ケルン城砦都市へ
深夜投稿も悪くないですね。
デブル公爵領の問題を解決した後の旅路は非常に順調だった。
そのまま各村を回りながらケルン城砦都市まで辿り着く間に奴隷解放と差別問題については騒動は起こっていない。聖教会の司祭が数名いたりして争う姿勢を見せたが、慶司からすれば何でもない相手である。
そのまま教会から叩き出して兵士へと引渡し、反乱計画に関する聴取がされることになり、取調べが終われば国外追放処分がなされる事になった。
そしてケルンへ到着したのだが、奴隷をつれて逃げようとする者が大量に捕まって大変な騒ぎになっていた。
開放された奴隷は保護施設に収容され保護を受け、逃げ出そうとする者は国境を無断で越えようとした者には厳罰をもって対処されたし、都市を抜けようとした者も隠していた者などは財産を没収され国外追放となった。
そんな喧騒の中に慶司達が到着したのである。
国軍の駐留地ではあったので聖教会は存在しないのだが、これからの聖竜教については打ち合わせが必要で、東部の最大都市でもあるためミレーヌとセリーヌは長時間滞在の必要があった。
慶司としては本来は砦と城壁の進捗状況を知って新たな計画の方の実行に移したかったのだが、この混乱状況は予想外だった。
既に千人を超える元奴隷が保護されていて、一つの村が出来る規模にまで膨れ上がっている。
希望者には軍での雇用もされるが女性や子供、老人などもいるのだ。
慶司はラドリックの元を訪れて相談する事にした。
「ようこそ慶司殿」
「なんだか大変そうですね」
「ええ、お知らせ頂いてから2日後には、森を越えようとしたり山を越えようとしたりする者が捕まりだしまして、この騒ぎですよ…」
「それで保護した人達ですが」
「そうなんです、殆どが獣人や獣人とのハーフなんですけどね女性や子供、老人までいます。流石に子供なんかは軍としては雇えませんからね、今は保護施設ですがなんとかしないといけませんね」
「例の新しい貿易街道の整備の案件を先にすませてしまおうかと思って」
「もしかして、開放された人達をその事業にあてるのですか」
「ええ、村を作れるだけの人数が既に居ますからね、軍に全てを収容しなくても済むようにちょっと手配してきますよ」
「それが出来れば助かりますね」
「問題は当面の食料や住居ですが」
「食料に関しては此方でも手配しておきますので御安心下さい」
「それじゃちょっと王都と連絡をとってくるんで又来ますね、この上って上がれましたっけ」
「ええ見張り所として使えるようになってますが」
「じゃあちょっとそこから行って来ます」
「えっ」
「では帰ったらまた来ますので」
「はい、お気をつけて」
「司令官、上からどうやっていくんですか」
「俺が知るわけないよ」
「ですよね」
「だろ」
「あれですかね、【竜の騎士】だけに竜が迎えに来たりしてるんですかね」
「あの人ならありえそうだな、俺もまだ竜を近くで見たことが無いんだが」
「これは見に行かないとだめですね」
「そうだな」
二人は即位式典に出れなかったのでせめて竜の姿を見ようと思って追いかけたのだ。
「ハァハァ、っておい、誰もいないぞ」
「あれ、おかしいな、確かに上に行ったってさっきの兵士も言ってましたよ」
「ちょっとまて、鎧を着けたままで走ったから苦しい」
「お、俺もですよ」
「でも良く考えろ、こんなとこに竜が来てたら大騒ぎになってるよな」
「そう言われてみると騒ぎが起こってないなら、来てないってことですか…」
「走って損した」
「じゃあどうやって慶司殿は消えたんですか」
「わからん」
「あの竜の加護のマントで腕が4本になると聞きましたから、翼でも生えて飛んでいったのかもしれませんね」
「ハッハッハ、そりゃ幾らなんでも、ありえそうだな、おい」
「でしょ、凄いですよね」
「だが、竜ほどじゃなくても飛んでったら騒ぎになるぞ」
「そこはこう、見えないほどの速度だったんじゃ」
二人は議論を重ねたが結局慶司は多分凄い、という結論しか出なかった。
慶司は一路王都へ飛んで竜族専用の入り口から入るとシャーリィの元へ謁見をお願いした。
「慶司様、謁見の申し出など必要ございませんのに」
「いや流石に女王なんだから、必要だと思うんだけど」
「構いませんわ、そんな堅苦しい身分というなら慶司様の方が竜族の方々とお付き合いされているのですから、こちらからもっと丁寧に遇さなければならなくなりますわよ」
「例えば」
