第79話 王都への道すがら
王都へと続く街道は、ブライアーウッド村を出て三日目にして、ようやく見慣れた景色に変わり始めていた。かつて公聴会のために通った道──あの時は緊張と不安に満ちていたが、今回はまた違う種類の緊張が、馬車の中に漂っていた。
「レオ、この地図の場所なんだけど」
ミアが膝の上に広げた地図を指さした。王都の外れ、貴族街から少し離れた区域に、フィンが記した印がある。
「王都に着いたら、いきなりこの場所に行くのは危険じゃないかしら。相手が本当に貴族と繋がっているなら、私たちの動きは筒抜けになるかもしれない」
「その通りだと思う」レオは頷いた。「だから、まず頼るべき人がいる」
「ガイウス兄さん、か」
ノアがすぐに察した。エルバン村の一件以来、ガイウスはレオたちにとって単なる家族以上の、信頼できる協力者になっていた。貴族社会の内側を知る彼の目線は、今回のような相手には欠かせない。
「兄さんなら、『W.G.』という印にも、心当たりがあるかもしれない」
エマが地図をそっと巻き戻しながら、小さく息をついた。
「王都に着いたら、王城で目にした紋章の記録も、もう一度確認したいです。数が多すぎて、当時はきちんと覚えられなかったから」
馬車の車輪が石畳に変わる音がして、遠くに王都の城壁が見え始めた。四年前、ダニエルとフィンが向かったはずの場所。そして今、レオたちが再び足を踏み入れようとしている場所。
「着いたら、まずアルダート家に向かおう。事情を説明して、兄さんの力を借りる」
「賛成」ミアが頷く。「それに──」
彼女は少し悪戯っぽく笑った。
「お父様やお母様にも、少しはご挨拶しないとね。エルバンの功労者として王都に呼ばれたのに、実家に顔も出さずに帰るなんて、失礼じゃない?」
その軽口に、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。ノアが呆れたように肩をすくめる。
「こんな時に、そんなこと気にするのかよ」
「こんな時だからこそ、よ。気を張りっぱなしじゃ、いざという時に力が出ないもの」
レオは思わず笑みをこぼした。ミアのこういう強さに、これまで何度も助けられてきた。
城門が近づくにつれ、行き交う人々の数も増えていく。露天商の声、荷馬車の音、子供たちの笑い声──四年前、ダニエルとフィンもきっと、この同じ道を、同じ喧騒の中を歩いたのだろう。
「見つけるよ、必ず」
レオは懐の地図をそっと押さえながら、城門をくぐった。
灯りを広げる旅は今、その始まりの地──知の光と影が交錯する王都へと、再び戻ってきた。




