電光石火VS不可侵領域
大会本戦二日目の早朝、まだ太陽が昇り始めてもない薄暗い闇の中…
「これで奴等も大会も終わりだ」
怪しげな男が一人森から出てきた。
エルファストとグラニエスの中間地点の森で異変が起こったのはその直後だ。
黒く変色するフレイムバジリスク、傷を受けて怒り狂い、木をなぎ倒す。
「グギャォォォォ」
体を奪われる悲しみか、黒く染まっていく恐怖からか、森に叫び声が響き渡った。
慶司はまだ寝ていた。エルと二人で幸せそうに毛布に包まっている。
(慶司さん…起きて下さい)
(慶司さん事件ですよ)
(ふむ、だめですわね、ウェンディ現場はどうですか)
(突然の魔素で見ることができる木も増えてるけど、この子暴れすぎててドンドン倒されてるよ)
(仕方がありませんね、不可侵領域起きて下さい)
「俺は不可侵領域じゃないぞ」
うぐ…この目覚め方は嫌だな、夢で連呼されたよ。
(フフフ、慶司様、報告するよう言われておりました件が発生しました、例の黒の個体です、バジリスクが現在暴れまわっています)
「…このタイミングでか、狙ってきたかな、場所は」
(ここと聖地の間です)
「飛んでも間に合うけど、良い機会だな例のを試せるかやってみようウェンディ」
(はいです)
「召還するから現場付近の木で通路を宜しく頼む」
(了解いたしましたです)
シルフィを会話をしながらも用意を整える。
(確かに慶司様やエルウィン様だけなら…とは思いますが)
「俺は一度この世界に送られてるときに居空間は通ってるしね大丈夫、一応試験で髪の毛は通り抜けてるさ」
(確かに、ですが私には手が出せない分野ですので…)
「まあ、最低でも木の精霊もしくは向こう側でその木に宿る事が前提みたいな条件だからね」
(それにしても精霊界を素通りどころか一瞬で潜り抜けて目的地へ到達する穴を開くとは…)
「はは、残念ながら理論までは何でかってのが説明つかないけど、唯一説明のつかなかった光の魔法の特徴の一つだったのかな、利用頻度の割りに実は危険な魔法なのかも知れないよ」
(確かに、一度隠れているあの子は探し出して問い詰めないといけませんわ)
「話は聞いてみたいかな、正直この魔法は偶々話を聞いててやってみたら出来ただけだしね、さて用意できたし行こう、エルは今回置いていくよ」
(エルウィンが起きたら事情は説明いたします)
「よろしく、じゃあ【幻日環回廊】」
重なり合う世界と世界の狭間に光の柱を出現させて空間の裂け目を固定する。
これが後に何処にでも現れる、同時に居たなどという都市伝説を作り、新たな二つ名を彼に与える等とは思っていない、敵対者からは畏怖を込め、竜族からは尊敬を込めて呼ばれたその名は予測不可能・想定外であった。
慶司から言わせればそんな二つ名が付く事こそ予測不可能と言いたいだろう。
【幻日環回廊】を抜けた瞬間にフレイムバジリスクの黒色体が居た。
まだ竜族の巡回も来ていなかったが、一応念のためにシルフィから連絡はしてもらってある。
大会二日目なのに、面倒を起こしてくれるものだ…
既に敵は居ないようで周囲の警戒を頼んだが見つからなかった。
「【竜撃ノ参八識無我】」
完全に暴れまわるバジリスクは立ち止まらない、侵食が始まってまだ浅いからか知性的な行動では無い。
これなら最初に出会ったエルの方がおとなしいぐらいだ。
「グヴォオオオオ」
「【氷牢縛鎖】」
ガキンッ
っておいおい砕けるか…
氷が解けてる、そうか、体温が高いトカゲってことね…
その上で怒りで体が傷ついても構わず鱗を引き裂いてでも抜け出すか…
これは参ったな。
【逆鱗】か【竜鳴】でも使うか…でもこの強さの魔物に対する魔法を用意して無かったな…反省だ。
これ以上暴れられても苦しめるだけだ…
「【操糸風刃】」
これで足同士を絡め止めてっ、
「【流水抜刀水月】」
鞘を腰から外して、下から切り上げる変則抜刀の一閃を放つ。
