リコリス
「……という訳なのです。ご理解頂けましたでしょうか?」
「そうでありますなぁ……何と言えば良いのか、迷ってしまうであります」
一通りの話を聞いたリコリスの感想がコレだ。そうだよな、それが正しい反応だよな。我ながら荒唐無稽な話をしているなと思うよ。
「小官の力が必要だ、という事は分かりましたが……果たして小官の力が役に立つのか、正直不安であります」
「ふむ。私としてはそう思いませんが……」
「そちらの世界では「魔法」なるモノそうですが、小官は一切使えないでありますので」
成程。魔法が無い世界だったのか。だが、それなら問題無い筈だ。
「そちらの懸念については……おい、貴様が直接出て来て説明して差し上げろ……『神』よ」
「はいは~い。や~っとボクの出番だね! 任せてよ」
俺の言葉に反応したのか、目の前に光り輝く謎の球体が出現した。こういう時だけは本当に反応が早いな。
「この球体が、噂の『神様』でありますか……」
「そうだよん。それで、魔法に関しては問題ないよ。こっちに来る時に良い感じに「調整」してあげるからね」
これに関しては、先例……というか俺自身が体験した事だしな。
まあ、俺の場合は体全体を作り変えられた訳だが……それに比べたら、魔法を使える体質にするくらい造作も無いだろうよ。
「はぁ……詳しい原理は良く分からなかったですが、何も問題が無い。という事だけは理解したであります」
そうだな。そのくらいの理解度で十分だよ。超絶不思議パワーでどうにかする……とでも思っておけばさ。
「それならば、小官でもお役に立てそうでありますな。では、そちらの世界でお世話になりたいと思うであります」
随分とあっさり承諾したな。まあ、俺としては楽でありがたい展開だ。
「それに、このお誘いを断って元の場所に戻っても、小官に未来は無いでありますから……」
そう語るリコリスの表情に影が差す。ふむ、何があったのだ?
「それは……一体どういう事でしょうか?」
「小官は、ここに来る直前に、敵司令官が居る前線基地へ単独潜入していたであります。主な任務は、敵司令官の殺害と戦闘基地の破壊でありますしたが……敵司令官に作戦を看破され、任務に失敗し逃亡している最中でありました」
それはそれは……随分と危険な任務だことで。
仮に、彼女の能力が他の者に比べ格段に優秀だとしても、単独潜入なんて作戦は普通ならばまずあり得ん。つまり、普通ではない状況という事だろう。
「もしや、その「地球連合軍」の置かれている状況は……」
「……お察しの通り、我が軍が降伏するのも、時間の問題でありましょう」
やはりか……つまり、彼女の潜入任務とは、乾坤一擲・一発逆転を狙った捨て身の特効――分の悪い博打だという事。そしてその重責を、若い彼女に押し付けるしか出来ない上層部。
……嫌になるな、改めて実感するよ。何処の世界も考える事は同じ……良い事も、悪い事もな。
「それでは、私達の提案を受けて頂けるので?」
「……小官が、どれだけ力になれるかは分かりませんが……そちらの世界で、お世話になろうと思うであります」
ふう……何とか最良の結果になったな。
「うむ。今日から俺達は夫婦となる。歓迎するよ、リコリス」
「イエ~ス! ワタシも家族が増えて嬉しいデスね!」
「えっ? ろ、ローズ殿⁉」
俺が動くよりも先に、ローズがリコリスに近付き、熱烈なハグをしたのだった。あっ、先を越された!
