次に向かうべき場所は何処だ?
翌日。今日もリコリスは中庭で鍛錬に精を出している。何故かその鍛錬に加わる人数が増えているのだが……主にヴェロニカとか椿とかね。まあ、それは良いのだ。それとは逆に、俺とソニアはその鍛錬に不参加となっている。ここからの鍛錬には俺とソニアは必要ないからな。
手の空いた俺とソニアだが、今は別件で王都にやって来ている。先ずはジャックに会いに行こうか。
「これはレオン殿ではありませんか。今日は何の御用でしょうか?」
ジャックの店に着き、店番の人間にジャックに会いに来たと告げる。それから少しして店の奥からジャックが現れた。相変わらず、胡散臭い笑みを浮かべているな。
「ええ。本日お伺いしたのは、ジャックさんにお尋ねしたい事がありまして」
「はて? 何でしょうか。私でお答えできる事なら良いのですが……」
「昨今話題になっている、「魔石」を買い占めている者について、です」
俺のこの言葉に、ジャックの眉毛が僅かにピクリと動いた。この反応、何か知っているな?
「……勿論、存じていますとも。何せ王宮からもこの件を調べて欲しいとの依頼を受けましたのでね」
そう口にしたジャックは、胡散臭い笑みを引っ込め、一転して真剣な顔つきに変化した。
「私共も八方手を尽くしていますが、買い占められた魔石の行方は依然として不明な状況ですよ」
ジャック程の商人でも、行方が掴めないのか?
「何か手掛かりみたいな物は?」
「私共が唯一入手出来た情報は、魔石を買い占めた人間が、「東」へと向かった……という事だけですよ」
「東と言うと……ハイデス帝国ですか?」
「いいえ。帝国よりも、更に東です」
更に東? ファムグリア王国か? いや、ジャックのあの言い方……そんな単純な話では無いな。ならば、
「リュウ国……いや、もっと詳しく言うと『天都』か?」
「……恐らく。私共も、リュウ国に入る所までは追えたのですが、そこで見失ってしまったのです。ですが、あの近辺で「物」が集まる場所と言えば……一つしかありません」
これは……キナ臭くなってきたぞ?
「ジャックさん程の商人でも、「十天商」相手は分が悪いですかね?」
「良くご存じで。悔しい話ですが、あの町では既に商売をする為の「枠」が、もう無いのですよ。地元の商人なら未だしも、よそ者では特に……」
そう語るジャックの悔しそうな表情。それだけで全てを察せてしまうよ。
「過去には、他国の密偵と間違われて拘束された事もありました。その所為でより慎重に行動せざるを得ないのです」
それは、何とも閉鎖的な事で。
「他国では、これくらいが普通ですよ。この国が優し過ぎるのです」
俺の表情から、こちらの考えていることが伝わってしまったか。僅かに眉を顰めた程度だったのだが……ポーカーフェイスを徹底せねばな。
それはそれとして、確かにジャックの言う通りだな。この国に居ると忘れそうになってしまうよ。人間の「欲深さ」という物をね。それともう一つ、「商人の敵は商人である」。元の世界でも言われていた事だよ。
その後も、大小様々な情報を交換し、ジャックの店を後にする。そして、今日最後の用事となる「王城」へと向かったのだった。
城の門番に、ガルド王に会いたいと伝えると、ノータイムで会議室へと通された。
いや、まあ……何度も通っているので顔なじみになっているのもあるし、この国のお姫様である、アリスの婚約者でもあるからな。顔パスで通されるのは理解出来る……が、もう少しセキュリティに気を配っても良いんじゃないかなぁなんて、思ったり思わなかったり。一応、王城ですしね。
まあそれに関しては、俺がどうのこうの口出しする事では無いか。今はそれよりもガルド王に相談する事が優先だ。
それから少しして、ガルド王が会議室へとやって来た。ふむ、賢者殿の姿は見えないな。今日は一人みたいだ。
「それで、今日は一体何の用だ?」
「はい。実は北に聳える「ノーザンブレード山脈」を越えた先に、「プレイナール」という町がありまして、そこの領主と面識を得る機会がありまして」
「はあ……何処に行っても、お前さんは変わらねぇな。それで? ただ知り合ったってだけじゃねぇんだろ?」
「はい。プレイナールの領主と、ちょっとした「約束」をしたのです。それは北方で行われている戦争が終わり、情勢が落ち着いたら、南北の交易ルートを再開させる為の依頼を受ける……そんな約束を」
そう。あの時は、何年も先の話かと思っていたが、俺の予想に反して、戦争が終結すると周辺国の情勢が一気に落ち着いた。
その原因は、戦争後のクライン王国が比較的落ち着いていた事。周辺国への賠償や停戦交渉がスムーズに締結されたからだ。
その辺りを担当したのは、カルサス伯爵――ルセリアの御母堂だな。彼女が頑張ったお陰だろう。
「成程ね……話は分かったが、それが何だってんだ?」
「当然ですが、この話は国家規模の協力が不可欠です。そこで……」
「俺にその計画の発起人になれと?」
「それが理想なのですが、あの山に一番近いのはサンテキア王国です。彼の国が中心になって進めるのが宜しいかと思いまして。ガルド陛下には、サンテキア国王にその旨をお伝え頂けたらと」
「あ~……確かに。あの交易路が復活したら、一番の恩恵を受けるのはあの国だしな。そんで、俺達も支援しろって事だろ?」
「それは当然でしょう? あの交易路で恩恵を得られるのは、この国も同じですからね」
「ちっ、わ~ってるよ。そんで? それはいつ頃始まるんだ?」
「詳細はこれから詰める事になります。明日にでもプレイナールに向かおうと思っていますが、そこでの話し合い次第ですね」
今回の訪問は、言ってしまえば事前の「根回し」だ。こういった気遣いを欠かさない事が、後々の交渉を有利に運ぶのだよ。
とは言え、この件は早々に解決しなければならない問題だ。
『魔導を極めし侵略者』。連中の暗躍する地域が広域化している事で、早急に世界各国の協力を取り付ける必要が出てきたからだな。しかも条件付きでね。
その条件とは、「連中の息が掛かっていない国」という条件だ。これの見極めも大変だぞ。ミザーマやシムートくらい露骨だと助かるのだが……まあ、そう簡単にはいかんよな。
今日の所はこれで終わりだ。いやぁ、今日の話し合いは実にスムーズに終わったな。なんでやろなぁ……。




