↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
識字率0%の辺境で、元教師の無能転生者が学校を作ることになった件  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
87/111

第87話 厨房の闇に紛れて

 夜の帳が完全に下りた頃、レオとミアは下働きの粗末な服に着替え、木立の陰から灰の館の裏手へと近づいていた。裏口の見張りは一人。松明の灯りの下、退屈そうに欠伸を噛み殺している。


「あの隙に」


 ミアが小声で囁くと、少し離れた茂みから、ノアが小さな石を投げた。石が館の反対側の茂みに当たり、乾いた音を立てる。見張りがびくりと反応し、音のした方へ数歩近づいた隙に、レオとミアは素早く裏口の脇の小窓から中へと滑り込んだ。


 厨房は、幸いにも無人だった。煮炊きの匂いがまだ微かに残る中、キットの言った通り、梁に古びた鍵がぶら下がっているのが見えた。


「あった」


 ミアが鍵を手に取り、二人は足音を殺しながら食堂へと向かう扉に近づいた。扉の隙間から中を覗くと、遠くの応接間から、くぐもった話し声が漏れ聞こえてくる。


「──だから言っただろう、あの村の連中が動き出したと」


「ご心配なく、若様。所詮は田舎者共です。証拠など何も掴んではおりません」


 聞き覚えのある声に、レオは思わず息を呑んだ。カーライルの声だった。


「カーライルの旦那、口ぶりに自信ありすぎじゃないですか」応接間から、別の若い声が茶化すように言った。「王都まで来て探りを入れてる連中がいるって噂、旦那の耳にも届いてるでしょうに」


「黙れ。お前如きが口を挟むことではない」


「はいはい、失礼しました」


 軽薄な口調のその声に、レオとミアは顔を見合わせた。少なくとも館の中には複数人がいる。慎重に進まなければならない。


 食堂を突っ切る間、ミアが足を止めた。テーブルの上に、書きかけの書類が数枚放置されている。何気なく目を通したミアの表情が、みるみる強張った。


「レオ、これ……」


 差し出された紙には、どこかの村の名前と、明らかに不自然な取引の数字が記されていた。しかも、筆跡はブライアーウッド村の帳簿で見たものと酷似している。


「新しい村を、また狙ってる……?」


「持って行くのは危険だ。後で確実な証拠を書庫から見つけよう」


 レオは書類の内容を素早く頭に叩き込むと、そっと元の位置に戻した。二人は食堂を抜け、キットが示した通りの道筋を辿り、食料貯蔵庫へとたどり着いた。


 奥の壁に、木製の重い扉があった。ミアが鍵を差し込み、慎重に回す。錆びついた音が響き、レオは思わず身をすくめた。


「音、大丈夫かしら」


「今のところ、誰も気づいた様子はない」


 扉を開けると、地下へと続く石段が、闇の中に沈んでいた。ミアが懐から小さなランプを取り出し、灯りをともす。


「行きましょう」


 二人は石段を一段ずつ、慎重に下りていった。冷たく湿った空気が、地下深くから吹き上げてくる。石段の先に、鉄格子のはまった重い扉が見えてきた。


「あれが、書庫……?」


 扉に近づいたレオは、そこに掛けられた大きな錠前を見て、思わず眉をひそめた。


「鍵が、厨房のものとは違う」


「別の鍵が必要ってこと?」


 その時、石段の上──厨房の方から、複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。


「……誰か来る」


 ミアがとっさにランプの灯りを絞る。石段の陰に身を潜めながら、レオは息を殺して耳を澄ませた。足音は二人分。厨房の扉が開く音がして、聞き覚えのない男の声が響いた。


「おい、貯蔵庫の鍵、誰か使ったか?」


「知らねえよ。俺は触ってない」


「妙だな……さっき、確かに掛けてあったはずだが」


 石段の下、暗闇の中でミアがレオの腕をそっと掴んだ。緊張が、二人の間に静かに走った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。