愛情の証
「失礼致します」
「入ってよいぞ、お主は、確かミレーヌ司祭じゃったか」
「こんにちは、慶司様はいらっしゃいますでしょうか」
「主様は野暮用で出かけておるのじゃが、急ぎか」
「いえ、ならばまた機会を見てお伺いを…」
「主様はミランダに頼まれた件や、その関連以外でもバタバタとしておるからのう、話だけでも良ければ聞いて伝えておくぞ」
「そうですか、では次回の旅についてですがケルトへ行かれた後に、ブルトン王国の主要都市を巡って頂きたいので御座います。私とセリーヌが巡回をするので、名目としては護衛としてお願いしたいのです」
「ふむ、名目があるという事は裏の意味もあるのじゃな」
「はい、今回の改革は非常に素晴らしい物ですが、それ故に反対する者、裏で画策する者などが出てくる可能性が御座います。そこでどうしようかと話しておりましたら女王陛下の帰国の際にエル様達が都市の問題を解決しながら旅をされたとお聞きしまして、今回もそのお知恵をお借りできないものかと」
「ッフッフッフ、そうか、確かに妾達の活躍した事はあったがな、ットットット」
「慶司が居ないから踏ん反り返るときは気をつけるにゃ」
「うむ、それで妾達が巡るのか…学校の方だけが気がかりじゃが、よし慶司には妾から話しておく故、明日にでも返事は出来よう」
「では、宜しくお伝え下さいませ」
早速印籠を探しているエルを見れば行くのは決定しているようなものだ。
精霊との契約を終えて戻ってきた慶司が見たのは印籠を探すのに散らかった部屋である。
「この惨状は…」
「お帰りなさいにゃ」
「うぬぬ、お帰りなのじゃ、と、ところで主様、印籠はどこじゃ」
「もしかして、印籠を探してこの惨状になったの」
「うむ、ちと練習をしようかと思ったのじゃ」
「印籠なら俺が常に腰に下げてるようにしたじゃないか、役割分担の話になって」
「探した時間が無駄だったにゃ」
「それで、なんで印籠を突然探す事になったのさ、シルフィ経由で連絡くれれば良かったのに」
「ぐぬ、忘れておった」
「実はミレーヌ司祭がやって来たにゃ」
「それでケルンの方まで行った後に主要都市の巡回警護の名目でついて来て欲しいと頼まれたのじゃ」
「それで印籠か…でもまだその印籠、竜族の庇護地に成り立てで効果が無いんじゃないかな…」
「うにゃ、そう言われて見ればそうなのにゃ」
「ふぬぬ」
「でも、シンボルとしてはこれから竜族の庇護地になるんだと示せるね」
「そうじゃろ、それでの名目とやる事が違うのじゃ」
「実際は何がメインなの」
「改革が劇的じゃからな、それに反発する者や悪巧みを働く者も地方ならなお更出るであろ、恐らく聖竜教へと移行する元国教会が一番心配しているのは聖教会の残党などじゃろうな、その辺りの見回りじゃから、世直しの一つとなるじゃろうから、印籠を探しておったのじゃ」
「成程ね、うーんブルトンの主要都市一周ともなると時間が掛かるけど、主要な都市だけで八箇所だからなぁ、ブルトンの各都市が近いと言っても最低で6日間は掛かるから2ヶ月の旅か…学校に準備の為に戻るとしてもギリギリだね」
「まぁ全部の都市という訳でもないだろう、一度話しを聞いてやって欲しいのじゃ」
「そうだね、とりあえず明日聖竜教の教会にも行って見たかったから伺うことにするよ」
慶司は朝から準備をして、午前中に王宮から近い聖竜教の建物までやって来た。
現在改築中で聖教会のシンボルであった光をかたどった二重のリングは外されて変わりに竜の彫刻が置かれていた。
内部に関しては元々聖教会から国教会になるさいに質素を旨としていたらしく飾りもなにも無かったので大幅な改築は必要が無いのだが、それでも一部には装飾などがされている為、その撤去がされている最中であった。
取り替えられている扉の無い所を通り抜け、内部に入ると目的の人物が数名の司祭達と話し合っていた。
「失礼します、ミレーヌ司祭様」
「慶司様、これは態々申し訳御座いません、直に片付けますのでお待ちを」
