第63話 内務省への出頭
王都に到着した翌日、レオたちは内務省へと足を運んだ。石造りの荘厳な建物は、エルバンの村役場とは比較にならないほどの威圧感を放っていた。
「こちらでございます」
案内された広間には、既に書記官ウォレスをはじめ、数名の役人が待ち構えていた。奥の上座には、より地位の高そうな壮年の男が座っている。
「内務省次官、カーライル卿である」
ウォレスが紹介すると、カーライルは鋭い眼光でレオたちを見渡した。
「グリンウォード交易組合の不正疑惑について、証拠と証言を聴取する。まずは、証拠の提出から始めてもらおう」
ノアが緊張しながらも、丁寧に整理された証拠の束を提出した。カーライルはそれを一枚ずつ、鋭い目で確認していく。
「これは……確かに、筆跡の相違が明白だな」
「はい。ソルヴィン村にて確認された十九件の証文はすべて、後から不正な条項が書き加えられております」
レオが説明を続けると、カーライルは眉根を寄せながら頷いた。
「エルバン村での組合の不当な圧力についても、記録が残っているとのことだが」
「はい。こちらに」
ノアが、水車小屋の使用権を巡る一件や、教育振興の名目での不利益契約の記録を提出した。
カーライルはしばらく沈黙し、書類を読み込んでいた。
「……この件、我々が把握していた以上に根が深いようだ」
彼は顔を上げ、レオを見据えた。
「実は、グリンウォード交易組合について、これまでにも複数の地方から、同様の苦情が寄せられていた。だが、いずれも決定的な証拠を欠き、立件には至らなかった」
「決定的な証拠、ですか」
「そうだ。証文の改竄を証明する筆跡鑑定、複数件にわたる組織的な手口の一致、そして被害者自身による明確な証言──これらが揃わねば、貴族や大商人を相手取った訴えは、なかなか通らぬ」
カーライルは、机の上の証拠の山を見つめながら、静かに続けた。
「だが、此度貴殿らが持ち込んだ証拠は、その全てを満たしている。特に、この筆跡の相違を示す資料と、被害者本人──レイナ殿の証言は、極めて強力な材料となろう」
その言葉に、レオは安堵と同時に、新たな緊張を覚えた。
「では、正式な調査が進められるということでしょうか」
「うむ。此度の件は、王都にて公聴会を開くこととなる。関係者──貴殿ら、そしてバートラム殿、レイナ殿らには、証言のため出頭いただくことになろう」
「公聴会……」
ミアが、緊張の面持ちで呟いた。
「相手方、つまりグリンウォード交易組合も、当然弁明の機会を与えられる。組合長ダレン、そして辺境伯家の代理人モーガンも、召喚されることになるだろう」
カーライルの言葉に、レオは拳を握りしめた。
いよいよ、王都という舞台での本格的な対決が始まろうとしていた。
聴取を終えて内務省を後にすると、外にはガイウスが待っていた。
「どうだった」
「正式に、公聴会が開かれることになりました」
「そうか……」
ガイウスは、複雑な表情を浮かべた。
「レオ、公聴会には、当然のように貴族社会の耳目も集まる。グリンウォード交易組合は、王国内でも有数の交易組織だ。その不正が公になれば、影響を受ける貴族家も少なくないだろう」
「つまり、組合を擁護しようとする貴族も現れる、ということですね」
「その通りだ。……そして、その中には、もしかすると――」
ガイウスは言葉を濁したが、レオにはその先が理解できた。アルダート伯爵家もまた、王国内の貴族社会と無縁ではいられない。組合との関係が、家門にとって全く無関係とは言い切れないのだ。
「兄さん、父上は今回の件、どう思われるでしょうか」
「分からん。だからこそ──」
ガイウスは、王都の街並みの奥、貴族街の方角を見据えた。
「今日、屋敷に戻って、直接父上と話そう。もう避けては通れない」
レオは静かに頷いた。
ミア、ノア、エマも、緊張の面持ちでその言葉を聞いていた。
「レオ様……」
ミアが心配そうに声をかけると、レオは小さく微笑んだ。
「大丈夫。エルバンとソルヴィンで学んだことを、そのまま伝えるだけだ」
だが、その声にはわずかな緊張が滲んでいた。魔力なしとして見放された家族との再会──それは、公聴会という大きな試練を前にした、もう一つの避けられない対決だった。
夕暮れの王都の空の下、アルダート伯爵家の屋敷へ向かう馬車が、静かに動き出した。




