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異世界見聞録―黒髪の青年と白銀の少女の物語―  作者: せおはやみ
トラブル・道連れ・世は情け
53/105

竜王格闘杯―本戦・第一回戦―

 早朝から会場へと慶司は赴いた、出番は最後だが他の選手の試合を観戦するためである。

 今日の組み合わせでは然程実力を見れるとも思わないが、確認作業は必要だと考えたのだ。

 そして、本戦が始まった。

 ここからは闘技場全てが戦闘範囲である、場外判定もなくなり時間無制限の戦いになる。

 さらに、慶司が作った声を増幅する拡声器(棒の先端に輪を作って風の魔法で声の振動を増幅する魔術道具なのでそれ程劇的に声が大きくはならない)を使った実況がされる点が予選との違いだ。



 第一試合


 フェデリコ対カレルの試合が始まる。

 ロゲリアの傭兵チェーザ傭兵団所属のフェデリコ、人族の男性でじっくりと攻める試合運びが特徴だ、組み技、投げ技を主体とした戦いを得意とする。

 対してカレルは赤竜の牙の副団長を務める虎紋族の戦士。ルージュが速度ならこちらは一撃必殺の構えである。

 掴まえる事が出来ればフェデリコ有利、一撃が入ればカレル有利といった流れになっている。


「さて、始まりました本戦、本戦はこの私、エレンが実況をさせて頂きます。第一回戦、ロゲリアからやって来た脅威の投げ技、泣く子も黙るチューザ傭兵団所属、フェデリコ選手。

 そして、大陸中に名を馳せる赤竜の牙、その副団長、一撃必殺、ここまでの対戦相手は全て一撃、その破壊力は天下無双かカレル選手の対決です」

「はじめっ」

「ふん、小僧掛かって来るがいい」

「オッサンこそ掴みにきてみな」

「二人とも互いに動かない、お互いの間合いを計っているのか、互いに見つめるのは次の手に対する返し技か、それとも付け入る隙を窺っているのか。カレル選手が中央、フェデリコ選手がじっくりと回りを動いてタイミングを窺っている、さて、どこから突然勝負が始まるのか…っと仕掛けたぁ」


 先に動いたのはフェデリコである、一撃を耐えて掴まえる為にタックルを仕掛けた。

 勢いは申し分なかったが、高さが中途半端だ。

 それならいっそガードを固めて突撃した方がマシだという胸元への飛び込み。

 突撃にあわせた右の蹴りが放たれ、正面からカウンターでフェデリコの顔面を捉える。

 怯んだところへ強烈な右のフックが顎を捉えてそのままフェデリコは沈んだ。

 明らかな実力の違いである。


「決まったぁぁあ、上段が顔面にはいってからの右フック、蹴りと打撃の2発で沈めてしまったぁ。カレル選手強い、2回戦進出決定ぃ」

「ハッ俺の今回の目標は優勝だぜ、こんなとこで負けるわけがねえ」

「おっと優勝宣言かぁ、団長もいるのにこれは大胆発言だ、っと言ってから気がついた謝っている、これはお茶目だ、さぁこの後のカレル選手の運命はわかりませんが次の試合に行きましょう」



 実力の差があるにしても、さすが赤竜の牙といった戦いである。

 ルージュの蹴りよりも重たい一撃は脅威だ。



 第二試合


 オービス・ヴァレンタイン対マイク・ド・ラクスンの試合である。

 二人とも人族である。オービスが傭兵で戦場格闘術ともいえるスタイル組、打つ、投げる、極めると多彩な技で攻める。

 マイクの方は聖教会第一聖騎士団所属で力任せの打撃で殴り倒すのが得意だ。


「さて、第二試合、エミリアでは知らぬ物無しオービス傭兵団、数多の戦場を駆ける傭兵団隊長オービス、豊富な経験で培った戦場仕込の戦闘様式はまさにパンクラチオンを彷彿とさせる、危なげない戦いで本戦まで進んできています。

