第7話 初めての依頼!ニワトリ牧場
街の中央に開拓者組合の本部がある。
今日は朝早くからそこに行って、私とギィロは開拓者組合に登録した。
別に開拓者になりたいわけじゃないんだけど、登録しておくと依頼が受けれるから、そういう使い方をしてる人は多い。
むしろそっちの方がずっとずっと多くて普通だから、本物の開拓者は尊敬されて期待される存在だ。
私たちのようなただ働くために登録してる人の事は"サイド"とか"端稼ぎ"とかって呼ぶ。
組合への登録に年齢制限はない。身分が証明できれば誰でも登録できる。
11歳の2月だ。私たちはサイドとして自前で小遣い稼ぎができるようになった。
ミケウ以外の街では孤児は登録できないってマーニャさんが言っていた。路上生活では住まいや滞在拠点の証明ができないことが多いからだって。
ミケウ以外に孤児院というものは存在しないのだ。
どうやって生活しているんだろう。
登録したら手の平くらいの札をギィロと合わせて六枚貰った。
コーティングされたホワイトウッドの土台に薄い白雪鉱の飾り板がくっついてる。割と頑丈そう。
「じゃあ説明しますね、ちゃんと聞いててくださいよ?」
札を受け取りしげしげと見ていたら受付のおねえさんの説明が始まった。
飾り板はミケウの杖みたいな紋章の形に変形した版が押されている。偽造防止だって。
バンッ!て叩きつけるようにすると依頼板にくっつくギミックがある。
札の下側には穴が空いていて、大きな功績をあげると、その依頼内容によってリングだったり飾り紐だったりが付くんだって。いっぱいついてたらすごい人ってこと。
ミケウの登録証なら世界中で使えるらしい。けど今のところミケウを出る予定などない。
六枚は、自分の名前が書いてある緑の線が付いた受注札と赤い線の確認札。
とそのパーティ用が二枚で、併せて六枚。
ギィロと二人で受ける場合はパーティ用を使う。
パーティ名は『ミューレ』
「群れにするか?」とかギィロが言うから、あり得ないと思って、ムレの発音を崩して考えた。
受注札を依頼書に張り付けると受けたことになる。
終わったら確認札に掛けかえる。
完了時に依頼番号を伝える必要もないが、伝えておくと受付のおねえさんは嬉しいそうだ。
任務の完了を確認できたら終了となる。
報酬の受け取り以外でいちいち受付とやりとりする必要はないが、誰が何の依頼を受けているかの把握はしているため、到底無理な依頼を受けたりイタズラはしないこと。
など、他にもいくつか言っていたけどだいたいそんな説明を受けた。
「うわあ……」
札を握りしめ、本部にあるおっきい絵とおっきい地図をギィロと眺めた。
絵は、誰なのかわからないけど剣を持ったミケウの衛士の制服姿っぽい男性だ。街と雪山を背景に、掲げる剣が太陽の光を受けて輝いている。
地図は本格的な地図ではなくて、シンボルと名前が一杯ついてる大雑把なもの。簡単に付けたり外したりできるやつ。
「あれがミケウでしょ、あと中央街、ゴルドラ、アーカイ、ノクタリア。わかる?」
そこに大きなシンボルが付いてる。
「わかるよそれくらい」
五大英雄が興した街だ。歴史で習った。
ノクタリアは街じゃないんだっけ?