ローズに先を越されはしたが……俺は改めてリコリスの体を優しく抱きしめ、その唇を奪った。
「今日この時より、俺達は夫婦となった。共に幸せになろう」
「了解であります。『夫殿』!」
そう言いながら、彼女は背筋をピンと伸ばし綺麗な敬礼をするのであった。
「では、そろそろ家に戻ろうか」
ここでやる事はもう終わった。家で待っている妻達にリコリスを紹介しなければな。
「う~ん……おかしいでありますなぁ……」
とそこで、リコリスが首を傾げ唸っている姿を目撃したのだった。
「どうかしたのか?」
「いえ、小官が潜入任務の為に用意した装備が見当たらないので、何処にいったのかと探していたのでありますが……」
「その装備とはどんな物だい?」
「小口径の「SMG」と、基地を破壊する為の「高性能陽電子爆弾」等がありましたな」
何やら不穏な名称が聞こえた気もするが……まあいい。
「その辺りはどうなんだ?」
俺は未だそこらに浮遊している「光る球体」に向かって質問を投げかけた。
「どれだけボクが心の広い神様でもさ、それらの持ち込みを許可する事は出来ないかな~。オーバーテクノロジー過ぎるからね」
「まあ正論だな。だが、SMG程度の銃なら問題無いのでは?」
爆弾はともかく、自動小銃なら大丈夫だろうと思うのだがな。
「ああダメダメ。彼女の持ってたヤツはさ、10センチの鉄板もらくらく貫通する性能だからね」
「それは……本当にSMGなのか?」
「? そのくらいの威力が無ければ、敵を倒せないでありますから。SMGと言えど、最低限の火力は備えているであります」
ああ……そうだよな。俺の「常識」で物事を考えては駄目だったな。反省せねばいかんな。
「そのぉ……もしかしてでありますが、これから行く世界での「銃火器」の扱いは……」
「それは……ローズ、済まないが君の愛銃を見せてやってくれないか?」
「いいデスよ。さあ、思う存分見て下さい」
そう言って腰のガンベルトから愛銃を取り出すローズ。それをリコリスに手渡す。
「これは、随分とクラシックな銃でありますな。リボルバー式とは……」
「まあ、実際はリボルバーに似せて作った「魔導銃」なのだがね。正直な話、この銃でもギリギリのラインではあるのだ。これ以上の性能――例えば「アサルトライフル」や「マシンガン」等の発明は、世界を滅ぼしてしまう可能性があるからな」
前にも語ったが、大量殺戮兵器の開発など御免被るよ。
「成程。そういう事情なら仕方ありませんが、小官は軍で近接戦闘の訓練も受けていたでありますので、銃が無くても戦えるであります」
「それは重畳。ならば大型のナイフがあればイケるかな?」
「はい。それで大丈夫であります」
リコリスの武器については、ルピナと相談しながら決めようか。では今度こそ……。
「あっ、一つ言い忘れてた事があったよ」
この言葉を聞き、思わずコケそうになってしまったよ。おい、神よ。お前は話の腰を折る事しか出来んのか? 神のくせに。
「そんな言い方は酷すぎない? まあいいや。それでね、彼女が着ている「スーツ」なんだけど、それも調整させてもらってるからね?」
「うん? スーツだと? リコリス、そのスーツにはどんな機能があるんだ?」
「このスーツは、地球連合軍が開発した「ハイテクノロジースーツ」であります。宇宙空間での活動を可能とし、防刃・防弾性に優れ、各種ステルス機能も搭載されているであります」
予想よりも遥かにトンデモ性能だったよ。確かにこれは駄目だ。こんな物をあの世界に持ち込むのはリスクでしかない。
「各種ステルス……それはもしかして「光学迷彩」とかか?」
「はい。「光学迷彩」や、サーマルセンサーを抜ける為の「体温調節機能」などもあります」
見た目はただの「ぴっちりスーツ」だと思ったが、とんでもないオーバーテクノロジーの塊だったか。
「ボクが調整した理由、分かったでしょ?」
「ああ。これは厳しいと言わざるを得ないな」
特に危険なのは「光学迷彩」だ。原理自体は至極単純で、光の屈折や反射を利用して透明化しているのだ。もしも、この原理が完璧に解明され、魔法で再現出来るようになってしまえば、世の中は「大暗殺時代」に突入だ。想像すらしたくないよ。
「そうだね。だからそのスーツだけどさ、「そこそこ丈夫な服」程度になってるよ」
「防具として十分な性能は残っているのだ。その辺りが落とし所か」
やれやれ。神の奴に呼び止められた時は思わずイラっとしたものだがな。しっかりと説明を受けて良かったよ。
「今度こそ、何もないな?」
「うん。ボクからはもう何もないよ」
「よし、では改めて……家に戻るとしようか」
「イエ~ス!」
「楽しみでありますな」
「ガーベラ、頼むよ」
『了解しました。転送を開始します。』