足を切り裂くためじゃなく絡めとるために蜘蛛の糸を使い、
切り込んで 首を落としてやる。
強化された体というよりはこの太刀のお蔭の一撃。
岩も切れるよと言っていたがまさに神の切れ味。
って蹈鞴の神様の至宝の一振りだったな。
残った遺体は魔素も抜けている。
一応は検査の為に少しだけ切り取り竜族に渡す必要がある。
巡回している者に託せばいいだろう。
皮をはいで不要な部分を取り除いて、残りは焼却して土へと埋める。
さすがに試合当日にこれ以上留まるのも意味が無い。
帰りは飛んで行くしか方法が無い為、帰還を急ぐ。
「ご苦労じゃったなぁ主様…じゃがずるいぞ」
「竜の変異問題だから仕様がないんだよ」
「むう、しかし、これは偶然かの」
「違うだろうね…態々この時期を狙ったんだと思うよ」
「きな臭いのじゃがのぉ、流石に察知が出来ぬか」
「シルフィたちも魔素の関係で後手に回るからね、流石に手当たり次第に周辺の旅人を捕まえるわけにもいかないし」
「何か方法を考えねばならんじゃろうな」
「何とかするよ…さてと、このまま試合に行くしかないね」
「ふむ、じゃあウラヌス達の世話は妾がしてやろうぞ、少しでも休んでおけばいいのじゃ」
「ありがとうエル」
「フフフ、妻としては当然じゃからな」
一方で、騒ぎが広まる前に脱出を図っていた人物は、何時まで経っても騒ぎどころか噂も聞こえない事に疑問を感じていた。
過去の資料から考えるに一度解き放った黒竜化の魔素による被害はもっと大きくなるはずなのだ。
前回はアルザスの支配者が一撃で倒したのだろうが、今回は大会の騒ぎに乗じてである。見回りの竜族では対処は出来ないだろうと予測して犯行した。
しかしながら結果は変わらずである。新大陸で発見された竜種から採取した血液。これがウィルスを含む物であるとまでは知らないが、感染している竜種が暴れ、被害が拡大する事は新大陸で確かめられていて知っているのである。
また、大陸から取り寄せねばならんのか…いや、もしかしたら効果が無いのかも知れない。
芳しくない結果を受けてそう考えた。男は北行きの船を手配して報告の為に帰途に着いた。
そして、時間が過ぎて大会の二日目が開始された。
本日の対戦は次のように発表された…
本戦二回戦
第一試合
カレル :一撃必殺
:虎紋族 :男性:赤竜の牙
VS
オービス :老練なる鋼鉄
:人族 :男性:オービス傭兵団
第二試合
レオン :疾風の守人
:森人 :男性:守人
VS
ジャック :冷酷な信仰者
:人族 :男性:神殿聖騎士団
第三試合
ロバート :華麗な騎士
:人族 :男性:白竜騎士団
VS
マキシマム :豪放磊落
:犬狼族ハーフ :男性:マルテア騎士団
第四試合
キャサリン :電光石火
:虎紋族 :女性:赤竜の牙
VS
慶司 :不可侵領域
:人族 :男性:白銀の翼
掲示された羊皮紙を眺めて唖然としていたが…
大会が盛り上がるのなら致し方ない。
「二つ名なんぞ既に昨日の時点で町中に広まってたぞ」
そう教えてくれたのは現れたグラディスさんだった。
「よう、聞いたぞ朝からご苦労だったな、しかも試合の日に」
「問題は無いですが、犯人を突き止めれないのは残念ですね」
「うちの監視員たちも普段よりは少なかったとは言えど出し抜くとなれば、相当な人材を投入してるはずだ。しかも竜が狂う突然変異なんて技術まで持ってるとなりゃ国ぐるみの仕業だからな。
この時期を狙ったにしても騒ぎにまぎれて逃げるに違いないから、乗船名簿を昨日の分から調べさせている」
「成程、それは良いかも知れませんね」
「まあ、蜘蛛の子の仲から目星をつけるのは大変だが、何もしないよりはマシってもんだ」
「はい、できれば尻尾を掴まえてやりたいですからね」
「さてと、じゃあ今日も楽しく観戦させてもらうぜ」
既に会場は満席。
試合開始を待ちわびている。
二回戦 第一試合