 そして対するは奇しくも同国エミリアの聖教会第一聖騎士団所属マイク・ド・ラクスン、こちらはその巨体を軽々と動かしての打撃、まさに拳に触れれば吹き飛ばすといった荒々しい戦闘で本戦出場を決めています、さて同国同士の戦いはどちらが勝つのか」

「はじめっ」

「わが拳に砕けぬ物無し」

「……グッ」

「ガッハァッ……ヌォ」


 右からフックで入ってくるパンチに左手を絡ませつつあえて額で受け止めてオービスが組み付いていった。貰いどころが悪ければ、とも思うが左手で受ける位置まで調整してるオービスが一枚上手だ、ナックルガードや篭手も無しで額を殴ればダメージは殴ったマイクの方に来る。

 さらにオービスはあえて額で受ける事で相手の油断を誘っている。打撃のみの相手だと密着すれば3割力が出せるかどうかである。

 足をかけたオービスがマイクを地面に引きずりこんで後ろを取り裸締めが入った。

 本来の戦場だったらこれで終わりである。


「これはおーっと、一撃がきまったかと思ったが、一気にオービス選手の土俵に引き擦り込まれたマイク選手、後ろから首を極められてしまっている…、降参はしないのか…いやこれは出来ない、マイク選手気を失ってます、審判が止めに入った。

 老練な技術でオービス選手が2回戦突破、明日はカレル選手との対戦となります」


 オービスの戦い方は打撃で来る相手への見本のような戦いと言ってもいいだろう。

 来ると判った攻撃を威力を落として受け止めて無力化。

 さらに自分の得意な戦いに引き込んだ。

 こういう相手はやりにくい。


「どうだ慶司、中々面白い組み合わせだろう」

「グラディスさん、ええ、仕組まれた感じがするぐらいですよ」

「フフフ」

「ハハハ、やっぱり」

「まあそこは企業秘密だがな」

「なんじゃグラディス、暇なのか」

「ああ、話し相手に旦那を借りに来た」

「まあ良いじゃろ、一緒に見ていくが良い」


 まあ誰が居てもいいんだけど、大会主催者が居てもいいのかは疑問である。



 第三試合


 レオン対ヤーレン、レオンは守人であり野盗などとの戦闘経験があるのだろう、華麗なフットワークでこれまで敵を倒している。

 対してヤーレンも打撃専門で勝ち上がっているが巧みな動きなどは無く力任せの戦いである。


「さぁ今大会唯一の森人の本戦出場者、レオン、素晴らしいフットワークで敵の攻撃を受け付けません、大森林地帯の治安を守る守人としての強さとは一体、戦い方に注目が集まります。

 対するのはフルトリア王国からのフリア傭兵団所属、ヤーレン傭兵ならではのタフネス、攻撃を喰らっても倒れない、追い詰め倒すその姿勢は熊の如しどちらが勝つのでしょうか」

「はじめっ」

「俺は必ず一撃で勝つ」

「…フン」

 じわりと距離を詰めるヤーレンとスピードを活かして一気に回り込むレオン、明らかにレオンのスピードにヤーレンが追いついていない。明らかに間合いに入っているにも関わらず素早い動きで常に敵の側面から攻撃をしかけるレオン、たいして亀のようになりながら必死に攻撃を繰り出すヤーレン。


「これは、ヤーレン選手の攻撃が当たらない、一方的にレオン選手が攻撃を仕掛ける。完全に亀のように防御にてっするヤーレン選手。おっと完全に手が出ていない、審判が止めたぁ余りに一方的と判断したか、レオン選手の勝利です」


