第8話 エリオの妖精
今日は約束した願いの手に行く日。
ニワトリ牧場の頭傷男が"日曜の朝"と言ってたので、その日。
別に近いから、行こうと思えば簡単にいけはするんだけど、約束させたし、妖精いるかもしれないし?ウキウキする。
「よしっ!」
準備して廊下に出ると、大部屋の戸の前でバツの悪そうな雰囲気を出している年少の男の子がいた。
「どうしたの?」
と無視するわけもいかず声をかけると、その子は悪いことをしたような表情と助けを求める声をあげた。
「リゼアおねえちゃ〜ん……」
粗相してしまっていた。
「あぁ、はいはい、大丈夫だからねー」
安心させるように声をかけて、着替えさせるための部屋まで手をつないで行った。
お風呂が一番良いけど、時間かかっちゃうし、お湯を持ってきて体を拭いてあげて、とりあえず着替えさせた。
みんなのところまで連れて行こう思って廊下にでた時、ギィロに声をかけられた。
「おい」
入り口で待ち合わせだったのに、ギィロが剣だけ帯びた手ぶらの準備完了?で探しに来ていた。
待ってたよね……
でもギィロと子どもを交互に見て思った。
まだあと洗濯と布団を干して……まだかかる。
子どもの手前、内容を詳しく言うわけにはいかない。
ギィロをこれ以上待たせるのも申し訳ないし、時間も経ってる。
全部終わってから行くと朝なのかなんなのか分からない時間になりそうだった。
「ごめんギィロ、来週で」
空いている手を縦に口元にあて、頭を軽く横に傾げ返事をした。
「そうか……」
ギィロは小さく子どもに視線を落としてから戻した。
理解を示してくれたみたいなので、私は男の子の手を引いてその場を去った。
――翌週――
「ごちそうさまぁ」
妖精を掴かまえるための良い感じのビンを手に入れたのだ。ジャムがいっぱい入ってたやつ。
ビンを空にするためにいっぱい塗ったのは内緒にしたい。
それを10歳の誕生日にもらった大切な鞄にしまっていざ出発だ。
ギィロの背中が入り口に見える。
妖精を掴まえたらみんなに見せよう……!
「リゼちゃん」
と、軽快な足取りを始めた第一歩目でマーニャさんに呼び止められた。
操馬者さんが一緒だ。
操馬者さんはお買い物用の清馬を操ってくれる人で、毎日朝に来てくれている人だ。
清馬というのは普通のウマよりすごいウマのことなんだけど、めちゃくちゃ流通していて普通は清馬が使われている。
操馬者さんは買い物にもついて来てくれるので、保護者を兼ねてる。
つまり、嫌な予感がした。
「ちょうどよかったリゼちゃん、ちょっとお買い物に行ってくれないかな?」
予感は当たってしまった。
「え、当番の子は?」
お買い物はできる人のなかで順番に回してる。
ギィロはできない人の方。
今日は私の番じゃない。
「熱出しちゃったのよ。代わりにお願いできない?解熱薬も買い足しておいてほしいわ」
「あ、はい、わかりました……」
そんなの断れない。
そんなんじゃなくても断れないかもだけど……
鞄を置いて、代わりに買い物用のカゴと買い物リストを受け取った。
しかたない、妖精は延期しなきゃ。
「ごめんなさいね、何か用事があった?」
「いえ、大丈夫です……」
操馬者さんと一緒に歩き、入り口で座ってあくびをしてる最中のギィロの背中に声をかける。
「おはようギィロ」
ギィロは振り返った。
「よう……それ」
ギィロは軽い挨拶と同時にあくびで潤んだ目を操馬者さんに向けたあと、視線を私の持つカゴに落とした。
「うん、これなの」
状況と延期の理由を最短で告げるよう、カゴを上げて見せる。
「そうか、忙しいな」
「一緒に行く?荷物持ち」
一応誘ってみる。
「いや……」
やっぱりそうだと思った。
私はカゴを持ち直して、操馬者さんの後ろについた。
「じゃあ来週ね」
――それから一週間――
妖精ってムシみたいな羽ついてるよね、網いるんじゃないかな……