「皆様、本日も竜王格闘杯へようこそ、昨日に続きまして司会はこの私エレンが務めさせて頂きます。
果たして今日は誰が勝ち抜くのか、既に優勝予想、並びに複式の受付は終了してますが、一試合毎に賭けは成立していきます。今日の試合で上位四名が決定します。
さてそれでは第一試合の開始です。まずは一撃必殺のカレルゥ。赤竜の牙副団長、その強さは本物だった、昨日の試合も相手を二発の攻撃で沈めています。今日も必殺の一撃を繰り出して勝負を決めるのか。
そして対するは、老練なる鋼鉄オービス、冷静沈着、まさに戦いとはこうある、そう語るかの如き戦いぶりでした。硬い防御とそこから繰り出される技に注目が集まります。
互いに、昨日は似た選手を倒してきていますから、対決の結果がどうなるのか、じっくりと楽しみたいところ」
「はじめっ」
「さぁ、試合開始の合図はされましたが、双方共に間合いを計っている。
動かない、いやこれは動けないのか、中央で睨みあったまま動かないぞ。
カレル選手が蹴りを放つのが先か、それともオービス選手が掴むのが先か…」
「ふむ、主様よ、この勝負はどう見る」
「うーん、どちらとも実力はあるけどカレルさんはカウンターを取るタイプじゃない、オービスさんはカウンターを仕掛けるタイプってとこで勝負がきまりそうだね。でも赤竜の牙の副団長が投げ技に対応してないとは思えないから不用意にオービスさんが掴みにいったら危ないだろうね」
「一撃必殺なんて二つ名をもらったからって訳じゃねえ、姐さんが見てる前では負けられねえんだよっ」
「おっと仕掛けたのはカレル選手、間合いから踏み込んでの下段、強烈な蹴りでオービス選手も一瞬怯みました、間合いに入るたびに下段の蹴りが炸裂する、防具の無い状態で戦いなれていないのか、これはオービス選手痛そうだ」
「小僧が…クッ、舐めるなぁ」
「古兵はさっさと退場しなっ」
「っとオービス選手が突っ込むも、素早いカレル選手が素早く回避、そして放たれる蹴りぃ防御を突き破るかの如く上段へと叩き込む、これは飛び込めない、またもや下がったオービス選手の足にまた蹴りが炸裂、聞こえますでしょうか、蹴りの音が弾ける様に聞こえてきます、まるで鞭のようです」
執拗に下段を放ち、時折中段から上段への変則蹴りなどを放つカレル、オービスは掴まえる事が出来ない。既に足に痺れが出てきているのだ。
「餓鬼が、掛かって来い」
「オッサン既に足が踏み込めないから誘ってるんだろ、俺の蹴りをそれだけ受けてりゃ足が痺れて動けないだろうが」
「……」
「ハッ、降参するなら今のうちだぜ」
「抜かせぇ」
「これが地獄の特訓を受けた技の一つだ、望みどおりに打ち込んでやらぁ、喰らえやっ」
「ここでカレル選手間合いを取ってから踏み込んでの頭部への蹴りぃ、だがこれはオービス選手が待ち構えて、っと受け止められていないっ。これは読み違えたかぁカレル選手の左膝が顔面直撃。
これは決まったぁ、なんという攻撃でしょうか、右の上段かと思ったら左の膝が顔面を強打。
審判が試合を止めました、見事に勝利を収めたのは一撃必殺カレル選手です」
「掴みきれなんだなぁ、さすが赤竜の牙じゃの」
「あの下段を何度も貰うと厳しいだろうなぁ」
「楽しいな、ちょっとアイツと勝負がしたいな」
「大会が終わって、頼めばしてくれると思いますよ」
「そう、じゃあ頼もう、試練の時にやったよりはマシになってるみたいだし」
「あ…既に戦ってるんですね」
「勿論だよ、あの子達の試練は代々グラニエスへ登頂する事に決めてあるんだから」
「ハハハ、厳しいですね」
「そうかな、竜体で戦うから無茶はしないし、白竜騎士団の方が厳しいとか言ってた気がするぐらいだぞ」
「うむ、爺やが担当しとる」
「うわぁ…」
「何を驚いているのか、金10を持ってる癖に、というか覚悟してないとその内白金になったらどうするんだ」
「あれ、金の上ってあったんでしたっけ」