ミケウはかなり北の方。寒いもんね。
眺めてるだけでも、まだ行ったことのない世界が確かに存在している気がして、なんだかワクワクした。
「ねえこっち!依頼板」
「はしゃぐなよ」
「はしゃぐでしょ?」
依頼は依頼板にカテゴリー分けされて貼られている。
文字を追っているだけで、頭が少し疲れた。
大カテゴリーは公共・私的・探索に分かれてる。
公共依頼は報酬はそれほどだけど数が多い。
めちゃくちゃ多いのは街道整備。
街をつなぐ道は誰にとってもとにかく大事ってこと。
ケモノの討伐依頼も公共が多そうだった。
依頼を出されるほどのケモノは比較的危険だから、公共でも報酬は良いみたいだ。緊急のマークがついてるやつはその中でも特に報酬が良い。
一年以上放置されている依頼は端に寄せられ、紙も小さくてまとめられている。意外と多い。
「あ、これ」
「それか」
その中に白影の討伐依頼書を見つけた。緊急ではない。完了するとリングが貰える印が付いている。
白影砦は街道の要所だったけど、避けて別の道が作られた。もう使われていなくて、普通、用の無い場所になった。
「いつか、こうだな」
ギィロはミューレの札を依頼書にそっとあてた。
いつかこの依頼書に、ほんとにそうやってミューレの札を掛ける日が来るかもしれない。
「うん」
そう思っただけで、胸の奥に少しだけ熱いものを感じた。
私的依頼はもう内容がめちゃくちゃ。
掘り出し物の依頼を見つけたいならともかく、ひとつひとつ読むより受付の人にオススメを聞いたほうが早いって。
警備とか護衛、採集系なんかが多い。討伐もある。
特別な技能が必要なのも多い。彫刻とかモデルとか。
色々。
一番危険で本格的なのは探索系。
未踏破の地域や異常現象が確認された場所の調査報告。
本物の開拓者の本分だ。
探索は依頼として貼られていない地域を勝手に後から報告することもできるそう。
神器が発見されると大騒ぎになるカテゴリーだって。
小カテゴリは名指し依頼でつかわれる。依頼の続きが発生した場合とか、特別な理由があるときに使われるみたい。
名指しされるなんてカッコいいかも。
依頼はものによって受けられる人数や年齢などに制限がつけられている。
初心者は複数人で受けられる警備か隊商護衛なんかに混ざるのが良いってオススメされた。
先輩がいるし、何も起きなくても報酬がもらえる。
依頼板には札がいくつもくっついてる。
もらったミケウの札と同じものが多いけど、別の形のもある。別の街発行のやつだ。面白い。
討伐カテゴリーにリングが三つもついてる『ワンショット』っていうパーティ札がかかってる。たぶんすごい人たちだ。
「貸してくれ」
と言うので、ミューレの受注札をギィロに渡す。
「なんかあった?」
と聞くと、ギィロは応えもせずにバンッ!と、"ニワトリの世話"とかいう私的依頼に貼り付け、得意げな顔をした。
場所は西タッテム区。
タッテムさんの地域の西側だから西タッテム区。
ミケウは地区名が領主の名で呼ばれる。
だからみんな領主の名前を知ってる。
人が変われば地区名も変わる。分かりやすい。
よくタッ区って呼ばれる。
「え?なんで?遠くない?」
しかもニワトリの?ギィロが?笑える。
「いいんだよ」
けど安全そうだし?時間はあるし?初めてだし?
まあいいかと思って行ってみたら納得したし呆れた。
・
『ニワトリ牧場』
という名前の賭博場だ。
私たちはそこに来ていた。
なんでこんなところ知ってるの……
いっぱいいるニワトリの世話はホントだったけど、ギィロは適当にほっぽり出して、中で真剣になってる。
ため息が出た。
外で一人で作業するのも嫌だったから、せっかくだし私もつきあった。
「はじめに二枚の手札を貰ってな……」
簡単にルールを教えてもらって何回か見た。ぽーかーって言うんだって。
やらないけど見てるだけでも意外とドキドキして面白い。
こういうところに来るのは初めてで、ギィロから離れてうろうろしてたら飲み物を頼めるところがあった。
「ほらよ嬢ちゃん」
「え?いいの?」
へぇ〜って見てたら中のいかついおじさんがミルクをくれた。ストロー付き。
子どもだと思ってからかわれたのか知らないけど、ラッキー。
戻って飲み物を片手に、ギィロの後ろで手札を見せてもらってくつろいでる。
さっきからずっと頭に傷がある男と対戦してる。
みんな真剣だから、静かに見てないといけない。
――フロップ
テーブルにカードが三枚置かれた。
その三枚と手札の二枚、後から追加される二枚のうちの五枚を使ってなんとか役を作らなければならないのだ。
良い手札なんだけど、あんまり良い手になりそうもない。様子見したほうが良い気がするけど、あの頭傷男けっこうブラフしてくるんだよねえ……
「レイズ……」
ギィロは掛け金を上乗せした。
嘘でしょギィロ……!よく強気になれる……
「……いいのか兄ちゃん、失うぞ?」
頭傷男が探りを入れている。
「どっちがだよ?」
「コール」
頭傷男はギィロが上乗せした掛け金に乗った。
わ〜緊張する〜……チュ~……
このミルク美味っ!果汁入れてくれたのかな?
