第78話 置き手紙
翌朝、村を発つ準備を進める中、レオはもう一度サリーの家を訪れた。ダニエルとフィンの手がかりを追うと約束した以上、王都へ向かう前に、彼女に一言伝えておきたかった。
「サリーさん、王都に戻ったら、もう一度この件を調べてみます。何か分かり次第、必ず知らせに来ます」
サリーは深く頭を下げた後、ふと思い出したように奥の部屋へと向かい、古びた木箱を持って戻ってきた。先日見たものとは別の箱だった。
「先生……もう一つ、渡していなかったものがあるんです。フィンが出発する前、私の目を盗んで、こっそり文机に隠していったものです。長い間、開ける勇気が持てなくて」
箱の中には、一枚の古い地図の写しと、簡単な文字で綴られたメモが入っていた。地図には、王都から少し離れた場所に小さな印がつけられている。
「『灰の館』……?」
ミアが地図の文字を読み上げた。地名というより、通称のようなものだろう。地図の余白には、フィンのものと思われる筆跡で、こう書き添えられていた。
「もし戻れなかったら、ここを調べてほしい。俺たちが連れて行かれる場所は、多分ここだ。表向きは廃屋になっているらしいが、夜になると馬車の出入りがあると聞いた」
「フィンは……自分が連れて行かれる先を、事前に突き止めていたのか」ノアが唸る。「相当な覚悟だったんだな」
エマがそっとメモを受け取り、慎重に折りたたんだ。
「王都に着いたら、まずこの場所を調べましょう。地図が正確なら、手がかりはそこにあるはずです」
村長がレオの肩に手を置いた。
「先生方、王都までの道中、くれぐれも気をつけてくれ。カーライルという男が、ただの調査官でないなら……向こうも、こちらの動きを警戒しているはずだ」
「分かっています。それに──」
レオは地図を丁寧に折りたたみながら、微笑んだ。
「今回は、僕たち四人だけじゃない。エルバンにもソルヴィンにも、共に学び、共に立ち上がってきた仲間がいます。必要なら、力を借りるつもりです」
村を発つ日、広場には多くの村人が見送りに集まっていた。ドナルドは相変わらず素っ気ない態度を装いながらも、最後にそっとレオに紙切れを差し出した。そこには、たどたどしいながらも確かな文字で「またきてくれ」と書かれていた。
「ドナルドさん、それ……」
「べ、別に大した意味はねえ。ただの練習だ」
耳を赤くしながら顔を背けるドナルドに、一同は思わず笑みをこぼした。重い旅路の前の、ささやかな温かさだった。
馬車が村を離れ、街道へと進み始める。レオは懐にしまった地図と、村人たちの想いを乗せて、静かに前を見据えた。
──灯りは、時に思いがけない影を照らし出す。だが、その影の向こうに何があろうと、もう後戻りするつもりはなかった。
王都リンデンハルトへ続く道は、まだ長い。