ムシ取り網は倉庫にあったはず。
ムシなんて不味くて食べれないし興味ないけど、男の子は意外と捕るのが好きな子が多いし置いてある。
なんでこういうのを当日に思いつくのか。
急いで取りに行った。
「あったあった」
これでビンの入った鞄と網を用意した。
隙なし。
完璧。
と思ったのも束の間で、複数の子どもたちに囲まれてしまった。
「おねえちゃん遊んでー!」
「えぇ、今日は私……」
気づいた時には、網は子どもの手にあって、いったい誰がやったのか留め具を外された鞄も別の子が持っていった。
「あー!それはダメー!返して!待ちなさーい!」
「じゅう数えてから追いかけなきゃいけないんだよ?」
私の踏み出した一歩は鋼鉄のルールによって止められ、笑い声が散っていった。
私はその輪の中心に立ち尽くす。
「もう、どこ……」
追いかけっこと隠れんぼを同時に行うも、こんな時だけ目的の鞄の方の子が全然見つからない。
貰った鞄だし、ビンがないとダメなのに……って拘りで変に胸の奥が冷え、足だけムシのように無駄な場所を繰り返し探してしまう。
必死になってると逆に子どもたちは楽しそうだった。
今日は無理そう……
そう思いながら駆け回り、なんとか木の上にいる子を見つけて戻ってきた頃には、ギィロはどこにも見当たらなかった。
「はぁ……」
怒らせたかもと思い、ため息をついて部屋に帰った。
網はもう部屋に置いておこう。
夕方、ギィロは夕飯のときに現れた。
「ごめんギィロ、待たせちゃってたでしょ?」
「お前な……行く気あるのかよ」
呆れたように言われた。
やっぱり怒ってた。
「あるよあるある!でもなんかタイミング悪くて、しょうがないでしょ?」
ちゃんと行く気があることを語気で伝え、ダメだったのは誰のせいでもないし、同意を求めるように言った。
「遊んでたのにか?」
「遊んでたわけじゃないよ!」
「みんな楽しそうにしてたけどな?」
「荷物取られちゃってたの!ていうか見てたなら手伝ってくれても良かったじゃない?」
全然わかってもらえてなかったし、ギィロの気の利かなさに落胆する。
「知らねえし……」
「もう!まあ、別に急がないんだし、来週、ね?」
喧嘩してもダメだし、諭すように延期にした。
ギィロは言葉を使わず視線を外し、不満の残る表情と小さな頷きの連続で応答した。
――次の約束の日――
「……あっ、あれ、なにこれ??」
なんか、これって……マーニャさん……!
……少しして
マーニャさんから色々教えてもらって、色々貰った。
落ち着くまではゆっくりしてなさいって。
衝撃的な身体の変化に、少し不安を感じる……
「お〜い、いるんだろぉ?」
ギィロ……ちょっと部屋まで来ないでよ……っていうのは無理かぁ……
「ギィロくん?」
助かった。
マーニャさんが外で声をかけてくれてるのが聞こえる。
ホッとして、音を立てないように耳をそばだてた。
「あ、おはようございます」
「今日はリゼちゃんはお休みだから、またいらっしゃいね」
「ええぇ??」
「優しくしてあげるのよ?」
マーニャさん!気が利く!ナイスー!
って胸の前で小さくグーを作った。
「え、あ、はい……」
ギィロはわかってくれてるのかな?
ちょっと顔を合わせにくいかも……
……その日の午後
「ようリゼ」
「あ、おはようギィロ……」
気まず……
別に仕方ないことないんだけど、視線を外しがちになってしまう。
「おはようの時間じゃないし、何してたんだよ?来ないから迎えに行ったのに」
「え、ちょっとね……」
ごめんだし、わかってないし、説明できないし……返答に困ってしまった。
「体調でもわるいのか?そうならそうで言ってくれよ」
「あ、うん、そう。しばらく剣も休むよ。ごめん」
ギィロの言葉に乗っかる形にした。
体調不良は体調不良だもんね。
言われた通りちょっと優しくしてるつもり、かな?