「いえ、お構いなくそのままで。昨日妻に言付けを下さった件でお伺いしました」
「それで、如何でしょうか」
「まず都市を巡回されるとの事なのですが、主要都市だけでも八箇所はありますがこれを全部となると2ヶ月に及ぶ期間となります。これは全ての都市を回る計画なのでしょうか」
「いえ、王都周辺の都市に関しては元々私どもの教会があった地域でこちらはそのまま聖竜教の方で監視連絡が可能です。ですが地方都市になるとそうも参りません。ですので巡回予定としましては、ケルン、アリー、サクスン、モレト、ロンデ、ジャージとなります、私とセリーヌが担当するのはブルトンの東側で、ケルンアリー、サクスン、西側のモレト、ロンデ、ジャージは別の者が担当します。」
「それなら調査もかねて1ヵ月程ですか」
「それぐらいの予定をしております」
「解りました、1ヵ月位なら問題もありませんし、実際問題があるかも知れないので少しばかり滞在する予定だったので丁度事情もしれていいですからお引き受け致します」
「助かりますわ、実際聖竜教としての調査ですから既に騎士団は国へと移譲し無い形で数名の護衛がつくのみなのです、問題解決は特に東を重点においているので助かります」
「やはり東の方が聖教会の影響が大きいのですか」
「そうですね、西で唯一影響が多いきい都市はロンデ位です、御存知のとおりデブル元公爵領を初めとして東は国教会派の貴族も多く、フルトンに近い分勢力がまだあるのです」
「既に聖教会の関係者と信奉者には国外退去命令が出されていますよね」
「はい、聖教会自体には厳しく、完全退去と長年貴族の庇護かで黙認されていたといえど不法に滞在し布教していた事もあって財産の没収と追放です。信徒については聖教会を信奉するならば二週間の猶予をもって国外退去が命じられています。以後見付かった場合は財産の没収の上で国外追放となります」
かなり優しい部類の命令である。長年違法滞在と布教活動を続けていれば、最低でも牢に入れられて不思議は無いのだ。実際フルトリアなど竜族の支配地を除く各国において、認められない反国家的な活動をした宗教関係者は処刑されている。地続きの大陸だからできる追放や退去処罰である。
この優しいと思われる処置には理由があった。
宗教を信奉する人間は弾圧されればされるほど狂信的に地下へと潜り、より危険な思想を持つのが定番であるから慶司もこの方法に賛同したのである。
何しろ元の世界ではその手のテロも後を絶たないし、昔から人を騙し捌いてきた宗教が無くならないなど常識として勉強してきたのだ。
人を救う宗教が人を殺す、これを慶司は今回の戦いで実感した。
戦争とは所詮は力による主張の争いであり自分の信じる事を貫く為の最悪の手段でしかない。
だからこそ慶司は自分の力を戦いで使う事を悩んだのだ。
だが結果として戦争で使われた薬となると話は変わってくる。
あれは慶司が対処すべき問題である。
人を改造するような薬、以前戦った聖騎士の人体実験の様な魔術付与の痕跡、聖教会が関係していると疑いは持ってはいるのである。
もし慶司が聖教会の研究機関などを知っていれば即座に叩き潰しに向かっただろう。
「では三日後には出発しますので用意して置いて下さいね」
「はい、では三日後に」
出発までの三日間、なんとか色々とやりくりしながら時間を作ることに成功した慶司はエルと出かける日と作り出した。といっても午後も二時間は過ぎた頃からなのだが、それでも貴重な時間だった。
せっかく王都まで来ているのに慶司は観光の一つもしていないのだった。
それに待ちかねていた物が完成しているのだ。
「少し時間は少ないけど、久しぶりのデートだね」
「フフフ、別に少なくても時間を作ってくれた事が嬉しいのじゃ」
これが要るといった買い物の用事は無い。
三食付の王宮で滞在してるし、護衛費用も貰っている。
そうなると旅の用意といっても、全てをエル達三人に任せていたので終わっているのである。