「そうですわね、謁見の度に貴族を全員招集をかけて式典を開いたりですわ」
「わかった、降参だよ、入室の確認だけ取るようにするよ」
「フフフ、流石の慶司様にも弱点がありましたわね」
「ところで如何されました、たしか今頃はケルン辺りだろうと思っていたのですが」
「そう、ケルンに居たんだけど、予想以上に奴隷を国外に連れ出そうとする商人が捕まったりしてて、女性や子供もいるから軍だけで面倒を見きれない状態になると思うんだ。それでこの先計画していた貿易新航路の町作りを前倒ししようかと思って」
「あの計画が本当に可能ならば是非実現はさせたいですが…竜族の承認は貰ってあるけど実際半分はブルトンの土地になるからね」
「私達ブルトンの土地と言ってもいわば人も住めない山と海だけの場所ですよ」
「そこはほら、開拓するから、ちょうどそれぐらいの数の人数が保護されてるんだよ」
「シャーリィ様、ここは慶司様へ委ねてしまえばよろしいのですわ、全てをですが」
「なるほど、では慶司様、一つお願いが御座います」
「なんでしょう、ミランダさんの口添えが気になりますが」
「常時居ていただかなくて結構ですからその町の管理権限を慶司様にお願いしたいと思います」
「領主とかには…」
「ええ、解っておりますわ、ですから待ちの管理権限を白銀の翼としてお持ち下さい」
「それって誰か信用できる人をそちらに派遣しておけば良いってことかな」
「はい、それはお任せいたします、何しろ人手が足りませんので新しい街に回す人材がいないのです」
「解りました、では国に納める税を軽くして頂けるならお引き受けしましょう」
「そうですわね、今の港に課してる税をそちらからは頂かない、5年間は住民からの税も必要ありません、これで如何でしょう」
「それだけの期間は必要ないかも知れませんが、5年待っていただけるのなら今回の開放に伴う人々を受け入れられるだけの地盤を作れるでしょう」
「さすが話が早いですわ、是非宜しくお願いいたします、必要な人材がいれば此方からお送りしますので」
「宜しくお願いしますね」
「私の配下から前回希望していた者がまだおりますのでそちらへ回る気があるか確認しておきます」
「ミランダさんの配下だったら歓迎しますよ」
「それと慶司様、王都で不審な動きをするものがおりました、フルトリア方面へ逃れた者もいましたので、そちらの手の物かと思いますが」
「例の黒狼ではなくて」
「ええ、黒狼ではありませんね、人族でしたから」
「白狼騎士団って人じゃなかったっけ、たしか詮議で黒狼との繋がりが出たとか聞いたんだけど」
「黒狼の隠れ蓑として運営されていましたが黒狼はあくまで獣人かハーフのみで構成されておりますから」
「なるほど、じゃあ聖教会関係かもしれないね」
「ええ、ですから慶司様もお気をつけ下さいませ」
「有難う、最近みんな心配してくれなくって」
「フフフ、エル様以外はですね」
「うんそうだね」
「でも仕方ありませんわ、慶司様ほどの人を誰も知りませんから」
「だから少し新鮮な気分でした、それじゃまた来ます」
「では慶司様宜しくお願いいたします」
そして慶司は次にノルンに頼んで【幻日環回廊】を使ってドレッセンのエリスの元へと向かった。
「お兄様ではないですか、どうしたのですか、拳《語り合い》ですか」
「いや拳《語り合い》じゃないよ、一応マリシェルさんには話しが通ってると思うんだけど、新しい交易航路を作るんだけどそれの片側を作って欲しくてさ」
「あの街道を広げる計画と、もう一つ西洋海上航路を作るって言ってる奴ですね、ウチに協力できることなら何でもしますよ」
「それじゃあ大森林地帯の一番西北の土地から海に向かったところに少し山の低いところがあるから、そこを開拓する為に山人と竜族の手を借りれるかな」
「ウチに任せてくれたら、ちょちょいのちょいですよ」
「それじゃ場所を説明するから付いて来てもらっていいかな」
「え、お兄様も飛ぶんですか、ウチの背にのったほうが早くないですか」
「そうそう竜の背に乗らせて貰う訳にはいかないからね、そこそこの速度で飛べるよ」
「ウチこれでも早いですよ」
「よし、じゃあ拳じゃなくて飛んで勝負しよう」
「ウフフ、ウチ本気で行きますからね」
(駄目~、無理~、お兄様~待って~)
エルを乗せてない慶司の速度は速すぎたようである。
同じ推進力のロケットで質量の大きな物ならそれだけ遅くなる。
普段の慶司がそれなりの速度なのはエルが乗っかっていたからなのだ。