「一応、位としては存在してるからな、そうなったらランクは全て白金に統一だったんじゃないか」
「考えたくもないですね」
「主様ならば白金でもかまわんと思うがの」
「俺も異議はないな、となれば少なくとも聖竜母様も同意見だから授かる資格はあるわけだな、ッハッハッハ」
「…そんな怖い話はいいですから、次の試合が始まりますよ」
二回戦 第二試合
レオン対ジャックか、…怖いんだよな容赦がないというか無慈悲というか。
そう、相手を人じゃないように見ている感じがする。
「こやつは聖教会とか関係無く戦い方が気に入らんのぉ」
「戦士としては強いけど、狂戦士みたいだからじゃないか」
「そうですね、ジャックさんの戦いを見てると殺しに来てるとしか思えないですから」
「大方、聖教会の上の連中が死んでも勝てとか言ったんだろうよ」
「二回戦、第二試合は、疾風の守人対冷酷な信仰者の一戦とないります、レオン選手はまさに疾風、移動速度から繰り出す攻撃までが嵐のような怒涛の勢いです、さすが大森林地帯を守護してるといわれる守人の実力は高い。
対するジャック選手、その容姿とは裏腹に凄まじい戦い振り、冷酷無比とはこのことか、場外が無くなった事で強さを発揮するのはこの人の容赦の無い一撃でしょう」
「はじめっ」
「今日もレオン選手の動きは軽快だ、体を物凄い勢いで動かすが、おっと以外なことにレオン選手がこの動きについていっている。なんという軽快な動き、驚いたレオン選手が回り込もうとする、しかし、逃がさないジャック選手、だが手を振り払ってなんとか逃れた。
驚きです、これは普段着ている鎧がない為なのか、まさかの速度対決、しかし、レオン選手も体の軽さを生かしたフットワークで回避した。
ジャック選手は体の重さから急には止まれない。
おっと、ここでジャック選手が防御を下げた、打って来いと言わんばかりに挑発しているのか、そのまま歩み寄る。
これは大胆だ、掴めないなら掴める距離まで攻撃して来いと言うのでしょうか。レオン選手、勢いをつけて体を急旋回。さらに後ろを取ろうとするが、流石に後ろは取らせないのかジャック選手が振り向く、そこに顔面へ蹴りぃ、だがジャック選手これを腕で防いでいる。しかしそこから距離を詰めたレオン選手が怒涛の波状攻撃。
だが、ジャック選手、全く動じていない、打たれっぱなし、打って来いと近づいていく。
距離が無くなってしまいました、ただ近づくだけ、なんという戦い方でしょう。
そして、おおっと、肘を入れようとしたレオン選手の足を抱えた。
とうとう掴まえ一気に倒していくジャック選手、体重をかけ、足を抱えて離さない、頭と肩をレオン選手の腹にくっつけて地面に縫い付ける。レオン選手は逃れるべくジャック選手の後頭部を殴るが、一切気にしていない、おっと、左手で右足を抱えて自由になった右手がレオン選手のわき腹を殴りつけている。
これは…」
「グラディスさん」
「勝負ありじゃ」
「おっとここで審判が止めにはいった、勝者はジャック選手です、これは何という頑強な肉体なのでしょうか、レオン選手の攻撃を一切受け付けないかのような鋼の肉体か」
「どうなんじゃ主様」
「信じられない、もしかすれば、人なのに俺の魔法と同じ肉体強化…、いやあれはやったら死ぬ可能性のほうが高いから…しかし打撃で危険な場所にくるのは微妙にずらして避けてたからね、なにかあるね」
「例の特訓をすれば使えるかもと言う奴じゃろ」
「なんだ、そんな面白い特訓があるのか」
「ええ、あそこで見学してるカミュとホメロウ用に用意した訓練なんですが」
「それは面白いのか、だったらやらせてみてくれ」
「竜族の方が早く飛びますから意味は無い気がしますね、竜族やるなら空中から海面に向かってギリギリで上昇するぐらいの荒っぽい事をしないと」
「「死んでしまうぞ」」
「いや、普段の生活では感じない感覚を掴むためなんで」
「慶司殿、なかなか恐ろしい事を考えるな」