 手をだしても当たらず、体力を削られ続けてヤーレンの敗北が決定した。

 もう少し続けていれば足が内出血で立ち上がれなくなって負けていただろう。

 あの攻撃を繰り出す速度は大した者だと思う。


「ふむ、冒険者とするなら金3つはあっても悪くないぐらいだな」

「なかなか素早くて一撃の重さがないようにみせつつ、的確に同じ場所を狙ってましたからね」

「ちと差がありすぎたかな」

「本当は4人に搾れたんだけどな、運営上の問題だからしょうがないじゃないか」

「と言っても、見ごたえがありますよ」

「次は地方大会で8人を選んでからとかの方が良いかも知れませんね」

「フフフ、そこは7名で前回優勝者を入れるものだろう」

「ハハハ、辞退するかもしれませんよ」

「凄い宣伝効果があると思うがな、支援もできるし、実際誰かのお蔭で第一回から凄まじい儲けが出てるからなぁ、特別席のSSSからA級までは予約にしてたが完売したぞ」

「あの高いチケットはさすがに厳しいかもと思いましたが」

「それだけでも十分だからな、まあ最初に決めたとおりこの形式の物は4年に一度で、他の試合をするかなにか意見は出してくれるんだろ」

「これだけの施設を遊ばせる訳にいきませんからね

「おっと次の試合がはじまるぞ」


 次の試合は見ておかないと…

 特にジャック・ド・ビアンは危ない匂いがする。



 第四試合


 ディクソン対ジャック、ディクソンは虎紋族の身体能力を活かした戦いかたでスピードと打撃、ボクシングのスタイルに似ている。

 ジャック・ド・ビアンは神殿聖騎士団の聖騎士だが、戦い方に怖さがある。

 戦場で鍛え抜かれた刃のような一撃が怖い。簡単にいうと容赦がないのだ…


「4回戦を開始したいと思います、ディクソン選手は黒犬用兵団所属の護衛専門家とのことですが、鋭い拳の一撃で相手を沈めてきています。左右から繰り出される拳を捕らえることは出来るのか。強烈な破壊力で本戦出場を成し遂げています。

 そして今大会の美男子といっていいでしょう、だがその戦い方は戦場で鍛え抜かれた一撃必殺、多くの対戦者に容赦無い一撃を打ち込み本戦まで駒を進めて来ています、神殿聖騎士団所属の貴公子ジャック・ド・ビアン。

 強烈な拳かそれとも容赦の無い拳かどちらが先に進むのか試合開始です」

「はじめっ」

「おっと、いきなりの接近戦かっ、ディクソン選手が近づいてくるジャク選手を迎撃、鋭い拳を放つ、だが止まらない、両手でガードしたまま衝突、これはおーっとっ、ジャック選手なんと頭突き、ガードが空いたと思った瞬間相手の手を払いのけての頭突きから入っていった。これは堪らずディクソン選手が嫌がるがそのまま両手をきっちり掴んで離さないジャック選手」


