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識字率0%の辺境で、元教師の無能転生者が学校を作ることになった件  作者: 菊池まりな


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第70話 新たな計画

 祝宴から数日が経ち、エルバン村には落ち着きが戻りつつあった。だがその落ち着きの中で、レオたちは早くも次の一歩に向けて動き始めていた。


「王家からの支援金、正式に届きました」


 ノアが、書類の束を広げながら報告する。


「校舎の建て替え費用、教材費、それに周辺の村への出張授業のための予算も含まれています」


 ドノヴァンが、感慨深げに書類を眺めた。


「まさか、この小さな村が、王家から正式に支援を受ける日が来ようとはな」


「これも、皆さんが一歩ずつ積み重ねてきた結果です」


 レオは、集会所に集まった村人たちを見渡した。ガレット、ベサニー、カイル、トビー──皆、この一年あまりで大きく成長していた。


「まず取り掛かりたいのは、校舎の建て替えです。今の集会所を間借りした教室だけじゃなく、きちんとした学び舎を作りたい」


「儂も手伝おう」


 ガレットが、杖を突きながら立ち上がった。


「歳じゃが、木材の目利きくらいはできる。若い衆に任せっぱなしにはせんぞ」


「わしも、力仕事なら任せてくれ」


 カイルも力強く頷いた。村人たちの間に、新たな学び舎への期待が広がっていく。




 その一方で、レオはミアと共に、周辺の村々への出張授業の計画を練っていた。


「まずは、近隣の村から始めようと思う」


 レオは、地図を広げながら説明した。


「グレンモア地方には、エルバンやソルヴィンの他にも、いくつかの小さな村がある。読み書きを教える機会がないまま、同じように組合や行商人に不当な扱いを受けている村があるかもしれない」


 ミアが、地図上の村々を指でなぞった。


「この村や、こちらの村は、エルバンから馬車で半日ほどの距離ですね」


「うん。まずはそこから始めよう。ノアには村に残って教育特区の運営を任せて、僕とミア、それにエマで、出張授業を回れないかと思っている」


「わたしも行きます!」


 エマが、勢いよく手を挙げた。


「わたし、まだお手伝いできることがたくさんあると思うんです。それに、他の村の子供たちにも、母の手紙のことを話してあげたい」


 レオは、エマの決意に満ちた表情に微笑んだ。


「もちろんだよ、エマ」


 数日後、出張授業の第一歩として、レオたちはエルバン村から半日ほどの距離にある小さな村・ブライアーウッドを訪れることになった。


「レオ様、この村も、組合の影響を受けているんでしょうか」


 道中の馬車の中、ミアが尋ねる。


「バルトさんの情報だと、はっきりとした証拠はまだないみたいだ。でも、念のため、様子を見ておきたい」


 村に到着すると、そこには素朴な農村の風景が広がっていた。村長らしき初老の男が、緊張した面持ちで出迎えた。


「エルバン村の……レオ様、とお聞きしております。此度は、遠路お越しいただき」


「突然の訪問、失礼いたします。実は、皆さんに読み書きを教える機会をご提供できないかと思い、参りました」


 村長は、戸惑いながらも、村人たちを集めてくれた。集まった村人たちの表情には、警戒と好奇心が入り混じっていた。


「文字なんて、儂らには縁のないものだと思っておったが……」


 一人の農夫が、ぽつりと呟いた。


 レオは、エルバンで最初にミアに教えた時と同じように、文字かるたを取り出した。


「まずは、簡単なところから始めましょう」


 かるたを使った授業に、最初は戸惑っていた村人たちも、次第に興味を示し始めた。子供たちは、遊び感覚でかるたに夢中になり、大人たちもその様子を見て、少しずつ心を開いていった。


 夕方、授業を終えたレオたちに、村長が深々と頭を下げた。


「レオ様、今日は本当にありがとうございました。……正直に申し上げますと、この村にも、行商人との取引で、時折おかしいと感じることがございました」


「もしよろしければ、証文などを見せていただけますか。何か問題があれば、力になれるかもしれません」


 村長は、少し驚いた様子を見せた後、深く頷いた。


「ぜひ、お願いいたします」



 その夜、ブライアーウッド村を後にする馬車の中で、ミアが静かに呟いた。


「レオ様。今日みたいなことが、これからも続いていくんですね」


「うん。一つの村を救うだけじゃない。こうして少しずつ、灯りを広げていく」


 エマが、窓の外の星空を見上げながら微笑んだ。


「なんだか、エルバンで初めてかるたを作った日のことを思い出します」


「あの日から、もうずいぶん遠くまで来たね」


 レオは、遠くに霞むエルバン村の方角を見つめながら、静かに呟いた。


「でも、まだ始まったばかりだ。ブライアーウッドだけじゃなく、この地方全体、そしていつか、王国全体に──」


「大きな夢ですね」


 ミアが、微笑みながら言った。


「うん。でも、エルバンの小さな寺子屋が、王都まで届いたことを考えれば、決して叶わない夢じゃないと思う」


 馬車は、夜の街道を、エルバン村へと向けて進んでいく。


 文字を学ぶという小さな灯りが、村から村へ、そしてやがて、グレンモア地方全体を照らす大きな光へと育っていく──そんな未来を、レオは確かに見据えていた。


 第五部「広がる灯り」は、こうして新たな一歩を踏み出した。




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