「主様よ、そうかカミュやホメロウ達が騒いだ理由がわかった気がするのじゃ」
「でも安全は確保した上でやるんだよ、勿論」
「まあ、それは解ってるんじゃがな」
「うーむ、エルよ、なかなか豪快じゃな」
「うむ、常識では計れんのじゃ」
「とにかく、お昼を食べよう」
「そうするか」
一旦外に出て、芝生の上にシートを敷いて、エイミー達が買ってきてくれた物とお弁当を全員で分けて食べた。
慶司の試合は午後からなのだ、ゆっくりとご飯を食べて休憩をした。
午後の戦いに向けてと寝転がるとエルが膝枕をしてくれた。
対戦相手はあのルージュより強いキャサリンだ、全力を出す為に慶司は目を閉じた。
昼の休憩を終えて慶司達は闘技場へと戻ろうとした。
そこで声をかけられた。
「いやあ、ルージュからの手紙通りだったね、名乗らなくても同じ選手だから知ってると思うが、キャサリンだ、宜しくな、それとこっちのデカイのがカレルだ」
「カレルという、宜しくな」
赤竜の牙の二人組みである。
どうやらルージュさんの手紙で興味を持ったようだ。
「えっとはい、慶司です宜しくお願いします」
「いやぁルージュが対戦するって言って飛び出したのは良いけど、出遇えて無いんじゃないかと心配してたんだけどな、っはっはっはっておいホメロウじゃねえか」
「ど…どうもお久しぶりです」
見つかったホメロウはトラウマがあるので固まっている。
例の修行…と思ったがホメロウの為と考えるのを止めた。
「元気だったかおい」
「久しぶりだな、なんだお前も慶司の仲間か、赤竜に入れようと思ってたのに」
そうだったのか、まあそりゃ親戚もいるんだし、鍛えてたって言っていたから当然か。
「その、今は教えを受けてるところです」
「なんだ師匠になってもらったのか」
「師匠と言うわけでもなかったんですが、そうですね今は技も教えてますからその様な立場ですね」
「「師匠」」
カミュも声を合わせて喜んでいる、まあ本当は師匠と呼ばれるより仲間付き合いの方がいいんだけどね。
喜んでくれるならまあいいか。
「午後の対戦、楽しみにしてるよ、ルージュが負けたってのは手紙で知ったからね。久々に良い戦いが出来そうだ」
「ご愁傷様だけど、本気でいくらしいから、姐御の本気なんかで来られたら俺でもいやだからな」
「こちらも楽しみにさせて頂きます」
多少強気で返しておく、嘘も言ってはいない。
直後にカレルが目を見開いて凝視してきたが、
うん、戦うのは嫌だけどね、楽しそうなのは本当だよ。
「お前もしかすると、ソッチ系なのか…」
「断じて違うからな」
その誤解だけはいけない、本気で否定しておかないと。
会った事は無いけどフラムと同等の扱いを受けるなんて嫌だ。
「おう、いや姐御の本気を楽しめるっていうからついな、まあ死なない程度に頑張れよ」
「じゃあな」
そうして二人は先に会場へと入っていった。
偶々見かけて声を掛けて来たといった感じだが憎めない人達である。
さらにロバートが通りすぎたがこちらは足早に会場に入って行った。
慶司達も中へと入った。
第二回戦 第三試合
ロバート対マキシマム、ロバートには。変な二つ名が付いていたが、色男ってことらしい、お似合いだと思う。『気障だからな』とはエルとグラディスさんからの言である。
そしてマキシマムさん、豪快な投げ技もあっての二つ名は見事に似合ってると思う。
「お昼はお済ですか、私は外で有名になってる焼き蕎麦を食べてみました、美味しかったですね、食べた事の無い人は是非お勧めします、レシピを教えて欲しいと、おねだりしたのに無理でした、悔しいのでまた食べにいきますよ、はい。
では、本日の第三試合。華麗な騎士ことロバート選手対豪放磊落マキシマム選手の対決です。
ロバート選手。昨日は目にも留まらない動きで相手を絡めて降参させました、今日はどんな戦いをみせるのか。ついた渾名の通りの戦いぶりを期待したいところです。