 今度は捻りあげた手を引き込んでの顎への頭突きだ…

 これは腕を極められているディクソン選手たまらない、耐え切れずに倒れこむ。

 間髪を容れずジャックは腕を押さえこんで上に乗って殴りつけた。

 これ以上は抵抗できないとして即時に審判が攻撃を止めた。

 ディクソンはきを失っていてタップも出来なかったようだ。


「……おっと失礼、一方的でした、2回戦進出はジャック・ド・ビアン」


 なんだろう、暗い…ジャックの戦い方は一歩間違えば死人がでそうだ。

 竜族が止めなかったら殺してるんじゃないだろうかとも思えるぐらいだ。

 実況も声を失っていた。ジャックが相手になるならこちらも容赦はできそうにない。


「うむ、まるで殺人機械のような冷血な攻撃じゃな」

「あれは見てても面白くないね」

「あの人と戦うのは嫌ですね」

「なんだか呪われそうにゃ」



 ここで一旦昼の休憩である。

 淡々と試合が進み、予定よりも一試合よけいに終わっている。

 慶司は最後の試合だからのんびり食事の用意をしてる。

 運営側の用意した、というか慶司が選んだお弁当を食べた。どうせお腹が減るからと、さらにエルの買ってきてくれた焼き蕎麦と串焼きを食べてとおなかを膨らませる。

 魔法を使わなくても分析のために集中して試合を見ているからか自然と【八識無我】を使用していて燃費が悪かったのだ。


 そして休憩時間も終わり午後からの試合が始まる。


 第五試合

 ロバート対ブリトニー、この白竜騎士団団長、強い。これまでの戦いで一切本気を出していない。その上で気障なのだ…

 大体こういう気障な個性をもつ人物は微妙に弱いのが相場なのだが、圧倒的に強い。

 そしてジャック程の美貌でもないのだが、人気もある、戦い方も影響してるのだろう。

 観客にも愛想がいいから愛される2枚目だがなぜかこちらには無愛想で目を合わして来ない。

 まあ男に好かれる趣味も無いので構わないのだが…

 そしてブリトニー、キャサリンとたった二人本戦出場をした冒険者の女性である。犬狼族に似合う掴んで投げ極めるという力に頼らない流儀である。カミュと比べたら今はこの女性の方が上である。

 キャサリン程ではないがそれなりのスピードで組み付くために組めば勝機もあるかも知れないが…相手が悪いかなと思う。


「さて、午後の休憩を挟みまして、これから第五試合となります。爽やかな笑顔そして誰もがその名を知っている、白竜騎士団、その団長ロバートが登場します。赤竜の牙と双璧を成す歴史、そして伝統を背負っての参戦、なんと彼1人だけで参戦したという自信。それはこれまでの相手を全て場外へと放り出してきた事でも証明されている、まさに最強の団長です。

 対するのはこの大会本戦に二名しか居ない女性の一人ですが、ここまで全てを相手からの降参で勝ち抜いてきた強者、ブリトニー。犬狼族のスピードで相手に絡みつく速さは一級品。その関節技がまたもや冴える事になるのか。

 さあ、試合開始です」

「はじめっ」


 慶司も恐らく意識を集中して【八識無我】の状態でなければ捉えられなかったかもしれない。

 最初にブリトニーが組みに近づきつつ奇襲で飛びつき腕関節を狙ったように見えた。

 しかしロバートは自分から体を曲げ相手の体事態を押さえ込み腕を放し、さらに一瞬で後ろに回りこんで裸締めが決まった。

 ブリトニーは最初決まったと思っただろう。それが押し付けて力で腕を外された上に自分の背後から首に腕を完全にいれられているのだ、即座に負けを悟ったブリトニーは降参した。実際には腕を取りに来た瞬間に左足を払いのけているのである。

 さらにさすがというか、うん、女性の対戦相手に気遣う姿勢は高評価であった。

 自分ならどう返す、というか掴ませないと思うんだが、飛んでくる前に返すのが一番有効だろう。

 それか捻りをいれて押し込みながら手首を瞬間に返す…これが出来ないとあとは体の向きを即座に合わせるか、あとは同じように左腕でも使って片足を広げながら押しつぶすしか方法が思いつかない。

 そう考えればロバートは知ってて攻撃を受けたような印象さえある。


「申し訳ありません、何が起こったか判りませんが…ロバート選手が勝利しました」

「ほら、ちょっと貸しなさい、今のはまず、腕をブリトニーが決めに来た。それを利用したロバートが体を使って技を返して、その直後に裸締めで落せる体制までもっていった事でブリトニーが降参したのよ」

「おっと解説有難う御座います、一瞬にして勝負がまたもや決まってしまいました、さあ、このまま次の試合が開始されます」



「まだまだ、解説を任せるには早かったようね」

「うむ、まあ修行じゃなぁ」

「特訓させなきゃいけないわね、フフフフ」

「ならば主様に相手をさせようぞ、フフフフ」

「ほら、司会の子が青ざめるような会話は駄目だよ」

「「しかし、あれは気障じゃな」」

「あれ、二人もそう思うんだ」

「ん、ああ、あれは気持ち悪い」

「ちと己に自惚れ過ぎじゃな」


 なかなか厳しいが、概ね同意である。

 よし、この人とは全力で勝負せねば怒られるな、うん、心に刻んでおこう。




 第六試合

 マキシマム対チャーリー、このマルテア騎士団のマキシマム、非常に豪快な投げ技でくるし、技に入るまでの発動が早い、打撃もつかってくる、身体能力も犬狼族のハーフと高い要注意人物だ、対するチャーリーは打撃系で犬狼族のスピード勝負一撃は重そうだけど…普通の一撃ではマキシマムの防御は崩せないだろう。この戦いは実力差が酷いと思う。