「そうか……体調崩すなんて、お前他人のことばっかりしてるからなんじゃないのか?」
「それは関係なくない?」
ギィロがぜんぜんやっていない手伝いやお世話を、悪いことしてる風に言わないでほしくて、不満を含んだ言い方になった。
「あるだろ、自分のペースってのが」
「ギィロは自分のペースしか持ってないもんね?私これから仕込みの手伝いだけど、来る?」
みんな協力して暮らしていて、そうやって雪灯院は成り立ってる。自分勝手じゃダメなこと、わからないのかなって思う。
それをわかってほしいのと、どうせやらないのをわかってて意地悪な聞き方をした。
「いや……」
「次はきっと大丈夫だから、そんな文句言わないで待っててよね」
何もしてないギィロが私のこと責めれるわけないんだから、せめて待つのがギィロのやることだと思う。
「チッ……期待してないよ」
そう言ってギィロは頭を掻きながら、どこかへ行った。
……次の日の夜
今日は一日、ギィロに出会わなかった。
ご飯の時も居なくて、どこ行っちゃったんだろうか。
寝る前に考え事をした。
昨日はなんか腹立っちゃって、何あの態度って思ったけど、思い返すと私もちょっと嫌味な言い方をしていたかも……って反省する。
でも同時に、自分のことを棚に上げててデリカシーもないのはギィロでしょう?とも思ってしまう。
あぁもう、なんか感情が揺れすぎて何が正しいのか分かんなくなる。
私は頭の中を整理するのは諦めて寝た。
――そしてまた日曜が来た——
(来ないんだけど…………)
待てど暮らせどギィロが来ない。
待つ側になるとそわそわしてしまう。
ギィロが来るはずの廊下に誰かが通ると、あって思うけど違う人で、視線を落とす日陰はその度に角度を変えていく。
無駄な時間が過ぎていくと、なんだか勿体ない感じがしてくる。
部屋に行ってもいなくて、もう一度待ち合わせ場所に行ってもいなくて、結局時間はただ過ぎた。
思いっきりため息を残して私は自分の部屋に帰った。
体調も良くなったし、せっかく何にも邪魔されることなかったのに、なんでこんな日に限って来ないのか。
「もう!」
持ち物を乱暴にベッドに投げつけて、その隣に座り鼻息を荒げた。
「はぁ……」
また延期かあ……
ちょっとぷんぷんした後に、自分で散らかした荷物を片付けるのは虚しかった。
いいんだ。誰にも見られていなければ、怒ったうちに入らない。
落ち着け私。
……その日の昼
厨房の片付けをし終わった。
「ごくろうさま」と言われて、おだんごの入った袋をもらった。
「ふふん」
嗅ぐと袋の外からでも美味しそうな匂いがする。
厨房のお手伝いをするとたまにこういうことがあるから良い。きっとギィロは知らないことだろう。
袋をあけて覗くと二本入っていた。
うーん……
と考えた。
昼過ぎは庭で剣を持つことが多い。
ギィロに会ったら文句をつけて、どうせなんか言い訳をされる。
その後でおねえさんを発揮して許してあげる。
そうしたらおだんごを分けてあげるのだ。
そうすればきっと来週には願いの手だ。
まぁ、居ればだけど。
そう思って庭まで来ると、何食わぬ顔で女の子と居るギィロを見つけた。
木の下にある長椅子に横並びで座り、女の子はギィロの膝に手を乗せて、その上にギィロが手を被せてベタベタしている。
なぜ、そこで、なにをしているのだ……
いつからそこに居たのかは知らないけど、そんなくだらないことのために私はすっぽかされたわけ?と思うと信じられないし、わざわざこの時間にこの庭でなんて、見せつけようとしているのだろうか。
ふつふつと怒りが湧いてきた。
「ちょっと!」
ズカズカと歩き、充分声の届く距離で呼びかけた。
「あ……じゃあギィロくん、またね」
「あ……」
連れの女の子は片手を胸のあたりまで上げ、指を波打たせて私への挨拶とし、去っていった。
あの子は私より二つくらい上の年長さんで、楽器の演奏ができる秀才だ。
背が高く身だしなみも整っていて、メイクもしてる。
すっごく大人に見える……
彼女が通って起きた柔らかな風は、気温が一度くらい下がって感じるような爽やかな香りがする。髪だろうか。
私が通ったところは甘ったるくて美味しそうな匂いがすることだろう。
とか思いながら、立ち去るその子を視線で追って、それからギィロを睨んだ。
ギィロも不機嫌そうな顔をしている。
すでに私は、責めることしか頭になくなっていた。
「『あ……』じゃないでしょ?ねえ?ギィロが居ないのは違うんじゃない?!」
私はふてくされた態度のギィロに指をさして抗議した。
「なんでだよ、俺がこれまでどんだけ待ったと思ってんだ」
「それがなんで今日いなくても良いことになるの!?私だって待たされたよ!ギィロはいつも暇してるくせに、待てないならせめてなにか手伝ってよね!」
なんで言い返すことができるのか、私は目を見開いて一気にぶちまけた。
「俺だって忙しいんだよ!」
「女の子追いかける他になんかしてるわけ?!」
「そうだよ!お前だってこないだ部屋にいたのに出てこなかったろ!」
「それは……体調不良だって言ったでしょ!」
「そんな風にみえなかったけどな」
「なに?優しくしろって言われてたくせに!」
ちょっと涙が溢れそうになった。
「してただろ!」
「うそ!もういいよ!手伝いもしないし、待っててもくれないなら一人で行くから!」
「そっちの方がいい」
「約束したのに!バカギィロ!」
癖で私は涙をバレないように大きな声を出すと同時に、おだんご袋を投げつけ、すぐに後ろを向いて逃げるように離れた。
信じられない。
どんだけ自分勝手なの。
あー腹が立ってどうにかなりそう!