(ウチもその姿で飛べるようにしたら早く飛べるのかな…)
「多分可能だけど、そんな格好になれるの」
(どうかな、やったことはないから今度特訓しておくよ)
「それでここのほら少しだけ山が低いでしょ」
(ここの先のところに港を作るのですね)
「うん、切り出した石を使って港にして欲しいんだ」
(大丈夫山人は街づくりも得意だから)
「じゃあ宜しく、ここから船で三日ぐらいのところに反対側の港を作るから」
(ウチからヒルデ姉さまのところには話しをして協力してもらいますね)
「頼めるかな、よろしく伝えておいて」
(はい解りました)
こうして竜族の支配地側での港建造の手配を終えた慶司はケルン城砦へと向かった。
勿論戻りには【色即是空】を使い見張り所から帰還した。
「ただいま、許可も貰ってきたから早速始めよう」
「お帰りなさい、いや、さすが【竜の騎士】ですね。」
「なにその称号」
「兵士達が呼んでる慶司殿の二つ名ですよ、竜族の加護を受けた騎士とそう尊敬を込めてます」
「他にも竜王格闘杯の【不可侵領域】とか【格闘王】とか呼ばれてますよ」
「不可侵領域と呼ばれるのは慣れてきたけど、またついたのか…」
「さっきも屋上から居なくなるのがあまりにも素早かったので恐らく飛ばれていったのだろうなどと話してたんですよ」
「ああ、そうですね、ちょっと急ぎだったのでこのマントの加護を使ったんです」
「やはりそうでしたか、さすが【竜の騎士】ですよ」
「それで、もう王都で許可を取られたと言う事は」
「ええ、一応この地より南へ6日から8日程の地点の山を一部通行できるようにして海岸に港を建設します。そこの責任者を引き受けました」
「これで問題が少し片付きますな、日がたつに連れて奴隷をつれて抜け出そうとしたりする連中も減ってますから恐らくは徐々に終息するでしょう」
「ならこのまま俺は保護施設へ言って代表者達と話をします。出立できるように食料や衣類、設営資材の手配をお願いします」
「請け賜ります」
「では」
慶司は急ぎ足で城砦を出て保護施設へと向かった。
保護施設は奴隷商人や追放になった者などが取り返しに来れない様にする為、兵士達によって守られている。
そこで口論になってる兵士と女性がが居たので近づいてみた。
「だから、アタシがこの人達の面倒を見るって言ってるんだ」
「ならん、ここには開放されたと言えど元奴隷だった人達だけが保護されているのだ、なんの証明の無い者を近づかせる訳には行かぬ」
「ハッ、国《人族》が獣人やハーフを保護だって、どうせ戦争の為の兵士にするか何処かで労働でもさせるか、新大陸でも連れてって魔獣の餌にされるのが関の山だ」
「貴様、わが女王の宣言を愚弄するかっ」
「いいかい、ハーフや獣人はこの国でも悲惨な目に遭い続けたはずだ、それを信じろだって? 在り得ない救いを信じて同属を見殺しにするわけにゃいかないんだよ」
これ以上熱くなると取り押さえるだけでは済まなくなりそうだな。
「はい、そこまでね」
「これは【竜の騎士】様」
「その二つ名で普通に呼びかけないで、恥ずかしいから」
「失礼しました」
「なんだいアンタ、邪魔するってんなら」
「そうだね、邪魔というより貴方はこの人達を保護すると言ったけど、如何するつもりか聞きたい」
「保護は保護だよ、アタシ達の村へ連れてって暮らしてもらう」
「それは何処にあるの」
「それは秘密だ」
「そして戦わせたりするんじゃないか、そう疑われても仕方ないよね」
「う、それはソッチも同じだろうがっ」
「確かに、政策として開放された奴隷の人々の暮らしが成り立たない事がないようにと一部は軍への所属を望む人へその道もある事は伝えている。けども自由意志によるものだ」
「ハッ、やっぱり戦いの道具にするつもりじゃねえか」
「いや、最後まで話を聞いて欲しいな、此処に居る人達には新しい街と作ってもらう事になっている。そこで自分達の意思の元働いてもらうし、他の地域で開放された人も働けるだけの都市をこれから作るんだ。これはブルトンの女王から護衛の褒美として任される事になった俺自身に賭けて誓おう」
「アンタ名前は…」
「渡良瀬慶司だ」
「渡良瀬慶司…たしか竜王格闘杯の王者だな、護衛の褒美ってのはなんだ」
「街を作る際に本来なら領土としての開拓だ、当然普通なら領主が置かれるけどね、これからこの国は変わる、そこで領主は必要ないけど急激な変化は国の根幹を揺るがすから名目上の管理者がいるわけなんだ。そこで俺に任命をして奴隷だった人々が安心して暮らせる都市作りを進めるってことなんだが」