そして王都といえど見物する物はそんなに無いので、久々に二人でゆっくり過ごすことが目的となる。
二人で公園にいって陽射しを浴びながらお菓子を食べて寝っ転がる。
木漏れ日をうけながらエルを膝枕していたら眠ってしまったようだ。
髪を梳かしながら用意していた指輪をエルに嵌めておく。
これでおきたら驚かせる算段である。
慶司は結婚指輪の無い世界でエルがこれをしていたらどんな反応を示すのだろうかと楽しみにしつつ、スヤスヤと寝息を立てて眠る妻を見つめて幸せに浸っていた。
「にゅ、寝てしまっていたのじゃ」
「おはよう」
「起してくれればよかろうに」
「寝顔をみるのが楽しくてね」
「ふぬぬ、いつも何故か主様の方が遅く寝て、早く起きるせいで我が寝顔を見ることが出来ぬ」
「意図してやってる訳じゃ無いんだけどな」
「本当にそうなのか」
「本当に」
「ぬ、これはなんじゃ、む、これはもしや例の結婚の証という指輪じゃな」
「うん、やっと出来てたから引き取ってきた、ほらお揃いになってるでしょ」
「うむ、これで妾と主様の絆を皆に告げるまでもなく知らしめることが出来るようになるのじゃな」
「広めないといけないけどね」
「フッフッフ、主様よ良いことを思いついたぞ」
「何を思いついたの」
「これを聖竜教の儀式として広めるのじゃ」
「ちょっ、あ、でもいいかも知れないね」
「じゃろ、この金剛石は高い故、もっとシンプルな物で構わぬことにすればよい」
「誕生石とかはこっちの世界にはないのかな」
「誕生石とはなんじゃ」
「月によって石の種類が決められていて、生まれた月の石の種類の事なんだけど」
「それはないのぉ」
「うーんそれじゃなにか石でいい手があれば良いんだけど」
「竜族は種族毎に石があるがな」
「そうなの」
「なんじゃ知らずに金剛石を選んだのか」
「知らなかった」
「アルザスの一族は金剛石、グラニエスは紅玉、ラピルは蒼玉、ドレッセンは黄玉といった具合じゃな、これは代表的な物で色によって分類しているから他の石でもいいのじゃがな。妾達竜族も光り輝く物は好きじゃからな、集める性質はあるのか歴代の竜族の収集品が宝物庫に眠ってるのじゃ」
カラスみたいな、とは思っても言わないが収集癖があるとは思わなかったし、色別だったとは。
「あれ聖地はないのかな」
「竜聖母としてじゃからな、マリシェル様もに色は定めていないだけじゃその代わり白金を多く持っているのじゃ」
「なんで白金なんだろう、硬貨の為に集めてた訳じゃないよね」
「まあ、マリシェル様の代からの話じゃから…それまでは色んな石を集めるのが普通だったらしいのじゃがな、他の竜族は色を合わせて石を集めるじゃろ、なのに竜聖母としては特定の色にこだわってはいけないからと言われていたらしくてな、ならば自らの白金竜と言われるのだから白金を集めれば文句ないわねと言われて集めだしたらしい」
「なるほどね」
「じゃから白金貨をみてみよ、竜族の物じゃぞ」
「これがどうしたの」
「その裏のレリーフ、マリシェル様の竜の姿を彫ってあるのじゃ、他の物は竜の紋章だけじゃ」
「これってもしかして」
「うむ、マリシェル様が白金は私の象徴ですっと言われて変更されたのじゃ」
これが秘話というものなのか、一般には知らされていない話は得てしてこんな物である。
だがこれでは竜族でも4種類で12月には足らない。そこで適当な色に対するイメージで純真な愛情、燃えるような愛情、包み込む愛情、深い海のような愛情として渡したい物を渡せばいいのでは無いかと考えた。
何故かデートで聖竜教へ赴く事になってしまったが、ミレーヌは快く出迎えてくれた。
そして二人の話を聞くと興奮して早速広めましょうと張り切りだした。
このようにして結婚指環が愛の証として広まっていくと同時に、恋人達が竜族の加護を授けあう儀式として広まった。この最初の指環を作ったとしてマーガレットの名が有名になっていくのだがそれはまた別の話である。




