↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
識字率0%の辺境で、元教師の無能転生者が学校を作ることになった件  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
93/112

第93話 赤い布

 翌朝、レオとミアは伯爵邸の中庭で、落ち着かない時間を過ごしていた。


「キット、気づいたと思う?」


 ミアが三度目の同じ問いを口にする。レオは苦笑しながら答えた。


「わからない、としか言えないな。でも──待つしかない」


「レオ先生でも、待つのは苦手なんだ」


「教師をやってると、待つのには慣れてるつもりだったんだけどな。生徒の答えを待つのと、これは、ちょっと違う」


 そう言いながらも、レオの視線は何度も邸の門の方へ向かっていた。もし紙片がキットの手に渡っていたら、彼はどう動くだろうか。危険を冒してまで、合図を出してくれるだろうか。


 昼過ぎ、リリアンが記録保管所から戻ってきた。表情には、疲労と、それでも隠しきれない興奮の色が浮かんでいる。


「レオさん、ミアさん。閲覧制限の件、少し進展がありました」


「本当ですか」


「グレイフィールド家の記録そのものには、依然として制限がかかっています。ですが──四年前の『火災』の消火に当たった記録が、別の部署に残っていました。当時の消防隊の報告書です」


 リリアンは持参した書類を机に広げた。


「報告書によれば、火元は書庫の一角。ですが、焼失した範囲が不自然に限定的だったと記されています。まるで、特定の棚だけを狙ったかのように」


「つまり、証拠隠滅のための、意図的な火災……」


「断定はできませんが、その可能性は高いかと。それと、もう一つ」


 リリアンは別の紙を取り出した。


「消防隊員の一人が、当時の聞き取りで気になる証言を残しています。『火災の直前、館の使用人らしき若い男が二人、慌てて裏口から出ていくのを見た』と」


 レオとミアは思わず顔を見合わせた。


「若い男が二人……まさか」


「ダニエルとフィン、ですか」


「証言だけでは確定できません。ですが、時期は一致します。四年前、彼らが姿を消したのと同じ頃です」


 ミアの表情が強張った。


「じゃあ、ダニエルとフィンは……その火災に、何か関わってた、ってこと?」


「あるいは」レオが低く呟いた。「証拠を消す作業を、無理やりやらされていたのかもしれない。契約書にあった『労役』の内容が、それだったとしたら」


 重い沈黙が落ちた。もしそうだとすれば、二人の若者は、自分たちを縛る証拠そのものを、自らの手で燃やさせられていたことになる。あまりにも残酷な仕打ちだ。


「彼らが今どこにいるのか、それだけでも……」


ミアの声が震えていた。レオはその肩にそっと手を置いた。


「見つけよう。必ず」


 その時、庭の外から、使用人の一人が慌てた様子で駆けてきた。


「レオ様! 門のところに、市場で見かけた少年が……!」


 レオとミアは同時に立ち上がった。門へ急ぐと、そこには息を切らしたキットが立っていた。手には、小さな赤い布切れを握りしめている。


「合図、見た……お前らの字、読めた……ダニエルが少しだけ、教えてくれてたから」


 キットは肩で息をしながら、震える声で続けた。


「今夜、また若様が戻る。それだけじゃない──今度は、西の方から新しい荷馬車が来るって、聞いた。『商品』を運んでくるって」


「商品……?」


 キットは頷き、声を落とした。


「人だよ。前にもあった。荷馬車の荷台に、縛られた人が乗せられてるの、見たことがある」


レオの背筋に、冷たいものが走った。西方──ガイウスとノアが向かった、まさにその方角だ。


「いつだ、それは」


「今夜。日暮れ、後……」


 レオはミアと目を合わせた。時間がない。証拠集めどころではない。今夜、灰の館で何かが起ころうとしている。


「ミア、リリアンさんに知らせを。それと──兄上たちに、急いで連絡を」


「間に合う?」


 レオは拳を握りしめた。


「間に合わせるしかない」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。