「さあ、第六試合となります、先程は謎の解説者に御登場頂きましたが、はい謎の美人解説者です。この試合からは気を取り直して進行させて頂きます、マルテア騎士国からの参加、これだけでその戦闘能力は知られた物でしょう、マルテア騎士団のマキシマム選手、投げる、打つ、払うと非常に安定した格闘技能で此処まで勝利を収めております、なによりも投げの豪快差は本大会でも屈指の威力。さてこの投げに対抗できるのか、対するは冒険者のチャーリー選手、軽いフットワーク、速度で相手を翻弄して打撃を放つその姿は疾風の如し、掴むか打つかさてどちらが勝利を手にするのでしょうか」

「はじめっ」


 予想外にチャーリーが善戦する。

 素早い動きでマキシマムを翻弄しているが、ずっとその速度を維持していると目が慣れてくる。


「先程から中々のスピードをみせてマキシマム選手の攻撃をかわし続けるチャーリー選手。重い一撃は入っていませんがマキシマム選手の反撃が当たらない、しかし、徐々に詰め寄るマキシマム選手が圧力をかけているのか、チャーリー選手、手数が減ってきてます。おっとここで急激にマキシマム選手が動いて、おっとこれは肩にチャーリー選手を担いで、投げたー、勢い良く投げました。さらにそこへ止めとばかりに殴りかかったところですん止め、チャーリー選手、降参しました。物凄い豪快な投げ技、背中から落ちたチャーリー選手は息ができずに動けなかった。マキシマム選手、駒を進めました」


 軽々と投げるあの膂力といい、詰め寄った速度といい、一級品だ…

 普通に見たらロバートより強そうだが、どちらが勝つかな、ちょっと楽しみな組み合わせになった。


「こういう、試合がいいわね」

「うむ、技術対技術、そして力じゃな」


 隣の二人の評価もいいようである。

 確かに見ていて面白い試合だった。



 第七試合

 アンソニー対キャサリン、この組み合わせはなんとも言えない酷さである、アンソニーという冒険者が悪い訳ではないけど、ギリギリで勝ち抜いて来たところに、いきなりランクの違う対戦相手である。

 キャサリンはルージュよりも速度が上だ、小柄な分パワーが無いと言ってもルージュや他の虎紋族と比べた話である、さらに蹴りの速度もルージュを上回っている。正直対戦したくない人である。

 今日勝ったら対戦するしか無いんだけど。


「さて第七試合、冒険者のアンソニー選手、組んでからの近接戦を征して此処まで勝ち上がってきましたが、なかなか厳しい戦いを続けて着ました、そして対戦相手がこの方だ、赤竜の牙の団長キャサリン選手が登場だ、電光石火(ライトニングファング)と言われるその足技で男性冒険者を切って捨てています、女性冒険者の憧れの存在、副団長が勝ったからには負けられない戦いが此処にあります、さあどんな試合を見せてくれるのか楽しみです」


 それにしてもこの実況の子は煽るなぁ。

 ほら、目が真剣になちゃったよ…


「はじめっ」

「悪いが…決めさせてもらう、ッ」

「フッグゥ………」

「イッセェーーーン、一閃、なんだ今のは、開始位置からキャサリン選手が飛んだと思ったらアンソニー選手が吹っ飛んでいたー、しかも放ったのはどうやら上段の蹴り一撃のみかぁ、まさに電光石火(ライトニングファング)の足技だぁ」


