好きが、我先にとその珍しい料理を食したいと、カルディオスに押しかけてくるのだ。
比較的裕福な人が中心だが、時折商人や貴族の方々もお見えになる。
更に、料理以外の目的で町を訪れる者もいる。それは貴族のご婦人方だ。どうやら最近、彼女達の間で「ブラジャー」と「ショーツ」が話題沸騰中なのだとか。それらを求めて、本人或いは代理人がこぞってカルディオスを訪れているそう。
この話は、実際にブラジャー等を作っているユニスから聞いたのだ。間違いはあるまい。
そんな訳で、急遽人の往来が増えた結果、露店ではキャパシティが足りなくなってしまったのだ。
そこで我らが領主様とギルドが協力して、急ぎ店舗の設営に乗り出した。俺も資金提供をして協力させてもらったよ。
そうして何とか最低限は来訪客を迎える体勢を整えたのだった。
店舗は今も建設中で、数か月もすれば立派な観光都市として栄える筈だよ。その時が楽しみだ。