そして、マキシマム選手、昨日は攻撃に耐えてからの豪快な投げ、これほど二つ名がぴったりな戦いも無いでしょう、掴めばマキシマム選手が有利となるか、どのような試合展開になるのか注目したいと思います」
「はじめっ」
掴んでも、おそらくロバートの勝ちになるんじゃないだろうか…
そんな気がしたんだが。
「おっと、ロバート選手自ら手を上げながら近づいていく、これは組み合えといっているのか、それとも罠か、これは慎重にマキシマム選手が両手を合わせてがっちりと組んだ。
まさかの展開、体格差があってまさか自ら組に来るとは思わなかったのでしょう。
そして、力比べは互角とみたか、互いの胴着を引っ張り合う。
この状態ならば投げのマキシマム選手が有利か、だが互いに掴み合っているので投げれない。
お互いに胴着を着た状態での戦いにはまだなれていない、おっと足をかけに行ったロバート選手、これで倒されてしまったマキシマムに絡み付いていく、胴着を使って首を絞めていく、これは逃げられない、ロバート選手の足ががっちりと胴を挟んでいます、審判が止めた。勝者ロバート」
自分より大きな相手でも構わずに組に行くのは無謀というか自信の表れと取るか。
態々相手の得意な状態に持っていくなんて考えられないな…
慶司はロバートの戦い方が今一つ納得いかない。
昨日の素早い動きならば速さでもっと素早く自分から組み付く事もできるのにしない。
これもある種の戦闘狂なのだろうか。
そしていつもどおり笑顔で観客に答えている。
「気障じゃな」
「気障すぎるわね、ブリガンに言っておいたら」
「考えておくのじゃ」
と不況を買っていた。南無阿弥陀仏…
俺は知らないと触らぬ神に祟りなしである。
「さて主様、頑張ってくるのじゃぞ」
「頑張るにゃ、儲けを全て慶司にドンにゃ」
「フフフ、当たり前じゃな」
聞かなかった事にしよう。
しかし情けない事は出来ない。
何せ弟子だけでなく愛する奥さんの目の前である。
集中をする、魔法を使わず初手から意識加速を全力で使っていく。
第二回戦 第四試合
「さて、皆様、本日の第二回戦もこの試合で終わります、果たして残りの進出者はどちらでしょうか。
|電光石火キャサリン対不可侵領域慶司。
赤対白銀、電光石火は不可侵領域を打ち破れるのか、それとも逆に切り返されるのか。
大会に残った紅一点、一撃の凄まじい速さと威力は証明済み、昨日は対戦相手を一瞬で沈めたキャサリン選手。赤竜の牙の団長としての強さは証明された、獲物をみつけた蹴りを防ぐ事が可能なのか。
そして相手を一切寄せ付けない、いまだ触れることすら許さないこの男、一体だれが触れられるのか。
昨日は同じく相手を一撃で倒しているがまさに一瞬の攻防でした、仕掛けた相手が倒れてしまう。
まさに不可侵領域を持つ男、慶司。
流石学園を設立するだけの自信なのか、彼の学園で学べば強くなるぞと言わんばかりの存在感だっ」
…負けられない戦いにされた。
だれか突っ込み入れてやってくれないか。
イカン集中、集中……
「アタシの攻撃はルージュより早いよ」
上段に見せて振り下ろす中段。
確かに早いのだろうと思う、此処までの精神集中をしてなかったら腕に受ける衝撃だけでもかなりの物だっただろう、ひきつけながら掴んで受けてその勢いのまま攻撃に移る。
勢いを殺さないで受けた蹴りの力を下へと無理なく逃しながら体制を崩す。
そのまま右足を押し込みさらに体制を崩させる。
虎紋族の平衡感覚の優れているのは解っている、左足で蹴れない角度で押し込んでいるのだ。
それでも無理やり体を浮かせて蹴ってくる、これは体捌きのみで躱して右方面から体を差し込んでいく。
ここでも拳が飛んでこようとしてることが驚きである。
しかし右足でキャサリンの体の動きは制限されている。
そのままうつぶせに押さえ込みつつ右腕の殴りつけてきた腕を背後に捻って肩口を押さえた。
「ちょっと、何だこれ…、くそ、動かない。ウゥゥゥくそお負けだぁ」