――決行の日曜日——
ニワトリ牧場から一月以上経った、暖かくて風が強い日。
今日は約束した願いの手に行く曜日だ。
でも一人で行く。
ギィロはいつも暇そうにぷらぷらしてるくせに、手伝いもしないで私を責める権利なんてあるわけない。
楽しみにしてたのに、全然楽しくなくなってるのもギィロのせい。
ぜっったい妖精を掴まえてわからせてやるんだ!
ビンの中でちょこんて座る妖精を、ギィロはバカみたいに口を開けて見ることになるんだ!
――
雪灯院を出て北門から外に出る。
さらに北に向かい、古くて外れそうな柵に手を置き、申し訳程度にこしらえてある段に足をかけて、緩い坂道を登っていく。
もう少しで願いの手に着く。
もう目的地を目視できる頃だと思い、顔を上げて先を見ると、青い空を背景にして小さくギィロの背中がみえた。
「はぁ……来てたんじゃない、言ってよね……」
呆れと、なぜかホッとした気持ちがごちゃ混ぜになって、文句が口から飛び出た。
ため息と一緒に怒りも吐かれ、ギィロなんだしまあいっかっていう気持ちになった。
「ギィロぉ、来るなら来るって……」
声を掛けるとギィロは半分振り返った。
「リゼ……ここ、本当にいるぞ……」
私を遮ってギィロは即座に言った。
その声音と表情は、それがイタズラではなく本当のことなのだと感じられた。
「えっ?妖精?いたの?どこどこ?」
私は突然の衝撃的な言葉に興奮して、妖精について正直半々だった気持ちが確信に変わり、咄嗟に網を構えた。
「いや、声だけだ。行ってみろよ」
そう言ってギィロは、何故か握っている剣を腰にしまってから下がり、道をあけた。
岩肌の先の視界がギィロの分だけ開け、広い空と雲と山が目に飛び込んでくる。
「声だけ……?」
少し残念に思って、網を構えた腕は下がった。
でも具体的な情報に好奇心は止まらず、「気をつけろよ」という注意を背中で受け止めながら、私は道に突き出した岩肌までゆっくり歩を進めた。
岩肌の先端までくると景色は一変する。
風で視界を遮ろうとする髪を片手で抑えて、見渡せる限りを見渡す。
以前来たとき雪に覆われて白黒だった盆地は、まだ少し残っている雪と若々しい青葉の、生命を感じる色に変化していた。
前方に足場がないと、空を飛んでいるような視界になる。
風が通り抜けて、エリオの口が低く叫んでるように聞こえる。
自然の壮大な光景に息を呑んでしまい、何をしに来たのか一瞬忘れていたが、すぐに思い出して目をこすった。
妖精は、少なくとも見える範囲には居なかった。
そうだ、お願い事をしなきゃ。
願い事願い事……
ここに来て、供え物も持ってきてないし何を願うかも決めてなかったことに気づいた。
私はぜんぜん完璧じゃなかった。
ええっと……
と目をつぶり考え始めたそのときだった。
周囲の音がふっと小さくなったような感覚があった。
——はやくしてくれない?おそいんだけど
(え!?)
聴こえた。
本当に聴こえた!
心にまで響いてくるかわいい声。
妖精だ……!