 それだけじゃなくて足を踏みつけて注意をそちらに向けてからの側頭部への蹴りで意識を奪ってる、しかも全身のバネが凄いな…

 うーん今日勝っても明日この人と戦うのかぁ…

 しょうがない気合だ気合。


「ほう、良い蹴りじゃな」

「これは明日が楽しみだ」

「でも主様も不可侵領域(アンタッチャブル)をもつ男じゃからな、楽しみじゃ」


 ほら、ニヤニヤしてるしね…

 それとその二つ名は恥ずかしいから辞めて。



 第八試合


 さて出番が来た、何者かわからないが動きが素早いからな…気をつけよう。

 負けたら大変な目に遭いそうだ。


「「師匠、頑張って下さい」」

「主様何時もどおりじゃぞ」

「頑張ってにゃ」

「フフフ、楽しみにみてるわよ」


 よし、行こう。


「次が本日最終、そして一回戦の最終戦となります。無所属という変わり者、絞め技から近接攻撃と難なくこなす猫又族のハーフ、非常に変則的な動きをします、今大会唯一の猫又族の関係者ともいえるでしょう。さてその能力は如何なるものなのか。そしてこの地に新たな伝説を齎す男が登場した、白銀の翼隊長、そして不可侵領域を持つ男(アンタッチャブル)として既にこの大会で呼ばれていますケイジワタラセ、彼は新設される私立ファーレン冒険者学院の校長先生であり創立者です。実力は既に知っての通り二つ名を持つ男、どんな戦いが繰り広げられるのか楽しみです」


 うん、なかなかいい宣伝だけど、グラディスさんの仕業だろうな。

 負けられないじゃないか。変な戦いも出来ないし…

 これが背水の陣かっ、()るしかないなら()ってやる!


「はじめっ」

「フフフ、危険してもいいのだよ、立っているのも辛いだろう」

「え」

「誤魔化さなくても構わんさ、お昼を食べたのは確認している」


 何をコイツは言ってるのか判らないぞ。だけど何かお昼に仕込んだのか…


「良くわからないけど、何かしたのかな」

「そんな、効いてないだと…」

「手加減はしないでいくよ、その後は警邏行きだ」

「ハッ、念のために仕込んだに過ぎぬわ、セイァ」


 手加減は一切しない、手の内は明かしたくないけど、一撃で仕留める。

 右手になにか仕込んでるのかっ

 芸の細かい、暗器まで使うか…

 本来なら右手を滑らせるんだけど、左手で内側へそらして外から一撃入れる。

 喉に右手を添えて右足で膝裏を後ろから押してやる。

 そのまま後頭部を地面にぶつけて気を失わせる。


「おっと、いきなりの決着だぁ、攻撃を仕掛けたはずのノルマン選手が地面に倒れているぞぉ、まさに不可侵、慶司選手一瞬にしてノルマン選手後頭部を強かに地面へと打ちつけたぁ。これにより戦闘続行不能、勝者はケイジワタラセ、流石の一撃、まさに相手に触れることを許さない、不可侵領域を持つ男(アンタッチャブル)だっ」


 慶司は審判を呼びノルマンの右手を調べさせる事と発表はしないように、後の処理はグラディスさんに任せるようにとお願いした、審判は竜族なので事情も知っている為、対応は迅速に行われた。

 後日判明したのだが、黒狼からの派遣だったらしい。だが慶司が仲間を倒した相手であるとは知らずに行動したらしい。


「さぁ、第一試合の8試合が本日は行われました、竜王格闘杯(D・L・F・C)に相応しい戦いが繰り広げられましたが、明日からはさらに激しい戦いが予想されます。明日も実況は私エレンが担当させて頂きます、皆様忘れ物が無いようにお気をつけてお帰り下さいませ」


「えらく、本気の一撃じゃったように見えたが」

「ああ、グラディスさんも聞いておいて、さっきの選手が暗器を持ってたのと試合前に毒を仕込んだらしい」

「なに、それは本当か、この大会を侮辱するとは、フフッ地獄を見せてくれるわ」

「一応拘束するようには言いましたけど、竜族以外だと危険なので処理をお願いします」

「うむ、任された、では行って来る、明日も楽しみにしとるぞ」



 本戦一日目、ちょっとしたアクシデントは存在したが、大番狂わせは無かったと言える。

 慶司は不可侵領域を持つ男(アンタッチャブル)の呼び名だけ何とかならないかと考えながら会場を後にした。だがこの望みは叶わない、既に都市中で不可侵領域(アンタッチャブル)=慶司として認識されたのである。


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