――ターン
テーブルにもう一枚カードが追加された。
追加された一枚を含めて、やはり五枚でなんとか役を作らなければならない。
「……レイズ」
ギィロはさらに上乗せした。
バカギィロ、なんにも揃ってないのに……!
勝負するの今じゃないでしょ……チュ~
ミルク美味っ。
「……俺には、兄ちゃんの手が見えるようだよ」
また探りを入れている。
「……ブラフだろ?」
「そう思うか?……オールイン」
頭傷男は持っているチップをすべて賭けた。
えーヤバいってヤバいって……チュ~
ていうかほんと美味しい。
「……オールイン……」
ギィロも乗った。
あーあ……
――オープン
二人の手札が公開された。
「はっはー!言っただろうが?」
「まだわからないだろ!」
頭傷男は役ができている。
ギィロは何もできてない。
これで勝ったら奇跡だね〜……チュ~
――リバー
テーブルに最後のカードが一枚置かれた。
「俺の勝ちだ」
「あ~~……くっそ……」
奇跡は起こらなかった。
あーあ、ギィロ負けちゃって。
せっかく依頼受けたのに水の泡。
私ギャンブルなんて絶対や〜らない。
「兄ちゃん、こんなとこに女連れで来るもんじゃねえよ」
「ええ?……はぁ、そっか……次は勝つよ」
何こっち見て、私のこと?
別に関係ないでしょ……チュ~、チュッチュ
無くなっちゃった。
「腐らないのは良い根性してる、気に入ったよ。兄ちゃんそうだ、願いの手って知ってるか?」
「ん?うん、知ってるよ」
私も知ってる。ていうか雪灯院に近くて連れて行ってもらったことがある。
「いい景色のとこだよね?」
口を挟んで聞いてみた。
「ん、そうだな。でも景色だけじゃねえ。最近妖精が出たらしい。全財産失ったやつが、そこで祈ったら取り戻したって話だ。ここいらで話題になってる。願掛けにでも行ってみたらどうよ」
えっ、妖精見たい。面白そう。
それはちょっと本気で見たい。
期待を込めた目でギィロの顔を覗いた。
「そんなもん……」
なんで興味ないの……
「別に損はしねえだろ、暇があんなら行ってみろよ。日曜の朝が良いって話だな」
「気が向いたらなあ。また来るよ」
ギィロが立ち上がって席から外れる。
私はそれを通すために半歩ズレた。
「待ってるよ……お嬢ちゃん!俺から贈り物だ、ヤシのお菓子だよ、この辺じゃ珍しい」
「えっ、ありがと、また来るね、コイツが」
頭傷男からお菓子を受け取って、ギィロを指さした。
「はっは、お嬢ちゃんも来てほしいねえ」
ごきげんな頭傷男は両腕を広げたオーバーアクションで言った。
「私はいいよぉ、興味ないかも。見てるのは面白いけど」
なんか雰囲気にのまれて、私も両手を使った無理無理ヤダヤダと、手筒を眼に当てた少し大きめのリアクションで返した。
「そうか、残念だね」
頭傷男は薄い笑いを浮かべながらチップをまとめ始めた。
「お菓子ありがとね〜」
軽く手を振ると、視線は返されずに片手で挨拶をされ、二人で外に出た。
・
「コケー、コッケッケッ」
途中だったから残ってる作業を二人で片付ける。
負けてこれじゃ、すごい惨め。
ニワトリの鳴き声も、なんとなく笑われてる風に聞こえる。
「負けちゃったじゃない。ホントバカみたい」
私のお金じゃないけど、無駄な時間とお金がなくなって、手を動かしながら文句を言った。
「リゼ……お前、顔に出すなよな」
ギィロは武器になりそうな道具を地面に刺して文句を言う。
「はあ?人のせいにしないでくれない?ていうか手止めないでよ、帰れないでしょ」
「まったく、ポーカーフェイスが必要なんだよ、やれば分かる」
役立たずは動き出した。