「わかった、渡良瀬慶司だな、アタシの村の長にも伝えておこう」
「理解してくれて助かるよ、もし気になるなら、ここから南へ行ったところに作る都市になるから見にきてくれと伝えてほしい、協力してくれるなら歓迎だ」
「ああ、わかった、すまなかったな騒いで」
女性は頭を下げて兵士に謝罪すると、そのまま城砦都市の方へと帰っていった。
その様子を見ていたのか一人の男性が保護施設からやって来た。
「あの先程のお話ですが、私たちが都市を作るというのは本当ですか」
「ああ、ここから10日ほど南へ進めば山があって海がある、そこを開拓する事になる」
「山を開拓ですか…とにかく私たちの住処が出来るんですね」
「ええ、多少時間は掛かりますが機能するまでは私の責任で食料の手配を行いますし住居の資材も用意してあります。できれば皆さんにお話をしたいのですが」
「わかりました、皆を集めてきますっ」
男は急ぎ足で施設へと走っていった、開放されて日が浅いために足には逃亡防止のために嵌められていた足枷の跡が残っていた。
「先程の話なので聞いた人も居ると思いますが、これから貴方たちは自由です、奉公先を探す事も可能ですし兵士として募集も掛かっています、ですが私はもう一つの提案をしにやってきました。」
保護施設の広場で千人を超える人を前に慶司は話し始めた。
「ブルトン女王シャーリィ陛下の国の改革によって自由になった貴方達に都市を築いてもらうという提案です。これは私だけの一存ではなくシャーリィ陛下からの指示でもあります。連れ去られたりした事で人を信じれない気持ちもあると思いますが自らの足で立つ為に賛同してくださる人が居る事を期待してます。場所はここから南へいった山の向こう、そこに港を建設し、自由に働き暮らせる土地を自分達で作り出すのです。この港の建設はいわば国家事業です、この港が完成すれば竜族の支配地で建設を進めている港との遣り取りでフルトリア王国からの圧力に負けない国を作ることが出来ます。聖教会の信仰国であるフルトリアとは今回の奴隷解放や差別撤廃、聖教会追放について決定的に国交が断絶すると考えていいでしょう。ですから皆さんの助けを借りて新たな港を作り奴隷の無い国がどれほど素晴らしく発展するかを見せ付けないといけないんです」
「俺は賛成だ、正直山を越えて海に港なんて信じられない話だけどよ、奴隷解放をしてくれたこの国に恩返しはしたい、兵隊になって守ろうかとも考えていたところだ」
「アタシも賛成するわ、兵隊にはなれないし、誰かのところで奉公するのは怖いもの」
「兄ちゃん俺達でも役にたつのかな」
「大丈夫だよ、子供達はまとめて一つの施設で預かって一緒に働いてもらうし面倒をみるさ。
無理を強いるつもりは無いです、一緒に来ていただいて自分は違う道を探すと思われればそちらを探していただけるように手をつくします、まずは明後日に出発の手はずが完了したら兵士の護衛付きで南へ向かって下さい、私は一足先に南へと向かって準備を進めますので」
口々に賛同の声も上がった、考え込む人も居たが一度は見に来てくれることを祈ろう。
「あと、ちょっと聞くと驚くような音がするかもしれませんけど、気にしないで下さいね」
「「「へ?」」」
一言だけ不安になるような事を告げて去っていく慶司、兵士が誰なんだと聞かれては反乱軍を倒した英雄だと告げて驚かせていた。
エル達の下に戻った慶司は至急進めなくてはいけなくなった事業の説明をして兵士や解放された人々と一緒に南へ向かって欲しいと告げ、自分は下準備で先に南へ向かう事を告げた。
「むう、八日、下手すれば十日も主様と離れるのか…」
「ちょっと派手にやってくるよ」
「仕方ないの、ちゃんと地面の確認はしてからやるのじゃぞ」
「なんだか良くわからないけど、行ってらっしゃいにゃ」
「では私たちも出来る事があるかもしれません、一緒にお邪魔致しますね」
「力仕事があるんだろアタシも手伝うぜ」
「私もお手伝いいたします」
「宜しく頼みます、ちょっと食料を持っていくからみんなの分を手配しておいてね」
「うむ主様も気をつけてな」
慶司は食料を十日分持つと一気に南へと向かった。
新たな都市を作る為に下準備をするためである。
この慶司の計画の詳細を誰も知らなかったのはある意味幸いだったかもしれない。