あれ宣言が無い…
「(こそこそ)昨日の美人さん…お願いします」
「ちょっと後で修行だな」
「ヒィ」
「最初に仕掛けたのはキャサリン選手だ、右足が上段と見せて中段への蹴り、その蹴りを慶司選手が掴んでからが問題だ、キャサリン選手の反撃が蹴りに拳と続いたのをさらに防いで、ひっくり返し、腕の関節を決めて身動きを取れなくしたんだよ」
「はいっ有難う御座います、昨日に引き続き情け無いところをお見せしました、ですが美人解説者さんのお蔭でなんとか説明がつきました、有難う御座います。やはり不可侵領域は電光石火をもってしても崩せなかった、私の目にはキャサリン選手の蹴りさえ見えていませんでした、気が付いたら腕を決められたキャサリン選手が居ただけです、恐るべきはその蹴りをも防いでみせる不可侵領域、噂では他にも伝説を持つそうですが、恐ろしい校長先生がいたものです、まさにこの冒険者の町の学校に相応しいですね、そしてその強さは大陸でも指折りです。こんな学校を卒業した生徒はどうなるのでしょうか」
これで上位4人まで決まった。
しかし受け止めた手がヒリヒリする、勢いを殺しきれなかった。
この世界に本格的な武術が存在してなくて助かってるだけだな…
身体能力の強化分があるから、滅多な事じゃ負けないとはいえ。
種族とか関係無しにあの反応は凄いと思った。
「空中であれだけ動いてくると驚きじゃな」
「なにが起きたのか離れて見てても捕らえきれなかったにゃ」
「うん、勝てて良かったよ」
掛け金の事も全部含めてね…
「今晩の夕食は私とエルで奢る事になったにゃ」
「師匠、感動しました、あのキャサリンさんに勝つなんて」
「凄かったです、あれだけの動きが出来るよう精進します」
「いやあ強かった、びっくりだよ、ルージュが未だに何で負けたかわからないとは書いていたが…
アタシもさっぱりだ…
ウーン、くそおカレルじゃかないそうもないぞっ」
「そんな姐御、おれが勝って見せますって」
「ほう、ってことはアンタ、ルージュより自分が強いと勘違いをしてるのか」
「え、いえ」
「ってことはだ、まあ戦うなとは言わないがルージュにもそしてアタシにも勝ったことの男に勝つと宣言するのは、自分がアタシやルージュより強いってことだよ、まあ心意気は認めるが人を見る目も養いな」
「そんなあ、でも万が一もありますよ」
「全く…そこらへんを判ってないからだめなんだよ、ルージュだったら本能で判る、アンジェリカなんかだったら多分戦おうともしてないだろう、アタシだってこれで判らないなんて言わないさ、噂どおりの強さの男だ、子供を生みたいのに結婚してるのが残念なくらいさ」
「こ、子供って」
「だから結婚してるから諦めてるけどな、まあいいさ、慶司、何かあったら赤竜の牙は力を貸そう。
戦って拳を交えた仲だ、いつでも友だと思って声を掛けてくれ」
「決勝で俺は戦うからな」
「その前に準決勝だろう」
「ありがとうキャサリンさん、カレルさんも決勝でお会いできるようにお互い頑張りましょう」
「キャサリンでいいさ、それじゃあな慶司」
「じゃあな」
ほら…またエルがおかしくなってる。
よいしょっと抱えて会場を出ることにした。
「ハッ、なんで抱っこなんじゃ」
「なんとなくかな」
「ちと恥ずかしいの」
「しかし、結婚してるって人目でわかる方法とか無いのかな」
「そのような物があればいいのじゃがな」
「今度作ってもらってる結婚指輪を広めよう、そうすれば言い寄られる事も無くなって、遠慮も発生すると思うんだ」
「賛成じゃ、ドキドキして心臓に悪いのじゃ」
「心配しなくても大丈夫なんだけどな」
「それでも心配なのじゃ」
後ろで呆れるエイミー達を無視して二人の世界に浸ったまま家路に着く慶司とエル。
でも全員が笑顔で楽しそうに買い物を済ませて学校へと帰っていった。
明日は準決勝、グッディグッディとの対決である。