「なにそれ?やらないよ私は……ねえ、今度願いの手に行こうよ」
視線を送らず声だけを飛ばす。
「占いだろ?くだらない」
ギィロも同じように返す。
「願いの手は占いとは違うでしょ?行こうよ」
「なんになるんだよ」
「勝てるかも?」
「そんなんで勝てたらな……」
「え〜いいでしょ〜?妖精見てみたいし」
「それか、いるわけないだろ」
「夢なさすぎ、子どものくせに」
ギィロの様子をチラッと見る。
ちゃんと働いてるのを確認した。
「同じだろうが」
「一つ上のおねえさんなんですけど」
声だけのやりとりで、しばらくちゃんと仕事した。
「……あー、帰りの、馬代なん、だけど……」
ギィロが唐突に歯切れの悪い声をあげる。
作業の手を止め視線を送ると、下を向いてちまちま作業するバツの悪そうなギィロがいた。
「は?ほんとに全部使ったわけ?」
後先考えないとか意味わかんなかった。
この建物には依頼者本人がいて、仕事が終われば依頼確認になる印を貰える。だから本部までいけば報酬は貰える。
でも本部までの移動は自腹。
未成年だから安いけど、無料ではない。
「うるさいな……全部賭けることに意義があるんだよ」
堂々と反論してきて開いた口が塞がらない。
そこにはすごいダメ人間がいた。
「バカギィロ……歩いて帰ったら?」
私は突き放すように言った。
けど別に見捨てる気はなかった。
簡単に頷くよりは一旦意地悪をしたかった。
「ココ西タッ区だぞ、頼むよ……」
私は顎にグーを当てて、「うーん」と少しわざとらしい仕草をした。
無条件だと私の価値が安くなる気がする……
いいことを思いついた。
「歩いたら夜になっちゃうね〜、朝になっちゃうかも?……願いの手」
勝ちを確信した私は、小さな子どもに語りかけるような抑揚とニヤリ顔で呟いた。
「わかったわかった、行くよ……」
私の攻撃は通じた。
ギィロは諦めて、全身でため息をつくように受け身を取った。
「へへっ、今度ね。ていうか貸すだけだからね?これの報酬から引くよ?」
後で奢りだと思ったとか言われるのは嫌なので、ちゃんと言質をとる。
「わかってるよ」
ギィロとは折半だけど、お金はできるだけ私が管理したほうが良いかも……って思った。
・
本部で報酬をもらって帰路についた。
交通費とか食費を考えたらほとんど手元に残らないような額。
でも、初めて自分で稼いだお金だ、嬉しい。
「おいしいよこれ、はい」
帰りにもらったお菓子をあけて、ギィロにも一つ分けてあげる。ビスケットだ。
「うん、いける。南国の味がするなあ」
組合で地図をみた限り、ずっと東の方にあるアーカイが大きな街の中では一番南だったかな。
南国ってほどでもないけど、遠すぎ。
「南の方に行ったことあるの?」
ビスケットを口に運びながら、ないと思うけど一応聞いた。
「ミケウから出たことないな」
やっぱりだった。
「行ってみたいねえ、他の街」
別に深い意味もなくなんとなく呟いた。
けど、知らない土地に知らない文化、見たことないものに食べたことないもの、絶対楽しいに決まってる。
「えっ?あぁ、そのうち……」
ギィロはちゃんと聞こえなかったのか、聞き返すようにしてから返事をした。
あんまり乗り気じゃないのかな?まぁそうだよね、今は。
・
雪灯院に帰ってきて、私は疲れた体を休めた。
せっかく初めての依頼だったのに、ギィロのせいでなんだか不真面目な目にあってしまった。
雪灯院での生活は暇ではないから頻繁には組合にいけないだろうけど、楽しみが一つ増えたって感じがした。
疲れたけど、それは一つ大人になったみたいで、気持ちの良い疲れだった。