驚いて目を開き顔を上げるけど、姿はどこにも見えなかった。
——おまえもちょっと面白くなりそうな人間
また聞こえる。
勘違いではない。
神秘的な場所と奇妙な声に、まだ現実との区別がつかず、キョロキョロが止まらない。
——どうせ剣の願いでしょう?おまえも必殺技が欲しい?
声は語りかけてきている。
もう間違いない。確実だ。
私はほんの少し判断力を取り戻し、一瞬ギィロの姿を視界に捉えてから声に応えた。
「私は……ギィロを超えたい……」
ほとんど考える暇がなかった。
届きそうにない傍にある壁を思い出し、咄嗟に思いついた願いを、ギィロに聞こえないよう小声で口にした。
——ふぅん。むりそー……でも才能があるのはわかってるでしょ?努力次第だね〜
「努力次第……」
——はい、おわり。あんまり面白い願いじゃなかったね
「どうすれば良いんですか……?」
具体的な方法を知りたくて追加の質問をするも、それから声は聞こえなくなり、声のような風の音が響くだけだった。
興奮していて、諦めきれなくて、また辺りをキョロキョロするけど何も居ない。
膝をついた四つん這いで身を乗り出して下を覗いてみるけど居ない。
「おい!!危ないぞ!」
ギィロが声をかけてきて、その格好のまま顔を向けた。
手を伸ばしている。
何を言われてるのか理解して、ギィロの手を取ると、強く引かれて戻った。
「ギィロ!!いたよ!聴こえた!妖精いたんだよ!!」
興奮していて、ギィロとの距離に対して声の大きさがおかしくなっていた。
「いたな、ホントに。信じられないよ……」
ギィロもどこか嬉しそうな表情をしている。
「だから言ったでしょ?聴こえた聴こえた?あはは、あははは!」
「聴こえたよ……はは、はははは!」
私たちは、聴こえた、すごい、と非日常な出来事を体験して、それしか出来ないように笑い合った。
――
「あ~あ、ホントだったんだぁ、不思議ぃ……」
一呼吸置いて、つぶやいた。
「リゼは何を願ったんだ?」
「え、内緒、ふふふ。ギィロは?」
本人に向かって言えるほどの度胸はちょっとなくて誤魔化した。
「大したことない、役に立たないな」
とギィロは視線を一瞬上空に向けて答えた。
「でもリゼが言わないなら、俺だって言わない」
「ズルくない?」
「ズルくない」
あれ、でも分かるかも……声の妖精が言ってた……
知らないフリしといてあげようかな。どうせ後で見せてくれるでしょ。
って気を利かせてあげることにした。
おねえさんだし。
「頭傷男に勝てますよーに。かな?」
「あいつになら願わなくても勝てるよ」
「負けてたくせに」
「俺のせいじゃないって前にも……いや、ごめんなんでもない」
「?」
人のせいにしないでってほとんど言いかけたけど、ギィロも気を利かせてくれたのかな、そのままにした。
「それにしてもリゼ、なんだよその網?」
「えー?掴まえるためだよ」
「そんなんで掴まえられるのかよ」
「できるでしょ?ほらコレもあるし」
自信たっぷりに鞄からビンを出してみせた。
「なんだよそれ!?ははっ、正気かよ!あはは!」
「えー、ダメぇ?ねぇそんなに笑うことなくない?」
「だって、網にビンって、ははは、笑うだろ!ムシか?あははは!」
「そうかなぁ、へへ、あはは」
真面目に用意したのに笑われて、でも全然悔しくなくて、変だったかもって思ったのと、すごい笑ってるのを見て、一緒になって笑った。
・
「それ持ってやるよ」
帰り、ギィロは長い網を持ってくれた。
バッ!
「掴まえたぞ!妖精!」
「バカにしてるでしょ?」
掴まえることも見つけることも出来なかったけど、妖精の声が聴こえた事が嬉しくて、帰りの足取りは軽かった。
それにしても努力次第かぁ……
手頃な枝を拾い、全属性の纏いを乗せて空を斬ると、虹の軌跡がわずかに残る。
がんばらないとっ!
ギィロはその様子を黙って見ていた。
「じゃ、またあとでね」
雪灯院に戻って部屋に帰ってからは、興奮の余韻に浸っていた。
でも、落ち着いてから思った。
仲直りできて良かった。
ありがとう、妖精さん。




